■リヴァイアサン大祭2013『ブリスフル・シュガー・スノウ』
賑やかにきらめく街並みとは程遠い、街外れの古びた塔には、浮かない顔があった――。数日前、アルカナが戦いで大怪我を負う。心配で心配で胸が張り裂けそうだったキトとは喧嘩にもなった。彼女は、その怪我が治るまでの一週間、外出禁止を言い渡されていたのである。
(「今日は特別な日だけれど……」)
窓の外を見ては、アルカナの口から溜息が漏れた。
「偉いですね」
微笑むキトが、アルカナの髪を優しく撫でる。
どれだけ彼が自分の心配をしてくれたか分かるから、アルカナは大人しく言いつけを守っていたのだ。
「お祭りなのだから、外に行けばいいのに」
(「外はきらきらして、きれいだから……きれいなものを、見せたいの……本当は、一緒に見たかったの……」)
そんな想いを胸に隠したアルカナが、つまらなそうに口を開く。
「どうして、わざわざアルカナがいない場所に行く必要があるんですか? 一番綺麗な金色は、ここにあるのに?」
キトは、きょとり、と軽く首を傾げた。
「……こんな色、見慣れたでしょう?」
不機嫌げなアルカナの声に、
「見慣れる程に愛しくなるのに……」
キトは苦笑を浮かべる。
「そうだ、着飾って見せてはくれませんか? 僕のためだけに」
今度はパァっと、良い事を思いついた、とばかりに笑顔を広げた。
「家で、着飾ったって……」
「……だめ?」
気乗りしない、とばかりに首を縦に振らないアルカナに、キトは母性本能をくすぐるような、少年の顔を向ける。
アルカナは、溜息を吐きながら、渋々着替えに部屋を出た。この日のために用意したドレスに着替える為に。
白いボレロと薄桃色のドレスを纏い、金の髪にはティアラを乗せて戻ったアルカナは窓辺に凭れた。まだ浮かない顔をして。
「綺麗ですよ、アルカナ」
キトは、「……可愛い」と続けながら、着飾ったアルカナを満足そうに見つめて、ゆっくりと近付く。
「ねえ、拗ねないで。独り占めをさせて下さい」
「拗ねてなんか……」
キトにじっと見つめられて、アルカナは視線を逸らした。その頬はうっすら朱に染まyっている。
「来年はちゃんと、エスコートをするから」
至近距離でアルカナを見つめたキトは、甘く優しく髪に口付けて誓った。二人きりの時だけの、特別に見せる顔で。
雪降る灯りが輝く窓辺で、愛しい大切な存在を腕に閉じ込めて、静かに、そして密かに口付けを贈る。
(「ごめんね……でも、傍にいてくれて、うれしいの」)
アルカナの瞳に幸せな輝きを放つ涙が浮かんだ――。