■リヴァイアサン大祭2014『負けたら奢り』
街中は賑やか。町中が浮かれ騒いでいるかのよう。リヴァイアサン大祭だから、それも当然。誰もが騒ぎ浮かれて、楽しんでいる。
そんな中。サイラスは繁華街を急いでいた。
「で、今晩オレたちは、どの店に行く?」
アドルフ……サイラスの友人が質問する。答えは当然、
「いつもの居酒屋さ」
馴染みの店、気に入りの席にサイラスは腰を下ろした。机を挟んだ真向かいに、アドルフも腰を下ろす。
有名ではないが、ここは昔馴染みの店。こうやって居るだけで落ち着ける。新しい店を開拓するのも悪くはないが、やはり自分にとっては、この店が一番。
「やっぱこの店が、オレたちにとって一番だな」
訂正。自分たちにとって、この店が一番。アドルフの言葉に、そう思い直したサイラスは、彼の顔に浮かんだ悪戯っぽい表情に気づいた。
何か、思いついたな……。
「なあ?」
「なんだい?」
聞き返したサイラスに、アドルフは自信たっぷりにその内容を口にした。
「……飲み比べ。負けたら全額奢り」
やっぱり。
単語のみを並べただけだが、その趣旨はわかった。ならばこちらも、答えなきゃならないだろう。
「乗った。負けないよ?」
同意と挑戦とを、二言で表しつつ微笑んでみせる。
「……ったりめーだ! こっちこそ!」
そう言って、アドルフはにやりと笑った。
さっそくウェイターを捕まえると、アドルフは一杯目の注文を。
「オレはビールだ! 最初の一杯ったらコレじゃあないとな。お前は?」
「じゃ、バレンシアを」
サイラスの注文に、アドルフはいつものように茶々を入れてきた。
「お前また甘い奴かよ。ったく、よくそんなもんが飲めるな」
「いいじゃない、甘くて美味しいよ?」
「ったく、わかってねーなあ。酒ったら、もっと強くて苦くて、腹にずーんとたまるような奴じゃあないとな!」
更に、ツマミもあれこれ頼む。
しばらくすると、注文したツマミがきて、二人の前に並んだ。
お待ちかねの酒も到着。アドルフの目前には、大きめの木のジョッキ。それに並々と注がれているのは、泡立つ濃い琥珀色のビール。
「これだこれ! こういうのが酒ってもんだろう!」
満足そうに、アドルフはジョッキの取っ手を握って持ち上げると、自らの目前へと掲げた。
対するサイラスの前には、グラスに入った果実酒のカクテル。清涼感のある橙色は、酒というより子供向けの果汁飲料にも見える。
「こういう酒だって、そう悪いもんじゃないよ?」
サイラスもまた、アドルフに対抗するかのように、そしてちょっと挑発し挑戦するように、そう言い放つ。
いつもの光景。いつものやりとり。リヴァイアサン大祭でもそれは変わらず。
(「ま、こういうのが俺たちらしいよね……さて」)
心の中でそう思うと、サイラスは自身のグラスを、アドルフのジョッキに打ち付けて乾杯し……。
「さて、勝負の始まりだ」
……アドルフがジョッキを空にするのと同時に、自分の酒を飲み干した。