■リヴァイアサン大祭2014『静かな嘘』
いつしか降り出した雪は、木々の緑をすっかり覆い尽くしてしまっていた。赤い橋の上にも雪が積もり、1歩、また1歩と踏みしめるたび、独特の感触と音を返してくる。
そんな橋の真ん中で立ち止まり、ヴィオラはふと川面へ目をやった。
止む気配なく、ずっと降り続いている雪は水面に触れると水に溶け、その姿を消していく。
(「これほど降っているのに、水面に触れると一瞬で消えてしまうなんて。なんだか、儚いですわね」)
木や橋の上とは全く違う光景に、なんとなく目を奪われるヴィオラ。
待ち人が現れるまでの間、自然が織り成すそんな風景を、ただ静かに見つめていると。
「ヴィオラ。待ったか?」
小一時間ほどしてアンブローズがやって来る。物音に気付いてヴィオラはさりげなく雪を落とすと、振り返ってそっと微笑み、首を振った。
「いいえ。あたくしも来たばかり」
わざわざ本当の事を言う必要もあるまい。それよりも、
「さ、飲みにいきましょう」
アンブローズとは、元からその約束だ。これから一緒に飲む酒が、美味しければそれで良い。
「――だな。行くか。……ほらよ」
頷いたアンブローズは、差していた傘をヴィオラの方へ傾ける。少しの時間だけなら傘など必要ないだろうと、そう手ぶらで来たヴィオラの考えを、おおよそ察しているのだろう。
「気が利きますのね」
「いや、流石にこの位はするだろ」
随分と待たせたらしいからな、という言葉は飲み込み、アンブローズはヴィオラの上をすっぽり覆うように傘を傾けながら持つ。それによって、自分の肩や髪に雪が降る事になろうとも。
「今夜は何が良いかしらね」
「そういや面白い酒が入ったらしい」
「まあ、どんな?」
口元を緩めるヴィオラに、アンブローズも笑って。2人は肩を並べて歩き出す。
どこまでも、どこまでも、果ての見えない雪景色の中、赤い傘を揺らし、2組の足跡を刻みながら。
やがて2人の姿が消え、誰もいなくなった後も、橋には静かに雪が降り積もり続ける――。