■リヴァイアサン大祭2014『青い羽の誓い』
金砂と白雪が灰色の空から舞い降る街――。星霊リヴァイアサンを見る事はできないが、あえて思い出の街を歩くアーサーとポーシア。
「寒いね」
ポーシアは白い手を小動物のようにこすって息を吹きかけた。
しっかり防寒はしているのに、手袋だけつけていない。それは職業柄なのか、それともうっかり忘れてしまったのか。そんな事は今はどうでも良かった。口では寒いと言いつつも、心は温かかったから。
「こうすればいい」
ふわっとアーサーがポーシアの冷たい手を握る。
(「なっ……! こ、こんなところで手を握るなんて……っ」)
恥ずかしくて、ぶわっと顔を赤面させたポーシアは思わず照れ隠しに殴ってしまいそうになった。しかし、寸でのところで、ぐっと堪える。
恥ずかしいけれど、アーサーの手は温かくて、離したくなくなっているから。
「どこに行くのかとおもった」
ポーシアは、手を繋いだまま辿り着いた場所を見て口を開いた。
そこは、かつて遺跡であった場所。高い天井を抜けて本当の空が――懐かしい、本当の空が見えるアーサーの秘密基地。
紋章で閉ざされた扉を開き、2人は足を進めた。
ふいに、天井に空いた大きな穴から風が吹き込む。都市の中とは違う、辺境から吹く本物の風の匂いを乗せて。
「……!」
その匂いに瞳を輝かせたポーシアは、踊るように足を速めた。そのまま穴の真下まで来ると、天井を――いや、空を見上げる。
(「星が降ってるみたい……」)
うっとりと空を見上げるポーシアに、
「寒くないか?」
ゆっくり歩み寄ったアーサーは、小さな体を後ろから包むように抱きしめた。
「平気」
ポーシアは短く答える。しかし振り払わない。先ほどのように殴りそうにもなっていないようだ。
(「こうして距離を縮めるのに2年。長い時間だったな」)
アーサーは、しみじみと感慨に耽ると、ポーシアの髪に顔を寄せる。そのまま、後ろから回した手でポーシアの手の中に何かを握らせた。
「……どうか、僕を君だけの空に」
ポーシアが手の中を見ると、それは青い羽のブローチ。星明りで淡く光っている。
アーサーの故郷において、青い羽のブローチは、プロポーズの形だった。