■リヴァイアサン大祭2014『聖夜のささやかな酒宴〜壮年二人の夜語り〜』
「来たか。ようこそ」玄関先で客を出迎えたゲオルグは、
「ああ、邪魔するよ」
ムキアノスを部屋へと招き入れた。
いつもゲオルグは、ムキアノスから何かの催事に誘われていた。
が、今日は違う。今日はゲオルグから、ムキアノスを誘ってみた。今年のリヴァイアサン大祭の夜。自室で、酒でもどうだ……と。
壮年の男二人というところが色気が無いが、気にしてはいかんだろう。
ゲオルグは用意しておいた酒とツマミとを運び……ささやかながら、宴の場を居間に設ける。
「「乾杯」」
強い酒が入ったグラスをかち合わせ、二人はそれをぐっとあおった。
部屋の中、酒を口に含み、じっくりと味わいながら……ゲオルグはムキアノスを見つめていた。
彼……ムキアノスは、焦げ茶色の髪と、たくましい体格の男。そして、ゲオルグの友。
「どうした?」
黙っているのが気になったのか、ムキアノスが問いかけてきた。
「いや……たまには、こうやって語り合うのも、悪くはないと思ってな」
そう言って、酒をもう一口。
「……ムキアノス、私の事を話してもいいかな」
「君の事?」
「ああ。互いにいい歳、若造と違って、失ったものも、得たものも、色々とあるだろう。それを語り合いたくてな」
こういう静かな酒の席。友に、自分の事を知ってもらいたい。だから、ゲオルグは自分自身の事を色々と話してみよう。そう思っていた。
「それは構わないが、一つ条件がある。私の話も聞いてくれ」
ムキアノスの言葉に、ゲオルグは笑みを浮かべ……うなずいた。
人は、誰もが物語を持つ。誰もがその物語の主人公で、悪漢で、王族にして道化。
ゲオルグも例外ではない。彼は、友へと自らの物語を語って聞かせていた。
幼き日に、家族を失った事。
拾われ、暗殺者として育てられ、人を殺し、人の命を奪う術を覚えさせられた事。
その暗殺術を用い、幾度となく己が手を血で汚してきた事。善人も悪人も、男も女も、老人も子供も、必要とあらば殺してきた事。
奇跡的に、弟と再会できた事。
そして、こうやってムキアノスと出会い、こんな事を語り合える友となれた事。
……あの頃の私は、きっと……想像もできなかったろうな。
そう。在りし日のゲオルグは、未来にこんな日が来る事など考えもしなかった。だが、今は暗殺者ではなく……魔曲使いとして、エンドブレイカーとして生きている。
ムキアノスとの出会いは偶然。だが、偶然とはいえ出会い、そして縁として繋がれた。
この縁、大切にしていきたいものだ。
酒が入っているせいか、つい口が軽くなってしまう。普段言わないような事も、ひょっとしたら言ってしまうかもしれない。
「……ムキアノス」
だが、構うものか。せっかくの機会、友へと感謝の気持ちを伝えておこう。
「……今日は、私に付き合ってくれて、ありがとう」
そして、これからも宜しく頼む。
リヴァイアサン大祭の夜に、友への言葉が静かに響いていた。