■リヴァイアサン大祭2013『雪街を歩く』
「……アンゼリカちゃん!?」「え……あ、ああ。呼んだか?」
タージェの問いに、アンゼリカは我に返った。
リヴァイアサン大祭を楽しむ人々。その中にアンゼリカは自分も入り、祭りを楽しもう。そう思っていたのに……。
「どうしたの?」
「あ、ううん。何でもない」
などとタージェには言ったものの、本当は『何でもある』。
この直前。ともに参加した大地の扉の防衛戦にて。
マスカレイド女指揮官との戦い。喋る鞭を操るあの女は、タージェへ重傷を負わせたのだ。直後、仲間たちとともに畳み掛け、アンゼリカは女に引導を渡してやった。
が……直後に感じたのは、勝利の高揚ではない。生き抜いた事の安堵でもない。
感じたのは、友を失ったかもしれない『恐怖』。回復したタージェを見ていると、どうしてもあの光景が……目に浮かんでしまう。
彼女に無理を、させてしまったのだろうか。もっと、自分がしっかりしなければならなかったのに……。
「……ねえ、アンゼリカちゃん。見て」
屋台の一つ、揚げ菓子にタージェは目を注いでいる。
「ああ……二つもらおう、おごるよ」
アンゼリカはタージェの分も含め、二個分の金額を払った。
「飲み物も欲しいな」
隣の屋台で売られている飲み物は、タージェが二人分頼み、既に代金を払っていた。
「……アンゼリカちゃん。僕……無理した、とは思ってないよ?」
飲み物を受けとり、揚げ菓子に齧りつこうとしたアンゼリカに、タージェが言葉をかけた。
「え? な、何を……」
「さっきから考えてたのは……僕が怪我しちゃったから、でしょ?」
違う、と返答しようとしたが、できない。代わりに、口から出てきたのは、
「もし……」
「?」
「もし、あの時。タージェが、息をしてなかったら……私……」
言葉が、口をつき出てくる。『不安』が、『恐怖』が、胸に染みこんでくる。
「……だいじょぶ、だよ」
だが……新たな言葉が。
それはアンゼリカの胸に、強く響いた。不安と恐怖の代わりに、安堵が染みこむのを実感する。
「アンゼリカちゃんがいてくれたから……僕はだいじょぶ、だったんだよ」
「ター……ジェ」
「次には、うまくやってみせるよ。だから……元気だして、ね?」
信じて、くれている。
そうだ、彼女は信じてくれている。友として、自分の事を。
ならば、自分も彼女を信じなければ。友として、仲間として。
「そう……だな、ああ。そうだ、そうだとも」
彼女と共に、自分も強くならなければ。友を信じられるように、強い心を持たないと。
「……うんっ、このお菓子、おいしい!」
菓子を頬張り、タージェは嬉しそうな顔を。
「本当だ、うまい!」
アンゼリカもまた、同じく齧る。甘さが口いっぱいに広がった。
「よし……それじゃあ、楽しもう! お祭りを!」
「うんっ!」
ようやく、心の底から楽しめそうだ。タージェとともに菓子を食べつつ……アンゼリカはともに、祭りの喧騒へと向かっていった。