■リヴァイアサン大祭2014『白の中に咲く愛慕』
しとしとと、雪が降っていた。薄らと降り積もったそれは、庭園全体に白色を添えて、いつもと違った光景を作り出していた。雪降る夜空に、輝く星々。
ただ変わらないものは、凛と咲き誇る椿の花だ。
「……綺麗だね。君と見られて嬉しいよ」
薄く敷かれた雪の絨毯に腰を下ろしたハルの視線は穏やかだ。
「うん。とても綺麗っ」
彼に寄り添うツバキもまた、笑顔で頷いた。
2人が共に見遣るのは、彼女と同じ名を冠する花、椿。目の前に広がる赤と白、――2色の椿は色こそ違えど、いずれも鮮やかな花を咲かせている。
赤い椿は、ツバキの色。
白い椿は、雪の色。
どちらも、ハルの好きな色だ。
「こんな場所があったなんて知らなかったなぁ」
星空を見上げてから誰もいない庭園内を見渡し、ツバキはほっと息を吐いた。隣に置いたカップからは温かな湯気が立っている。
ハルは小さく笑んだ。
「ふふ、穴場だよ。寒いけど……でもこの風景、好きなんだ」
綺麗な星空、そして椿の花が心を癒してくれている。そう思う。
その言葉に同意して頷いたツバキの目にふと留まったのは、寄り添う彼の胸に飾られた一輪の花。
(「……赤椿」)
赤椿は、ツバキに似合う。そんな彼女のモチーフを、すぐ傍に飾っていたい。
言葉こそなくとも、一輪の赤椿の存在だけで、そんな彼の想いがツバキに伝わって来る気がした。
込み上げる想いに包まれ、ツバキは身を預けたまま顔を伏せる。彼が愛おしい、その気持ちで一杯だった。
「ツバキ」
唐突に名を呼ばれ、ツバキが弾けるように顔を上げると、ハルの掌がすぐ目の前にあった。
それから、するり、と髪に何かが挿し込まれた感覚。
嗚呼、思った通りだ。呟き、ハルは微かに目を細めた。
「似合うよ。白い椿もいいよね」
彼女の髪には、白い椿が一輪、挿されていた。
その言葉で、やっとツバキは白椿を飾られたことに気が付いた。それから自分を見つめ、微笑むハルに小さく息を呑む。
「っ……そうかな。白い椿を飾るのは初めてだなぁ」
美しい漆黒の髪に、美しく咲く白。
ハルはもう一度、手を伸ばす。ただ触れたのは、彼女の頬。
ほんの少し冷えた頬を、掌で愛情を込めて撫でられ、ツバキの心には嬉しさが溢れる。
沢山の愛言葉がある椿。その白い花を、貴方の色を飾って貰えて、本当に幸せ。
だから、
「嬉しいよ。ありがとう……」
ツバキはぎゅっとハルに抱き付いた。少しの照れ隠しと嬉しさ、そして愛しさと一緒に。
ふわりと体に感じる温もり。ハルは、此方から抱きしめようと思っていたのに、出遅れた。と内心ぼやいて。告げない代わり、細い背に回した腕でぎゅっと抱き返した。
互いに伝わる熱が、伝えられずに入られない想いを、引き寄せる。
一緒にいてくれてありがとう、愛してるよ。
愛してるよ。いつまでも一緒にいるからね、ハル。
白の中に、愛慕を寄せて。
身を寄せ合う2人の傍に、椿が咲いている。