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2人でリヴァイアサン大祭

アルペジオ・ナテリアーナ
雲外蒼天・ヴァリオ

■リヴァイアサン大祭2013『片隅のShall We Dance』

 賑やかな歓談の声、軽やかな音楽が聞こえる。
 ホールの入口からでも伝わってくるパーティの空気に、青のナイトドレスをまとったナテリアーナも少し息を呑んだように見えた。
「ナテリーさん、もしかして緊張してる?」
 隣にはフォーマルな衣装に身を包んだヴァリオがいた。心配するように見つめられ、ナテリアーナは首を振る。
「いえ、大丈夫です」
 日頃の感謝を込めて、とこの場に誘ったのはヴァリオだが、承諾したのはナテリアーナ自身だ。申し出を受けた以上は、と意気込んではいたが、周囲の視線が気になって仕方がない。
 大きく開けた胸元、そして白い背中を恥じらうように、ケープを押さえる。
 ――いつしかリズミカルな曲は終わり、静かな曲調のメロディがホールに流れ始めていた。
「す、すみません」
「大丈夫。落ち着いて」
 ナテリアーナも踊れない訳ではない。ただいつもより露出の多い衣装への恥じらいがあって、ややぎこちない足運びになっていた。もしかしたらそれは、重なる片手、そして腰に優しく添えられた掌の感覚もあるのかもしれないが。
 だが、ヴァリオに動じた様子は見られず、優しくリードしてくれていた。その事が、少なからず彼女を安堵させていた。
 ヴァリオも緩やかに肩を揺らしながら、また考える。
(「楽しんで、くれてるかな」)
 たまには華やかな舞台で楽しんで貰いたい。そうして彼女が身の内に秘めるコンプレックスを少しずつ解消し、自信を持って欲しい。ヴァリオはそう願っていた。
 時折感じる過剰な視線からは、自らの背を向けるようにして動き、彼女を庇う。だが、踊りながら自然と頬を寄せ合っても、時折彼女は顔を背けてしまう。それはきっと、彼女の左目を走る大きな傷の所為だろう。
 ――それでも、彼女はこの会場にいる幾多の着飾った貴婦人達にも決して劣らないパートナーだ。
 思うと同時、ヴァリオはただ触れていた手を強く引き、彼女の細い身体を軽やかに跳ねさせた。長い青のドレスの裾はふわりと大きく舞い上がり、小さく床を叩いてナテリアーナは地に降り立つ。
 周囲からの刺さる視線は、先刻とは違う羨望のものに変わっていた。
「っ……」
 大胆なリードに慌てるナテリアーナ。彼女とてヴァリオのことは決して嫌いではない。むしろ、好意に近いものを持っている。だが、男性に対してそれ以上の想いを抱けないのだ。
 それでもただひとつ、彼がいい人であること。それは信じても良いと思っている。そして何より、
(「……楽しい」)
 強張っていた心も、いつの間にか溶けていた。
 
 やがて、僅かな余韻を残して音楽が止まった。
 ヴァリオは大貴族の出自らしい丁寧な礼を返す。そして、もう一曲、と紳士的にナテリアーナへ掌を向けて見せた。
 もしかしたら、一拍の間があっただろうか。だが、彼女は差し伸べられた手に、もう一度自らの手を重ねた。
 もう少しだけ、この時間を過ごすために。
イラストレーター名:coto