■リヴァイアサン大祭2014『hot mead』
湯気が出る、熱い蜂蜜酒。それを入れたカップを片手に、ダグラスはテラスにて一時を過ごしていた。酒の相手は、夜空の星、目前の森林。
「久々に来たわ。一応、ここの領民なんだけどね」
そして、女性が傍らに一人。
ルファ。エルフヘイムの狩人。
人ごみを避け、故郷の森に似たこの場所を探し出して一杯やっていたダグラスだが、ルファもまたここにやってきたのだ。
ともに酒に口をつけ、リヴァイアサンを見上げて満足を覚えていたが。
ふと、隣のルファを見やると。
「ここ、とても好きなところなのよね〜。色々な思い出がある、大事な場所ってところかしら」
しみじみと、彼女はつぶやく。が、その様子がおかしいというか、普通ではなくなっていくことにダグラスは気づいた。そう弱くもないはずなのに、酒の周りが心持早くなっているようで、顔を赤くさせ、饒舌になりつつある。
「ふふ、それでねー……ここでの思い出なんだけど〜……聞いてる!?」
「あ、ああ。聞いている」
ダグラスのそんな訝しげな視線に気づかない様子で、ルファは言葉を続ける。
一体、何があったのか。ルファの心底嬉しそうな様子に、最初から少し変……というか、普段と異なるような気はしていた。
「うふふ、懐かしいなー……うーん……ぐー」
テラスの手すりにもたれかかり、眠りこけそうになるルファ。
「おい、大丈夫か?」
落ちそうになる彼女の首根っこをひっつかみ、ダグラスはルファを立たせる。
「良い年した女がなんてザマだ。これでは嫁の貰い手がなくなるぞ」
そんなダグラスの呆れ言葉にも、ルファはどこ吹く風。
「ご心配なく〜。っていうか、良い年ならお互い様じゃあな〜い?」
と、呂律が回らなくなりつつある口調で返す。
否、すでに呂律がまわらない。あきらかに酔っ払っている。
くたり……と、酒がまわり足元がおぼつかない彼女を見て、どうしたものかとダグラスは思った。
おいていくわけにはいかない。とはいえ、ここでこのまま2人でいるわけにもいかないだろう。というか、まるで意図してこの場に居続けているようにも見える。
仕方ないか……。自分の分の蜂蜜酒を飲みほし、ダグラスは彼女に肩を貸して休める場所まで連れていくことに。
立ったままでうつらうつらしつつあるルファ。彼女に肩を貸しつつ、彼女の横顔を見つつ……。
(「ま、いよいよ嫁の貰い手が無いなら、俺が貰ってやっても良いかな」)
心の中で、そんな事を考えた。
その途端、
「ん? 何か……?」
ダグラスの心を見透かしたかのように、ルファが言葉を発する。
驚いたダグラスだが、ルファはそれ以上何も言わない。どうやら寝言だったようだ。
ふっと、口元に笑みが浮かぶ。
「……本当に、なんてザマだ」
ルファに言い聞かすように、そして自分にも言い聞かせるように、ダグラスは小さくつぶやいた。
夜空の下、寒さはまだ続く。
しかしなぜか、ダグラスは寒さを感じなかった。