■リヴァイアサン大祭2013『母子水入らず』
「綺麗ですね……」クラトが白い息を混じらせながら感嘆の声を漏らす。その視線の先には大きなツリーが華やかな装飾を着飾っていた。
「本当見事なものね……」
隣に立つロゼもツリーを見上げて微笑む。
華やかなツリーと、ふわふわと静かに降り続く純白の雪。ツリーに少しだけ積もった雪は、華やかな衣装の上にファーを纏ったよう。
「……ありがとうございます」
ふいにクラトがロゼをまっすぐ見て、口を開いた。ロゼと同じ綺麗な赤い瞳に、心からの感謝を込めて。
(「今まで一人で戦って、僕を守ってくれて……」)
「クラト……」
何に対しての礼なのかを述べていないクラトの言葉に、ただ優しく微笑むロゼ。口にしなくても分かっている。大切な息子の考えている事くらい母にはお見通しだ。
「これからは、僕が守ります」
はっきりと強い意志が込められた瞳で続ける。
クラトは母の過去を知り、とある人物に弟子入りをした。母を守る力を手にする為に。そして、努力の末に魔獣の力を手に入れてエンドブレイカーの道を進んだのである。母には内緒で。
力を手に入れる前だったら、きっと反対されただろう。息子が危険な道へ進むことを喜ぶ母親などいない。
「……うん」
ロゼは優しい眼差しで頷く。クラトが自分と同じ世界にいると知った時は衝撃だった。どれだけ傷付き、どれだけ悲しいものを見るのか。それを考えれば、すぐにでも武器を捨てて欲しい。そう思うのが親心。
しかし、それ以上に嬉しかった。クラトの気持ちが。自分を守ってくれると言った。その成長も嬉しい。
ロゼは、そっとクラトの手を取る。そして、
(「力を手に入れる為に、この手はどれだけ頑張ったのかしら……」)
「クラト……ありがとう……」
すっかり冷たくなってしまった小さな手を握り締めた。
ロゼの手から伝わる温もり。そして――想いをしっかりと受け止めるクラト。
――温かい手、今まで自分を守ってくれた大好きな手……これからは僕が守ります。