■リヴァイアサン大祭2013『記念日だって営業中』
『幻朧庵』。街角の一角にて営業している、小さな屋台。
「今年は……」
その主人たるスレイルは、奮闘していた。調理という困難に。
「今年は、屋台を壊される心配もなく営業できるか……」
当たり前の事ながら、それを思うと感無量。そして今年の本日は、食事スペースのテーブル上に、数組の客がパーティをしている。
なぜなら今宵は、リヴァイアサン大祭。それを祝う者たちは『幻朧庵』に集い、飲み食べて楽しんでいた。
「スレイルさーん、鳥の揚げ物お願いしまーす♪」
「兄ちゃん、こっちの炒飯の揚げ芋まだー?」
「うっせぇ! 今作ってるよ! できたらすぐ運ぶから待ってろ!」
常連客とその仲間たちの注文に、スレイルは鍋を動かし、調理の真っ最中。調理台の炎と、それにかけられたフライパンや鍋には、うまそうに調理された料理が次々に作られては、用意された皿に盛られていた。調味料や油の匂いとともに、うまそうな料理の匂いがあたりに漂い、いやがうえにも食欲がそそられる。
いつもの光景、いつものやり取り。
ただ一つ、いつもと違う点があるとしたら。
「はい……こちら……葡萄酒とソーセージの盛り合わせですね……」
リヴァイアサン大祭中に見られる、赤い服装。それに身を包んだ給仕の少女がいる、という事。
彼女……ツバキは休むことなく、客へと料理と酒とを運んでいった。猛烈に飲み食いする客と同じくらいに、ツバキもまた忙しく動く。
「熱いから、気を付けて下さい……こちら、唐揚げと芋の揚げ物です……」
「おっ、待ってました! うまそうだ!」
「ああ、こっちの姉ちゃんと同じくらいにうまそうじゃあないか。両方噛り付きたいねえ」
そんな冷やかしを聞いて、ツバキは顔を赤らめた。パーティーの熱気に当てられたためか、はたまた自身の赤い衣装……肩と太ももが露わで、自身の胸の豊かさが分かってしまうような、そんな服を着ているためか。
見ていると、ちょっと目のやり場に困ってしまうと、スレイルは思ってしまった。
「ふう……ツバキ、手伝ってくれてありがとな」
やがて、注文がひと段落し、スレイルは彼女へと声をかけた。
「はい。お役に、立てましたか?」
「ああ、助かった。だけど……」
賄の一皿を出し、ツバキに問うてみる。
「……その格好は?」
「ダメ、ですか? ……そうですよね、こんな……はしたない……」
何か誤解したのか、うるっと涙目に。
「いやいや、かわいいよ。ただ……」
スレイルとしては、ツバキのその姿がダメなどとは露ほども思わない。ただ……。
「ただ……そういう姿は、その……」
「はい?」
「……その、俺だけの前で、見せて欲しいだけさ」
新たに入った注文の調理をしながら、スレイルは思った。仕事が終わったら……改めて、彼女の姿を見たい。
まだまだ、リヴァイアサン大祭の夜は始まったばかり。そして、少女と青年の夜もまた、これから。