■リヴァイアサン大祭2014『笑う門には福来る』
オータムは、焦っていた。時間が、足りない。
「やべえ! もう皆がくるじゃあねーか!」
これから行われる、重要にして重大にして大切な出来事の準備。
平たく言えば、リヴァイアサン大祭のこの日の準備を、大急ぎで整えている最中だった。
オータムは仲間たちとともに『何でも屋』を営んでいる。
ここは、その事務所。そして今年のリヴァイアサン大祭にて、オータムは自身の『何でも屋』の面々を事務所に招待していたのだった。
婚約者のツバキとともに入念な準備を行い、料理や飾り付けなどはなんとかできたオータムではあったが
せっかく用意した衣装。それに着替えるのを忘れていたのであった。
かくして、大祭にてよく着られている赤い衣装を大急ぎで身に付けている始末。
「ああっ、くそっ。慌てろ、落ち着くな! ……じゃあなくて、落ち着け、あわてるな! なんでこの服、袖が通らないっ……ってズボンだこれ!」
四苦八苦しつつ着替えていると、ツバキもまた大慌てで着替えているのに気付いた。
彼女が着替えているのは、動物のコスチューム。角と耳が付いたカチューシャをかぶり、赤鼻を最後に付ける。
「……ええと、くそっ! なんでこの付け髭くっつかねー……って、逆さまかこれ?」
急げ急げと心が急くと、思った通りにうまくいかない。
いつもの仕事は、入念に準備や用意を行っており、こんなに大慌てする事はそうそう無かった……はず。
「……くすっ」
ふと、ツバキの笑い声が。
口数の少ない彼女の笑い声を聞き、オータムはようやく落ち着きを取り戻した。
「……ふふふっ、くすくすっ……」
「……ま、こんな事は久しぶりだよな」
彼女の笑顔は、とても幸せそう。幸せというものを実感しつつ、楽しげに笑っているかのよう。
こんな些細な事、ささやかな出来事。けれど、こんなやりとりから醸し出される雰囲気……。
それはとても、暖かく、心地よい。
これはきっと、リヴァイアサン大祭だから気づけた事。きっと今宵だけの魔法。
とても小さく、くだらないけど、オータムにとっては大きく、大事なもの。
こんな毎日を、これからも続けていきたい。彼女と、ツバキと一緒に……。
「「!?」」
などと思いにふけっていたら、玄関扉をノックする音が。
「って、やばい! 皆来た! ツバキ、急げ!」
もうひと悶着あって、かろうじてパーティは開始された。
ちなみにオータムの衣装は、大慌てではいたズボンが後ろ前で、それを指摘され大笑い……な一幕もあったという。