■リヴァイアサン大祭2014『氷の花咲く庭園で』
ちらちら雪の舞う夜の道。木々には優しい光が灯り、夜道を照らす。雪が色を変えた白い森を歩く2つの影。
仲良く手を繋いで静かにゆっくり。
「まあ……素敵ね」
「はい……とっても幻想的で綺麗です」
開けた場所に出ると、ヤトが感嘆の声を漏らし、ウェンディが瞳を輝かせた。
そこは白銀の庭園――植物は雪化粧を施され、氷の薔薇が咲き誇っている。
リヴァイアサン大祭にだけ現われるという氷と雪の庭園がある、その噂を聞いてここまで足を運んだのだ。
「本当に氷が薔薇の姿をしているのね」
氷の薔薇に近付いたヤトが、近くでまじまじと見つめる。簡単に砕けてしまいそうな脆さと、木々に灯る優しい光を反射してキラキラ輝く美しさ。まさに奇跡――。
「不思議ですね。これも星霊リヴァイアサンの奇跡でしょうか」
ウェンディも薔薇を見つめ、夜空を仰ぎ見た。
――星霊リヴァイアサンが優雅に舞う雪の夜空を。
2人は、一夜限りの幻想的な庭園をゆっくり歩く。その美しさに目と心を奪われながら。
ふとヤトが氷の薔薇を一輪そっと手折って、ウェンディの髪に挿した。
「はい、良く似合うわ」
ヤトは満足気に微笑む。
「ありがとうございます……!」
ウェンディは嬉しそうに、花が咲くように笑った。
2人は庭園の中央まで足を進める。そこは広場になっていて、庭園を一望できた。優しい光を灯す真っ白な木々と氷の薔薇。優しく舞い降る雪は、まるで妖精が踊っているよう。
庭園を見渡し、軽く息を吐いたヤトがコートを脱いだ。すると、いつもの女物の着物ではなく、燕尾服である。
「私と踊っていただけますか?」
同じくコートを脱いで、ドレス姿になっていたウェンディに手を差し出した。
「はい、喜んで!」
笑顔を咲かせたウェンディは、ヤトの手に手を重ね――。
氷の世界で踊る2人。夜の風は雪を纏って一層冷たく、氷の薔薇も冷たい美しさを添えている。しかし、繋ぐ手だけは温かく、互いの鼓動を伝えていた。
すると、2人のダンスに反応したように、周囲を光の粒が舞い始める。雪がその光を反射して輝いた。
「妖精、現れるかしら……」
踊りながらヤトが楽しそうに口を開く。この庭園でダンスをすると妖精が現れる、という噂があるのだ。
「ふふ、一緒に踊れたら素敵ですね」
ウェンディも楽しそうに笑う。
――庭園は温かな輝きを放ち、踊る2人を祝福した。
妖精とともに。