■リヴァイアサン大祭2014『君の喜ぶ顔が見たいから』
「あ、先に渡しとくよ」ネルスは一通の手紙を差し出した。
以前、ハイネと一緒に訪れた小さな文具店。そこは様々な色のインクがあり、色を調合する事で世界にひとつだけの色を作れる。
「あの時のでござるな!」
嬉しそうに受け取ったハイネは、おもむろに封を開いて便箋を取り出した。
「後で一人で読んでよ!」
ネルスは、目の前で手紙を読もうとするハイネに慌てて大声を上げてしまう。
「ふむ……」
ネルスの慌てっぷりなどお構いなしに手紙に目を走らせるハイネ。深い緑――まるでハイネの髪を思わせるインクから、ヒヤシンスの香りがほのかに香っていた。
「………『愛してる。誰より』」
「うわーーーーーーー!! やめて!! 声に出さないで!!!」
ネルスが一所懸命に気持ちを綴った手紙を、あろうことか声に出して音読されて、真っ赤になって叫ぶ。
「はは、すまないでござる。あまりにも嬉しくて」
途中で音読を遮られたハイネは、謝りながらもその表情は緩みきっていた。
(「はーーーーー……恥ずかしいんだからやめて欲しいよ……でも、喜んでくれて良かった、かな……恥ずかしいけど……」)
「……ったく……寒いし、帰って飯にしようよ」
「そうでござるな!」
特別な日のディナーに相応しく、テーブルにはシャンパンやケーキが並ぶ。
しかし、そのテーブルの中央には、全く似つかわしくないおにぎりが大量に並んでいた。
「おにぎりもあるのでござるか! 拙者の大好物でござるよ!」
「あぁ、腹に溜まるものもないとって思ってね。買ってきておいたんだよ」
『買ってきた』ものにしては、随分いびつな形で、個性的なノリの巻き方がされている。
「流石の気遣いでござる。では早速いただきます!」
手作りであるのは明白。不器用な恋人の愛が嬉しくてたまらないハイネ。
ネルスは、ケーキを食べながら、そのおにぎりがハイネの口に入るまでをドキドキしながら見守っている。今日のために練習して作ったのだ。照れくさいから買ってきたと言ったけれど。
「上手でござるな。ありがとう、とても美味しいでござる」
おにぎりを頬張りながら幸せそうなハイネ。
「べ、別に?」
ハイネの賛辞に反応した瞬間にハッとするネルス。
「……くすくす」
ハイネは、見事に誘導尋問に乗ってくれたネルスに笑いがこらえきれない。
「い、いや! だから買ってきたのだから! 俺が作ったわけじゃないし!!」
「誰も『おにぎりが上手』などとは言ってござらんよ?」
真っ赤な顔で否定すればするほど、ハイネの術中にはまっていくネルス。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ」
思わずテーブルに突っ伏してしまう。
寒い外から帰ってきた2人だが、叫んで笑って、すっかり暖まっていた。
体以上に心が。
――これからも、その先も、共に笑い合おう。