■リヴァイアサン大祭2014『雪下の宣誓』
しんしんと静かに雪が降る露天風呂は、今バスタナートとリュウガだけの貸切だった。ゆっくり湯に浸かると、不意に広がる沈黙。ふとバスタナートの方を見たリュウガは、
(「……またか」)
少し前から彼の様子がおかしい事にリュウガは気付いていた。妙に落ち着きがないし、どこか不安げにも見える……今もどことなく、その表情は翳りを見せている。
その理由にも、心当たりがある。どう声をかけたものだろうか。そう一瞬逡巡している間に、リュウガの視線に気付いたバスタナートが顔を上げ、リュウガへと視線を返してくる。
「なあ、どうして温泉に行こうだなんて言い出したんだ?」
真剣な、射抜くような眼差し。それはリュウガが口を開くのに十分なきっかけでもあった。
「バスタ、不安にさせてすまない。俺がいない間、相当な心配を掛けただろう……だから、バスタの不安を少しでも取り除けたらと思ってな」
それはリュウガが奈落最終決戦の最中、生死不明に陥ってしまった事を指している。幸いにも、リュウガは数日後に無事が確認されたが、それまでバスタナートにどれだけの心配を掛けたか。
それは、リュウガの言葉にバスタナートが、今にも泣きそうなくらい顔を歪めている事からも解る。バスタナートが、かつて愛する人を失っていることをリュウガは知っている。
「……また失っちまうのかもしれないって、気が気じゃなかったんだよ……」
リュウガは無事だった。だが次は?
戦いは激化する一方で、次もまたリュウガが無事で戻ってくるとは限らない。彼を失ったら――その喪失感を想像するだけでバスタナートは耐えられなかったのだ。
「本当に悪かった。バスタ、俺は絶対にお前より先には死なない。必ず帰ってくる。もし死んだら生き返ってでも帰ってくる」
「……生き返ってでもって、ゾンビになって帰ってくるなよ?」
ぐっと肩を引き寄せるようにして誓うリュウガに、バスタナートは救われたような気がした。ようやく不安を緩め、少し笑って冗談交じりに返す。
「そうなったらバスタが引導を渡してくれるか?」
「自分の事ぐらい自分でやれ」
「ちえっ、つれねぇ奴だぜ」
笑って返すリュウガにバスタナートの返事はそっけない。だが、その声は確実に笑っていた。だからこそリュウガも安心して笑うことができる。
2人が笑うのにあわせて温泉の表面が波紋で揺れ、ゆらゆらと湯気が立ち上る。ひとしきり笑った後、ふとバスタナートが口を開いた。
「なあ、リュウ」
「うん?」
「……ありがとうな」
ぽつりと呟くバスタナート。その肩を、リュウガは無言で笑って、もう一度強く引き寄せた。