■リヴァイアサン大祭2014『あきらめない貴方』
「これで……どうですかっ」ユーフィのハンマーが大きく振りかざされ、アルジェンの横腹目掛けて突き進んだ。
――ガキン!
「……っ」
手にした大剣の切っ先を地に向けた状態で迫るハンマーを受け止めるアルジェン。
「さすが、です」
「随分速くなりましたね」
ユーフィは手に込める力を緩めてハンマーを下ろし、アルジェンも大剣を鞘におさめた。
2人は訓練場で模擬戦を行い、お互いを高めあっていたのである。
それぞれの武器を下ろすと、どちらからともなく壁に寄りかかって腰を下ろした。
「支えてくれる仲間、初恋の人、勇者の帰還……全て諦めなかったら、全てを手に入れる事ができました。ちょっと……怖くもなります」
まだ少し息の荒いユーフィが呟く。
息を整えつつ頭に浮かぶのは、つい先日、勇者を救済した日のこと。
激しい戦い、勇者を救済する力を持ったユーフィは、最後の一押しとして自分の命を張るつもりだった。しかし、仲間が、初恋の人が支えてくれた。共に生きることを諦めなかったからこそ、全てを手にしたのである。
「諦める必要は、きっとないのでしょう……」
アルジェンはユーフィを抱き寄せ、腕の中に彼女の体をすっぽり収めて、ゆっくり口を開いた。
「……」
背にアルジェンの鼓動を感じたユーフィは、振り返って背中越しに見つめ、唇を重ねる。
「でも、まだまだ多くのものを、きっと欲しくなります。欲深ですから!」
静かに唇を離し、にっこり笑った。そして、
「貴方のことも、もっともっと知りたい。もっともっと、愛したい」
もう1度唇を重ねる。
柔らかい唇の温もりを受け止めたアルジェンは、目元を柔らかくし、腕の力をこめた。
「ありがとう……僕も欲の深さじゃ負けていませんよ?」
静かに唇を離したアルジェンは、ユーフィの透き通るような青い瞳をじっと見つめ、優しく囁く。
「今も貴方を余計に求めてしまっています」
そう付け加えて、今度はアルジェンから唇を重ねた。
互いに重ね合う唇から言葉が紡がれる事はなくなる。
夜はまだ、これから――。