■リヴァイアサン大祭2014『溺れる月』
12月24日、リヴァイアサン大祭の日。イツカとサリエは2人並んで、大きな水槽を見上げていた。
ゆらり、ゆらゆら明かりに照らされ、泳ぐのは色とりどりの魚たち。更にはエイやシャチやカメやクラゲ……様々な生き物たちが2人の前を通り過ぎては、水槽の別の場所へと去っていく。
彼らの泳ぐ動きで水槽の中の水が揺れ、そしてまた降り注ぐ月明かりが幻想的にきらめく。そんな光景を、2人はただ並んで見上げていた。
「水の底にでもいるみたいね」
「だな」
こうして過ごしていると、自分たちが、どこにいるのか錯覚してしまいそうだ。
――まるで、深い深い水の底にでも沈んでしまったかのよう。
他には誰も訪れない、2人きりの特別な場所。……周りに無数の魚たちはいるけれど、彼らだって決して2人のことを見つめているわけではない。
今もただ、自分の目の前だけを見つめて泳ぐ魚たち。その姿をとりとめなく、ぼんやり互いに眺めながら言葉を交わし続けて、イツカとサリエはリヴァイアサン大祭の夜を過ごす。
ほの昏い水の底へ降り注ぐのは、天井からの月明かりだけ。だから、室内はちょっと暗いけれど、でもその位がちょうどいいと、イツカ達は思う。
「こいつらを眺めてるのって、案外飽きないもんだな」
「そうね。……何か食べて、また戻ってきましょうか」
しばらく眺めていると、彼らにも個性があるのがわかる。泳ぐ速度や、ちょっとした動きや、仕草の違い。魚同士、仲良さ気に過ごしていたかと思えば、喧嘩別れするかのようにバラバラになる。
いつまで眺めていても面白い。そう頷き合うと、イツカ達は一度立ち上がって食事に向かう。
大丈夫、水槽は逃げない。リヴァイアサン大祭の夜は、まだまだ続くし……この水槽の魚たちは、星霊リヴァイアサンの奇跡のように、明日になったらいきなり消えたりなんてしないのだから。
また後で、と離れていくイツカとサリエに注目する魚たちはおらず、相変わらず泳ぎ続けている彼らを、ただ月の明かりだけが見下ろしていた。