■リヴァイアサン大祭2014『engagement de la vie』
ステンドグラスを背に立つアートルナの姿に、ジークは少しの間言葉を失った。――戦いは激化し、先は見えない。だからこそ永遠を誓おうと二人は教会に来ていた。
ここには二人の他には誰もいない。真っ黒な髪とは対照的に真っ白なウェディングドレスはアートルナにはよく似合う。ジークの瞳は慈しむように細められ、
「世界で一番綺麗な花嫁さんだ」
そんな言葉を紡ぐ。
「まさか、この私が結婚するなんて、思ってもみませんでした」
白いタキシードを纏うジークを見つめてアートルナはそう呟く。
ジークはアートルナに歩み寄り、アートルナの白い手を優しく握った。普段からアートルナを溺愛しているジークだったが今日の手つきはいつも以上に慎重で、アートルナを慈しんでいることがよく分かる。
アートルナの手を取ったまま、ジークはたどたどしく誓いの言葉を口にする。
「未来は見えないけど、永遠に愛し続けると誓うから」
「ええ、私も。永遠に……」
二人きりで、そっと指輪を交換し合う。
デザインはシンプルなシルバーリングだ。飾りは一粒の石、その色だけが違っていた。
アートルナの指を飾るのはサファイア――ジークの藍色の瞳を思わせる色。
ジークの指を飾るのは黒水晶――アートルナの漆黒の瞳を思わせる色。
常に共に在れるようにと願いを籠め、互いの瞳と同じ色の石に決めたのだった。
指輪の交換を終えた二人の視線が交錯する。ジークは指輪の填った左手でアートルナの頬に触れれば、感情の希薄なアートルナの顔に僅かばかりの感情が浮かんだ。
「アートルナ、愛してる。ずっと、ずっと。この先何があっても」
愛するアートルナの顔に浮かぶ仄かな笑みに、ジークも笑顔を返す――その笑みは、どこか泣き出しそうに見えた。
誓いの口づけを交わせば、アートルナの白い頬は微かに朱に染まる。その頬を、一筋の涙が伝っていた。
涙をぬぐうこともなく、アートルナは囁くような小さな声で零す。
「本当にありがとう……」
――私の心を満たしてくれて。