■リヴァイアサン大祭2014『雪月に心躍らせ、よい一献』
雪の舞う中、ソウクはヒナを縁側まで案内してから室内へ戻った。用意するのは熱燗と2人分のお猪口。寒い縁側、冷たい雪を眺めながらでも、温かい酒があれば体が冷え込んで風邪を引くこともない。そう思ってのことだった。
「これはこれは……」
ふすまを開けて縁側に出て、ソウクは感嘆の声を漏らす。
庭をふわふわの雪が飾って、辺りは真っ白になっている。あとからあとから雪を舞わせる空は既に暗く、綺麗な形の月が見える。
「んー、綺麗じゃのう……」
雅やかな口調で返すのは縁側に座っていたヒナ。微かな風に長い黒髪を揺らしながら、ヒナは空を見上げていた。だが、背後からのソウクの声に振り向いて、微笑みを漏らす。
「まったくじゃな」
頷いて、ソウクはヒナの隣へ熱燗とお猪口を載せたお盆を置いた。自分もヒナと同じく、月と雪を眺めながら、酒を飲むためにヒナの反対側へ座ろうとして、
「……ん、」
と、腰掛けるより早く、ヒナに呼び止められ、手招きを受ける。
「気分がいいから、ちょっと近くまでは許す」
珍しく近くを勧められ、ソウクは意外そうな表情になる。
「見ないともったいないのじゃ。人生の数割か損することになるのじゃ」
言い募りながら、ヒナはこちらへ来ようとしないソウクに不満そうな顔を見せる。
「――では、失礼するで御座るよ」
意外さに驚かされたが、それでも確かに嬉しかったから。
だから、ソウクは薄い微笑みを浮かべてそう言うと、ヒナの隣に腰を下ろした。
「月と雪が良い肴なのじゃ」
互いのお猪口に酒を注ぎ合い、一口飲めば体に温もりが灯る。
頬をほのかに赤く染めながら呟くヒナに、「そうじゃなぁ」とソウクは続けた。
「拙者としては其処にヒナ殿も加えて、更なる良き肴」
言って、ソウクは隣に座るヒナの姿を見やる。
ヒナが着ているセーターは、彼女の肌と髪にはよく似合う赤色。青い和装の自分とは好対照なヒナに気を良くして、ソウクはこう呟くのだった。
「綺麗でござるな、本当に」