■リヴァイアサン大祭2014『雪、解けて』
「流石に冷えるな」雪の夜空を舞う星霊リヴァイアサンを眺めるため、テラスに出たセヴランが穏やかに微笑む。
(「昔は肩を抱くのに、何のためらいもなかったが……」)
隣の少女――デジレの肩を見ながら、その言葉は胸のうちに仕舞って。
マスターであり、娘のような存在。なのに、今は肩を抱くことに、触れることに手が止まってしまう。
「セヴが幸せになりますよう、ずっと願ってた」
ふいにデジレが小さく口を開いた。
「……セヴの人生を、もう邪魔しないように、早く親離れしなきゃって思ってた。でも言えなくて、だけど、もう18歳だもの」
俯いてぽつり、ぽつりと続ける。その呟きはどこか苦しそうで。
「邪魔なわけ無いだろ。お前と居ると、楽しい」
セヴランが穏やかに微笑む。
本当は『ずっと側に』と言いたかった。しかし、デジレは自分の気持ちより、セヴランの願いを大事にしてしまうだろうから言えなかった。
「セヴは優しいから、そう言っちゃうよね。だから、ちゃんと、言うね」
デジレは顔を上げて軽く深呼吸をする。
(「パパとしてのセヴも、ガーディアンとしてのセヴも、大好き……でも」)
「男の人としても……好きなの……」
横に立つセヴランを真っ直ぐ見つめて、泣きそうな声を振り絞った。
「……」
その言葉にセヴランは驚きを隠せない。軽く目を見開き、デジレを見る。
「わたしのこと、娘みたいに思ってくれてるのに、裏切って、ごめんね」
だんだん消え入りそうに、小さくなるデジレの声。最後はセヴランから視線を逸らして俯いてしまった。
「……一緒に居られない、よね……でも、セヴなら、気持ち悪がらずに、父親で居てくれるんじゃないかって……」
やっぱり、甘えてるね、と続けて。
「ごめんね」
「ごめんな」
謝るデジレの声とセヴランの声が重なった。
「ううん」
デジレは小さく返して、涙をボロボロ溢れさせる。今まで泣かないように頑張っていたが、もう無理だった。
「そういう意味じゃない」
セヴランがデジレの手に、自分の手を重ねて口を開く。
「勇気を振り絞ってくれたんだろ」
そこで一度言葉を止め、
「……気付けなくて、ごめんな……嬉しい」
重ねた手に力を込めたセヴランは、穏やかに笑った。
「なあ。父親で居なきゃ、駄目か?」
照れたように、でも真っ直ぐにデジレを見つめるセヴラン。
消え入るようなデジレの返答は――。