■リヴァイアサン大祭2014『父と息子の真剣勝負・負ければもれなく女装の刑』
男には、勝たねばならない戦いがある。例えそれが『くだらない』と周囲が口をそろえて言うような理由であっても。男ならばそれに対し、全力で戦いを挑み、勝たねばならない。
そう、その相手が親子であっても……戦いを挑み、勝たねばならない。
リョウはまさに、その状況に陥っていた。
白く、冷たき雪の塊が、リョウに向かってくる。
そしてリョウもまた、自分へと雪塊を投げつけてくる少年……クラトへと、同様に仕返しを。
「オラオラ、そんなんじゃあいくらやっても当たらないぞ?」
戦いの場に光るリョウの両眼は、ニヤニヤと余裕の笑みとともに、挑戦的な視線を投げ寄こし。
「随分と余裕ですね…‥? 吠え面かいても、知りませんよ。父さん?」
そして、クラトの荒々しい視線が、反抗の光をリョウへと投げ返す……息子の、父親への反抗心とともに!
……それは、父親と息子の、戦いのため。親子は互いに相手から受けただけの仕置を与え合った。慈悲は許されず、乞う事もまた無い。
……などとリョウの脳内では高尚なやり取りを勝手に広げていたが、簡単に言えば両者とも、雪玉を傍らに抱え、互いに無茶苦茶に投げ合ってるだけなのだが。
それでも、負けるわけにはいかない。なぜなら、罰ゲームが存在するから。
それは『負けた方は女装』。
女装、すなわち女の姿で過ごさなきゃあならん。そんな事いい年こいた自分が出来るわけがない。かくしてリョウは、息子に対して大人げなく本気を出していた。
そしてそれは、クラトも同様。10歳の少年が女の子の姿になるなど、特殊な趣味や性癖や事情を有しているのでなければ、たいがい嫌がるもの。クラトも例外ではない。
なわけで、黒い笑みを浮かべた息子からの攻撃を、リョウは受けまくっていた。
「ぶはっ……やったな、お返しだ!」
顔に命中したのになかば本気で怒り、小脇に抱えた雪玉をこれでもかと投げまくるリョウ。そのうちの一発がクラトの顔ど真ん中に命中し、彼の黒い笑みがさらに黒くなった(ように見えた)。
「フフフ……だったら、本気で相手をしてあげますよ……」
同じく、顔への一撃になかば本気になって怒り、抱えた大量の雪玉を、四方八方投げつける。
「はーっはっはっはーっ! まだまだ十年早い!」
「ふんっ! もう若くないんだから無理しないでください!」
などと、いつ果てる事ない戦いは……夕方まで続いた。そして、
「……ヘックション! ま、あの戦いは俺の勝ちって事で良いな?」
「……クション! 何言ってるんですか父さん。あれは僕の勝ちです」
「何言ってんだ、俺の方が雪玉当たってただろうが」
「いいえ、僕の方が当たってました。父さんの方が外れまくってましたよ」
「生意気言いやがって、よし、ならもう一勝負……へーっクション!」
「の、望むところ……ハックション!」
寒さにやられ、2人仲良く風邪ひいた父と子であった。