■リヴァイアサン大祭2014『vino de jerez』
「――いらっしゃいませ」出迎えるロイの雰囲気は、いつものほんわかとしたものとは大きく違う。
店はたった一人のレディ――レイアのために貸し切りとなっている。鮮やかな色のドレスを纏ったレイアは、いつもと違う雰囲気に思わず頬を緩ませていた。
ロイとレイアが出会ってから五度目、夫婦になってから三度目のリヴァイアサン大祭のこの日――少し趣を変えようというのは、どちらからともなく言い出したことだった。
2人が出会った五年前には、レイアはお酒も飲めない歳だったのに――そんな思いを胸の奥にしまって、ロイは立派な淑女となったレイアのために甘く蕩ける一杯の酒を供した。
「ありがとう、マスターさん」
ロイからカクテルグラスを受け取って、レイアは口元をほころばせる。そのいつもとは違う雰囲気と仕草に思わずロイはどきりとしてしまう――けれど、それもレイアには内緒だ。
リヴァイアサン大祭という特別な日にふさわしい、他愛のない芝居めいた話が続く。
カウンター席に座るレイアのグラスが空になる頃を見計らって、ロイは新たな一杯をレイアに差し出した。
「――ねぇ、ロイ?」
酒が進み、レイアの頬は薔薇の色に染まっている。高い位置で結んだ髪を揺らして、レイアはロイの顔を覗き見る。
「来年の今日も、再来年の今日も、何年後の今日も。移ろいゆく季節を何度も巡りながら特別な一日を過ごそうね」
言って、くい、と何杯目かのグラスを干すレイア。グラスがカウンターにぶつかって、高く細い音を立てる。
いつもよりも進んだ酒のせいだろう、レイアの瞳はとろりと蕩けるようだった。
特別な日であっても、変わった雰囲気であっても、ロイのそばにいられると得られる安心感のせいだろう――レイアはカウンターに肘をつき、すぅ、と安らかな寝息をこぼしていた。
夢心地となったレイアに、ロイは一人微笑みを向ける。
また来年も、こうして過ごすのも良いかもしれない――そんなことを思いながら、夜は更けていく。