■リヴァイアサン大祭2013『楽しみは、パーティ前から既に』
(「こっそり練習を続けて夕食に出してきたんだ……今まではもも肉だけとかだったけど……」)ロイは、生のターキー丸ごと1匹を目の前に息を飲んだ。
(「丸ごとだと、こうもデカイのか……」)
その大きさに。自分の顔よりも大きなその塊。
今まで練習してたのはオーブン焼き。だから一部位だけの調理でこんな大きさはなかった。しかし、今夜挑戦するのは、ローストターキー。
(「負けねえ!」)
難敵に挑むような眼差しで、ぐっと手に持った塩を握り込む。そのまま塩を全体に塗りこんだ。内臓や野菜、香草を細かく刻んで、炒めた物をターキーの腹に詰める。最後にオリーブオイルを丁寧に塗った。
「お……やっぱ重いな……っ」
ターキーを乗せた天板を持ち上げると、ずしり、と重みがロイの両腕にかかる。だが、その重さもなんのその、ぐいっとオーブンに押し込んだ。
「うーん、我ながら会心の出来。美味しく食べてもらえたら嬉しいな」
ふぅ、と額の汗を拭いながら、満足気な笑みを浮かべる。後は焼きあがるのを待つだけだ。
去年のリヴァイアサン大祭では、マーシャが手作りのフルコース料理を振舞った。マーシャの努力の甲斐もあり、本当に素晴らしい時間に、忘れられない想い出になっている。今年はそれぞれ料理を作ろう、という事になっていたのだ。
マーシャは、ガチョウの皮をむき、血抜きする。丁寧に血管を取り、フォアグラを取り出した。そこへ味付けをして、屋敷の料理係から教わった通りに手を加えて片に流し込む。
(「フォアグラと調味料以外他は一切入っていないから、失敗したら全て私のせいというわけね」)
湯煎をするのに、型を持運ぶマーシャの手が震えた。
(「ロイに出す時は自信持って、笑顔で出すわよ。絶対に」)
ぐっと心の中で気合を入れると、テリーヌ型を湯の張った鍋に、そっと浮かべる。
最近メインディッシュの味が変わったのを、誰が作っているのかメイドに訊ねたマーシャだが、笑って誤魔化されてしまっていた。そういう事か、と納得した彼女は、メインディッシュは『新入りシェフ』に任せて、自分は前菜を作る事にしたのである。リヴァイアサン大祭だけの特別料理、フォアグラのテリーヌ製パテを。
「出来たぜー! お、マーシャのも美味そうだな♪」
ロイが自慢げに、皿に盛り付けた大きなローストターキーを持って、パテを盛り付けていたマーシャの元にやってきた。
「まぁ、美味しそう……ふふ、じゃあ一緒に食べましょう?」