■リヴァイアサン大祭2013『想いを見つめる日』
リヴァイアサン大祭。エルフヘイムではその日、水の星霊が空を舞い、各地で様々な神秘的な光景をもたらす。今日は年に一度の、そんな特別な夜。
街も賑わい、人々にも笑顔が溢れていた。広場の中央には、全体がきらきら輝く一際大きなツリーが一本、存在感を示している。
そんなツリーを背にしてレテイシャは一人、そこに佇んでいた。
それは大祭の夜を共に散歩をして過ごす、オルタとの待ち合わせだった。
「早く来すぎちまった、かな……」
沢山の人々で活気づく広場には、彼女の小さな呟きを拾う者はいない。何気なく見れば、辺りには二人組の男女が否応にでも目に付く。
そういえばこの祭りは、パートナーとの絆を確かめるものだっただろうか。半ば知らず知らずの内に、レテイシャの指は胸元のペンダントを弄っていた。
……それは、いつかの夏にアクエリオでオルタに貰ったペンダントだ。
――最初は可愛い顔立ちなのに、生意気な感じな所に興味を持った。
話してみれば、それが大人ぶろうとする所からだと知り、可愛く感じた。良く会いに行くようになったのも、そんな可愛さを見たかったからかもしれない。
そして色々な場所へ一緒に遊びに行ったり、戦いを共にしたりするようになっていた。
しかし、そのうちにずっと彼を目で追う自分に気付いた。
今まで可愛く思っていた彼の目を、意識するようになっていた。
いつしか、彼が自分とは全然違う、女の子らしい他の少女と話しているのが気になってきていた。
この自分の感情の流れは、一体何なのか。レテイシャも、感じ取っていた。
けれど、気付いたその気持ちを自らが否定する。もう恋に恋する年頃でもない。女だてらに傭兵業界という男社会に身を置き、勝気に一人突っ張ってきた。その上、綺麗な身でもないとさえ思っている自分だからこそ。
(「何を年下に熱あげてんだ」)
レテイシャはそう思っていた。年上の自分は彼のことを生意気で可愛い、と思っていたはずだ。
そう自分に言い聞かせて来た。だがそう言い聞かせていた理由は、一体何なのか。明確な答えは彼女にもまだないように思える。
「あ……」
人混みの中、慣れた銀髪を捉えてレテイシャの思考が止まる。
――オルタだ。
レテイシャが気付くとほぼ同時、オルタもまた彼女の姿を見つけたようだった。彼女の方へと足を向け、真っ直ぐに歩いてくる。
たったそれだけのことだった。
けれどその瞬間、レテイシャの胸は高鳴り、さらに血液が一気に顔に集まる。頬が、顔が熱い。
理由なんて、もうわかっていた。……もしかしたら、それはもっと以前からだったのだろうか。
「あぁ、もう……認めるしかねぇな……」
レテイシャはぼんやりと、呟いた。
ため息交じりに。そして、諦めたように。
「完全に、ヤラれちまってらぁ……」
特別な日に、見つめた想い。
その想いを胸に彼女と彼が過ごす時間は、もうすぐ。