■リヴァイアサン大祭2014『世界樹に囁く』
ふわりと夜風に揺れたのは、幾つもの灯り達。冬の花を象ったそれらは、ぽわぽわと光り、道行く人々を温かく照らしていた。
活気づくエルフヘイムの街並みを楽しそうに見渡して、クラシックは弾むように歩く。その隣を歩むキリンドも目線の高さこそ違えど、同じ景色を眺めていた。
街も人々も、賑やかさと穏やかさに包まれていた。
今日は、そんなリヴァイアサン大祭の夜。
二人が辿り着いたのは、凛とそびえ立つ巨大な世界樹と夜空を一望できる場所。ふと見れば、世界樹の上空を舞う星霊リヴァイアサンが、一際大きく空を薙いだ。
「わぁ……」
頬に掛かった白い雪。すぐに溶け消えたそれを指でなぞって、クラシックは空を見上げた。
天から舞い降りる白い雪。
いちねんに一度の、とくべつ。
一年に一度巡る、幸せの雪。
手を伸ばして触れたいけれど、気まぐれな雪の粒にはなかなか触れることが出来ない。
「キリィ、抱っこだべ!」
愛らしいお願いごとに、キリンドは慣れた様子で彼女の両脇に手を回した。
そのままぐい、と一気に体と視界を持ち上げられて、クラシックは微笑んだ。
「えへへ、キリィは力持ちだべな〜」
「なんだ、知らなかったのか?」
「知ってたけど、すごい、すごーい!」
いつもよりずっと高い眺めに、クラシックははしゃいで見せた。
「お前はもうちったぁ重くなっても良いんだぜ」
軽々とその体を抱きかかえたまま、キリンドはほら、と、
「雪もきらきらしてて似合うから、風邪引かない程度に被っとけ。な?」
自分の体ごとくるり、と回った。
くるり、くるり。
「わ、わわっ」
慣れない高さの視界が回る、回る。
「ほら、俺たちもぐるり巡ってリヴァイアサンだな!」
楽しげに笑うキリンドの言葉に、驚きに目を瞬いていたクラシックもぱっと笑顔になった。
そうしている内に回る世界にも段々と慣れてきて、彼女は楽しげに空に手を伸ばした。すると掌で受け止めた雪の向こうに、世界樹の上空を大きく旋回する星霊の姿が見えて。
クラシックの口元に、小さなひらめきが浮かんだ。
「ねえねえ」
「ん?」
「くるくる回るんが『りばいあさん』なら、中心に居るキリィは、世界樹なんかな」
回る自分の、中心にいるのは。
「世界の中心ね、キリィ」
わたしの、世界の――。
囁き落とした声は、彼にだけ届いただろうか。
「なんて、ふふふっ」
不意に笑い出した声につられるように、キリンドも薄く笑ったように見えた。抱き上げたまま、クラシックの瞳を覗き込む。
「こっちから見たら、お前が中心だけどな」
その囁きは、彼女にだけ届いて。
楽しいねえ、幸せねえ、とクラシックは笑顔を向ける。
「来年もね、またずっと雪のエルフヘイムで楽しもうねえ」
「勿論、来年も、そのまた次もな!」
来年も、それから先も。くるくると回る世界の中心には、君がいるから。
重なる笑い声も、くるくると空を舞う。
特別で楽しい、ふたりの時間。