■リヴァイアサン大祭2014『思いを重ね、未来への約束を』
小雪が舞うその日、とある式場に二人の姿があった。シンに掬い上げられたリラの掌から、熱が伝わる。ついで、薬指にゆっくりと通される指輪の感触をリラはその身に受け止める。
そうして白いヴェールの下、今日に至るまでの長い時を思い返していた。
出会いは、教え子としてだった。
教育の一環として護身術を学ぶよう親からつけられた教師こそが、シンだった。
それが、いつの間にか冒険を共にする仲間になっていた。
冒険者の仲間として傍らで年月を重ねていく二人。しかし、リラにとって深まる絆は仲間意識から違うもの――恋心へと変わっていた。
リラとて、シンと恋人になること、結婚することを夢見ていなかったわけではない。だが彼女の求愛を、シンはいつものらりくらりとかわしてしまっていた。
だから、諦めかけていた。きっと、この恋心は実らないのだと。
――なのに。
大切なパートナーとの絆を確かめ合う大祭の今日。
シンと2人、永遠を誓う指輪を交換している。恋を諦めかけていたあの時の自分には、想像も出来なかった光景だ。縁とは、本当に不思議なものだ。リラはそう思う。
さらに強く思い起こされたのは、先のラズワルド大戦でリラが大怪我を負った時のことだ。うなだれていた彼女に、シンは告げた。
「悲しい思いはもうしたくないと、俺は二度と大切な人を作らないと決めていたが……それは間違いだった」
リラの視線を一身に受けて、シンはさらに言葉を募る。
ひとつ、ひとつ。
「俺が大切な人を作らないことで……幸せにならないことで、辛い思いをする誰かがいると、お前が教えてくれた」
ただ真っ直ぐに、リラの瞳を捉えて。
「お前のことが大切なんだと、ようやく気づけた」
僅かに、ほんの僅かに一呼吸置いて。
「……結婚しよう、リラ。愛してる」
たった一言。
そのたった一言が、彼女の耳に静かに響いた。けれど、聞こえた音だけが頭の中で反すうし、それはなかなか意味を成さない。
今、彼は何と言った?
真摯なシンの表情を受けて、伝えられた言葉の意味をリラは徐々に理解していく。
そして最後に、リラは泣きだした。
その涙は驚きからでも、悲しさからでもない。ただ、ただ嬉しかったのだ。
「おっせーんだよ、バーカ……どれだけ待たせんだよ」
泣きながら、頷いた。それがシンへの、彼女の返事。
今、未来を約束する指輪が、リラの指に収まった。
思い出を胸に押し込んでゆっくりと顔を上げると、すぐ傍には自分だけを見つめるシンがいる。
自然とリラの口元に、淡い笑みが浮かんだ。
積み重ねてきた思いは、今、こうして実を結んだ。