■リヴァイアサン大祭2014『君へ贈るプレゼント』
真白な淡雪が舞い続ける、その日はとびきり美しい夜だった。1年に1度だけ訪れる奇跡の1日、それは、かけがえのないパートナーとの絆を確認する日なのだという。
それは、つまり。
(「これはデートですよね?」)
クロスは数歩先を歩く可憐な少女を見つめた。その視線に気づいたように、ファティエルは長い銀色の髪をふわりとなびかせ、元気よく振り返って微笑む。
「雪景色すっごく綺麗だね♪」
「え、ええ、とても……綺麗ですね」
公園に降り注ぐ雪は休む気配もなく、辺りの景色を白く染めていこうとしている。
見事な景色だが、それよりも彼の目を奪うのはもっと愛らしいものだ。
「えっと、ティエルさんっ。手を……繋ぎませんか……?」
寒いですから、と小さく続けて、クロスはファティエルに手を伸ばす。
彼女は少し照れている彼の顔をまっすぐ見つめたあと、にっこり笑った。
ぎゅっ。
繋いだ指から伝わる互いの暖かさ。
どうしてだろう。雪の夜がどんなに冷たくても、触れ合う指先の温もりだけで、心はこんなにも温かくなれてしまうのは。
手を繋いだまま、二人は公園を並んで歩いた。
たわいもない会話もあったけれど、会話はすぐに途切れた。特別な夜を、恋人として過ごすことに二人はまだ少し照れていたから。
降り積もる愛しさと、相手への慈しみで、会話などなくても二人は幸せだったから。
でも。
真白に染められていく景色を眺める高台から、下りの階段へと差し掛かった時。
ファティエルは小さな決意を固め、彼の後ろで立ち止まった。
「……あのね、クロスっ」
「?」
きょとんとした顔で彼が振り返る。普段は遠く見上げるだけだった彼の顔が、階段の段差のおかげでとても近くにあった。
「……どうしました?」
優しい彼の声。ファティエルはみるみる顔が赤くなっていくのを感じる。心臓の鼓動がどんどん早まっている。
(「……お、落ち着くんだぞ、ボク!」)
「ティエ……」
「……ボクからのクリスマスプレゼントだよ」
続けて彼が声をかけようとした瞬間、彼女は行動に出た。
精一杯背伸びして、彼の頬へと顔を寄せたのだ。
「……ふぇ!? ティ、ティエルさんっ……!?」
冷たい頬から、ゆっくりと唇を離して、彼女は踵を地面につけた。
心臓は痛いくらいにドキドキしてる。顔は熱くて火が出そう。
一体、彼はどんな顔してるんだろう。見上げるのが少し怖い。
ゆっくり息を吸い込んで、ファティエルはクロスを見つめた。彼女と同じくらい真っ赤な顔をした彼は、ファティエルを見つめたまま固まっていて。
「……あ、……えっ……そのっ……」
どうやら思考停止中なご様子で。
なんとなくそんな予感はしていた彼女は、少し安堵して微笑んだ。
まだちょっと早かったかな。でも、今日は特別な日なのだから。
照れ隠しに、彼にくるりと背を向けながら、彼女は小さく呟いた。
「ねえ、クロス……良かったらボクのこと、呼び捨てで呼んで欲しいな」