■リヴァイアサン大祭2014『永遠を紡ぐ誓い』
イスラティルの部族には掟があった。――部族の者が婚姻を挙げる際は、必ず部族が崇め奉る神獣の許可を得なければならない。
その際は盛装をし、神獣が宿るとされる篝火の前で踊り、許可を請うこと。
パチ……パチ……。
空は群青の絨毯を広げ、星が瞬き、篝火は夜を照らすように燃え盛る。
神獣が宿るとされている篝火――。
「俺は残念ながら狭量だ。一度でも君をこの腕に囲ってしまえば、例え君の気持が離れても逃がしてあげる事は出来ないだろう」
イスラティルは静かに口を開いた。
「……それでも俺の、妻となってくれるだろうか」
一呼吸おいて、固い意志を宿した瞳でリィンティアを見つめる。
「……」
リィンティアの心には葛藤があった。
「……」
イスラティルの言葉に頷いていいものか、決めあぐねいている。
「……言ってくれ。何が不安なのか」
イスラティルは、迷いの表情を浮かべて悩みこんでいるリィンティアに、優しく声をかけた。
「……私は、ずっとオラクルの光を追いかけまわしていました。でもいつの間にかイスラを追いかけまわすようになって……ずっと一緒にいたいけど、そう言ってしまってもいいのか……」
リィンティアは、ぽつ、ぽつ、と少しずつ言葉にする。
いつもは弱気になったイスラティルを叱って諭して、最後には許す優しいリィンティア。そんな彼女が見せる不安。
黙って聞いていたイスラティルが、改めてリィンティアを真っ直ぐ見つめた。
「……お願いだ、どうか健やかなる時も、病める時も一緒に居てくれ。君以外、誰も、妻には欲しくないんだ……」
祈りにも似た懇願。何者にも傷付けさせないから。だから一緒に――。
やや弱気に、けれど深い愛情を乗せてリィンティアを優しく抱きしめる。
「……はい」
リィンティアは、イスラティルの腕の中で小さく頷いた。そして、背に腕を回して、その広い背中をぽんぽん、と軽く撫でるように叩く。
イスラティルは静かにリィンティアを離し、
「では……認めてもらおうか……俺達の婚姻を……」
手を差し伸べた。