■リヴァイアサン大祭2014『優しさの満ちる花、揺れる心』
「今日は、リヴァイアサン大祭、だったわね」夜。
仕事を終えた花売り娘……コレット。
ジルベールは彼女を待っていた。宿屋に帰るまで付き添っていたところ、コレットは夜空を見上げて、彼へと話しかけていた。
「恋人に贈る花が、とてもよく売れたの」
見ると、彼女が持つ花籠はほぼ空に。
「大事な人に、想いを伝える日、だっけ」その花籠を見つつ、ジルベールは相槌を打った。
「そういえば」今度はジルベールが、コレットへと問いかける。
「コレットは、どんな花が好きかな?」
「え、え……私?」
その問いかけに、うーんと考え込むコレット。
「お花は、みんな大好きよ。刺々しい子もあるし、毒々しい子も、ちょっと臭う子もいるけど……どれもみんな個性だもの」
でも、と、コレットは言葉を続ける。
「……今は、優しいお花が見たい気分、かしら」
「だったら……」
一呼吸置き、次はジルベールが言葉を続けた。
「最近、新しい『花の景色』を見つけたんだけど。見たら、暖かい気持ちになるかもしれない」
「新しい、お花?」
「うん。もし良ければ……一緒に、見に行ってくれるかな?」
「まあ……どこの花壇に咲いてるの? どんなお花?」
コレットの問いかけに「それは見てのお楽しみ」と告げたジルベールは、彼女を伴ってとある場所へと足を向けた。
その先にあるのは、街の時計塔。
「綺麗……!」
その美しい『花』をコレットに見せたジルベールは、彼女が喜んでいるのを見て……自分もまた嬉しい気持ちになるのを感じていた。
時計塔の最上階。
そこから見下ろした街の景色。灯りがそこかしこに点り、ちらつき始めた白い雪が灯りを彩っている。まるで、輝く花がたくさん植えられた、星空の花壇のよう。
「独り占めするには、勿体なくて。是非、コレットに見て貰いたいなって」
その言葉を口にするのは、ちょっと照れくさい。けど、
「あ、ありがとう」
コレットもまた、照れくさそうに感謝の言葉を。しかし、
「でも……」
口ごもった彼女の言葉に、ちょっと不安になる。
「でも、私なんかと一緒に見て、本当に……良かったの?」
「も、もちろんだよ! だってコレットは……」
彼女の言葉に答えようとしたジルベールだったが……途端に気恥ずかしくなり、コレットと同じように口ごもってしまう。
「コレットは……僕の、大事な……」
本当の気持ち。口にしようとして、
「大事な……友達、だから」
口にできなかった。
「……ありがとう」
しばらくの沈黙の後、コレットの言葉が。
「この景色、また、来年も。あなたと一緒に見たいわ」
そんなコレットに、ジルベールは微笑み……
「うん、もう一度見にこよう。来年の、リヴァイアサンの加護あるこの日に」
約束の言葉を、口にした。
けれど、ジルベールは気づかなかった。
『友達』という言葉を聞いて、コレットの心が痛んだ事を。
そしてコレット自身も、なぜ痛むのか、自分の気持ちに気づいていなかった。