■リヴァイアサン大祭2013『寒い夜も二人で居れば暖かい』
「ん? 震えてる?」「さ、寒いから……」
その言葉は嘘だと、フタヴは見抜いていた。
暖炉には火が燃え、毛布も二人の体温で暖かい。むしろ、室内の温度は汗ばむほど。
が、フタヴの腕の中のジニャンは、震えている。
(「……緊張、しとるみたいやな」)
ジニャンの様子を見て、フタヴはそっと思った。
今宵は、リヴァイアサン大祭。この日、二人は決意していた。
フタヴとジニャン。二人が恋人同士になったのは、ジニャンが未成年だった頃。
以後、ずっと交際しつづけて……。ジニャンが成人してから、初めてのリヴァイアサン大祭である、今宵。
二人は決めたのだ。今日、お互いに……一線を超えると。
「どーしたジニャンちゃん、ひょっとして怖いんかな〜? おにーさんにまかせなさいって」
不安そうに見えるジニャンに対し、わざとおどけた言葉を発してみる。
「もー、ジニャンちゃんがこんな事で怖がるわけないよー」
……と、普段だったら、ジニャンは笑いながら答える。
が。
「……そうじゃなくて……その、ちょっと………」
代わりに帰ってきたのは、恥ずかしそうな声。
いつもの自由奔放で、何か悪巧みを考えているような含み笑いは無い。あるのは……一人の少女の姿。
「……ジニャン」
フタヴはそんな彼女を、安心させるようにゆっくりと抱きしめた。ジニャンの匂いが伝わってくる。
「……大丈夫か?」
「……うん、もう……大丈夫」
その言葉通り。しばらくすると、彼女から震えは消えた。
「……恥ずかしい、けど……なんだか、嬉しいよ」
ジニャンの顔が、視線が、フタヴへと向けられた。頬を赤く染め……その顔に浮かべるは、安堵の表情。
「……随分と、待たせてもろたな。その分……嬉しさも、いっぱいや」
自分の顔から、おどけた笑みが消えていくのが感じられる。代わりに出るは、ジニャンに対する真摯な想い。彼女を愛しく想う、優しくしたいと想う気持ち。
「私も……なんだか、嬉しい……」
ジニャンの身体から力が抜け、身を寄せてきた。まるで……フタヴに全てを任せるかのように。
そんな彼女の髪を、フタヴは愛しげに撫でる。
大事なジニャン、大切なジニャン。だからこそフタヴは、安易に一線を越えたくなかった。
けど今から、その越えなかった一線を越える。より大切に、大事にするために。
情欲もあるが、それだけではない。それとともに募るは、彼女をより知りたい、一緒になりたいという気持ち。
その気持ちを伝えたかったが、言葉が出てこない。
「……好きやで」
代わりに出たのは、その一言。
そのまま、ジニャンの顎に手をやり、自分の顔へと向けさせる。
(「……これからも、ずっとよろしくね……?」)
瞳を見ていると、彼女の想いが伝わってくる。
(「ずっと、一緒や。ずっと、な」)
言葉にせず、視線でそう伝えた。
月明かりからの二人の影が、部屋の中に伸びる。その影が一つになり、ベッドの上に倒れ込んだ。