■リヴァイアサン大祭2014『リヴァイアサン大祭・2014年』
そびえる世界樹。「ふぅ……」
そのふもとから、ここ……舞踏会のホールへと入場したレオンハルトは、マントにまとわりついた小雪を払い落としていた。
「外が寒かったから、ここの暖かさがありがたく感じるね」
彼の呟きを聞いて、彼の隣の、小首を傾げた少女が尋ねる。
「あの……レオンハルトさん。踊れるんですか?」
少女からは、育ちの良さが感じられる穏やかさと人の好さがにじみ出て、側にいるだけで安堵感と安心感とが伝わってくる。
「ナナミさん、一応ボクはランスブルグの第1階層出身ですよ」
澄んだ青色の瞳で見つめてくる少女へと、レオンハルトは返答した。
「……正直、優雅に踊れる自信はないですけどね。なにせ……」
母上と、踊った時以来だから。
そう付け加えると、ナナミが心配そうな顔でこちらを見つめてくるのが見えた。どうやら、寂しそうな表情を浮かべてしまっただろうか。
「さぁ、ボクたちも踊りましょう」
わざと明るい声でそう言うと……レオンハルトはナナミの手を取り、既に踊っている人々の中に入っていった。
今宵は、リヴァイアサン大祭。そしてここでは舞踏会が行われ、正装した様々な男女のカップルが踊り、互いに会話し、優雅に踊り、大祭を楽しんでいた。
その人の輪の中に、レオンハルトはナナミを丁重にエスコートし……音楽にあわせてワルツを踊る。
まだ両親が健在だったころ、まだ幸せだった時の記憶。それらとともに、あの時覚えた踊り方を思い出し……目前の少女と、そのステップを踏む。
「……意外、ですね」
「え?」
しばらく踊っていたら、ナナミからの言葉が。そのちょっと予想外な言葉に、彼はきょとんとした表情を浮かべる。
「だって、レオンハルトさんって……あんまり器用な方じゃあないと思ってましたから……」
ナナミの言葉に、レオンハルトはつい苦笑する。
「……ボク自身も、そう思ってますよ」
しかし、我ながら意外に思ってはいた。先刻から、結構うまい事踊れていると、自分でも感じていたのだ。
「……踊るのは、本当に久しぶりなのに」
そう思っていたら、流れるワルツが最終楽章に。
そして、舞踏もまたラストへと向かっていく。
手をつないで、大きく広がると。ふわり……と、2人は引き寄せ合い、そっと抱き合う。
まるで、お伽噺の王子と王女、騎士と姫。
鼓動が高鳴り、胸がいっぱいになる。だがそれ以上に、高揚していた。
この、今のこの時なら、できなさそうな事も、できそうな気がする。言えない事も、今日なら言える。
「これからも……ボクの側にいてくれるかな? 白兎の君」
レオンハルトの、その問いかけに。
「もちろんですよ、緋獅子様」
頬を紅潮させつつ、静かに、けれどはっきりと……ナナミは返した。
曲が終わり、2人は離れる。
だが、その手はまだ、繋いだまま。握ったナナミの手の感触とともに、レオンハルトは想いを寄せていた。
2人で紡ぐ、未来へと。