■リヴァイアサン大祭2013『可愛い子へ聖夜のプレゼント』
クィは、いつものパジャマを着て、いつものように髪をしっかり乾かして、ベッドに入る。「おやすみなさい」
足元にある、もこもこのうさぎさんスリッパに寝る前のご挨拶。
(「今日はなんだか胸がドキドキする……」)
いつもと同じ夜なのに。
今夜は特別。枕元の明りだけ小さく点けて、ベッドの端に赤い靴下を片方だけ吊るした。いい子には、その靴下の中にプレゼントが貰える日だから。
とある有名な聖なる夜の伝説がある。赤い服を着たおじいさんが、トナカイの引くソリに乗って、子供達にプレゼントを配る、というもの。そのプレゼントは枕元にある靴下の中に入れられるのだ。
(「真っ暗だと転んじゃうかもしれないですし……」)
そんなドキドキが少女を包む――。
「よし……!」
パルは、赤い服――伝説のおじいさんのような服を着込み、姿見の前で自分の姿を確認する。
この服は、今晩の為に、こっそり用意していたものだ。
楽しみにしているであろう、愛らしい良い子の為に――。
静かな夜の中に踊りだす。ぽつぽつと明かりの灯る村を抜け、良い子の眠る家を目指して。
目的の家に到着すると、するり、と煙突から部屋の中へ。伝説のように。
気配も足音さえも完全に消したまま目的の部屋に入り込むと、無防備で愛らしい寝顔の少女。
(「撫でたり抱きしめたりしたい……!」)
そんな衝動に駆られるパルは、幼い恋人の夢を守る為、渾身の自制心を総動員する。
眠る少女を起こさぬよう、身体能力をフル活用して、枕元の靴下にそっとプレゼントを忍ばせた。
(「……頑張った。頑張った自分を褒めてあげたい。全力で褒めたい……!」)
「……」
そのまま、来た時と同じように静かに部屋を出て行こうとして、パルの足が止まる。幼い恋人の愛らしい寝顔を、思わずじっと眺めてしまっていた。
(「今日のボクは良い子にできたのだから……!」)
ベッドの上の静かな眠りを、夢をきちんと守ったのだ。だからこれは良い子にできた自分へのプレゼントだ、そう自分に言い訳する。
朝になって目を覚ますまでには出て行くから……だから、少しだけ、夢の中にお邪魔させて――。