■リヴァイアサン大祭2014『夢の宴は現世に』
年に1度のリヴァイアサン大祭の日にだけ白銀に染まる樹氷の森。そこへの道は、森が白銀に染まった日にしか開かれる事はない。
(「……また歩けるなんてな」)
ロサは2年前の事を思い出し、感慨に耽っていた。
『――愛してる』
2年前のこの日、ロサが告げた言葉。
(「私は只、泣く事しか出来なかった」)
ティファリスも隣を歩くロサと同じように2年前を思い出す。
ロサと同じ想いを抱いていたのに、それを言葉にする勇気も決別する度胸も無くて逃げてばかりだった。
「お前が告げた大切な言葉に、私は只、泣くことしか出来なかったな」
ぼそりとティファリスが口を開く。
「あの時、本当は言ったらいけねぇんじゃねぇかって迷ってもいたんだけどさ……夢の侭にしておきたくなくて、溢れた気持ちをありのまま言っちまった」
ロサの言葉に困ったような笑みを浮かべ、ティファリスは固くその身を閉ざした蕾の前へ歩み出る。
(「……きっと今夜なら触れられる」)
2年前、ロサが触れて灯火の色を咲かせた蕾。そこに在る温もりに指先を伸ばしかけて、結局触れられなかった。
だが、今夜こそ――。
そう決意したティファリスだったが、固く閉じた蕾を前に手の動きを止めてしまう。
その背中は震えているように見えて――、
「愛してる」
震える背中を抱きしめたロサが、あの時と同じ言葉を伝えた。
耳朶を打ったその声にティファリスの瞳から大粒の雫が溢れ出す。
ロサは腕の中のティファリスを強く抱きしめ、温もりを伝えた。
固い蕾に温もりを与えるように、この涙を流す蕾も咲かせようと。
「私も、愛してる」
ロサの温もりで咲いたティファリスの笑顔は何よりも美しく。
その咲いた笑顔に、ロサの表情も綻んだ。
静かに降り続く雪の中で淡い光に彩られた世界で2人の笑顔が咲く――。
ティファリスは、ロサの手を取り、自分の手と想いを重ね、共に蕾へと触れた。
花は気高き薔薇色を灯し、二人の始まりを祝福しているようで――。