■リヴァイアサン大祭2014『たまにはのんびりとした休息を』
ティルキアが正装した様子で現れると、ヴォルフガングは感心した様子で頷いていた。「やれば出来るじゃあねぇか」
「ん? そうでしょうか」
リヴァイアサン大祭の今宵、2人で食事でも……という事になり、そしてたまには高級なレストランに行こう……という話になった結果、2人はここにいた。
普段は腐れ縁的な関係のティルキアとヴォルフガング。こんな店に入るのは珍しい。
趣味の良い内装に心地よい音楽。窓の外には、無数の光により輝いている、星空と夜景。
スーツで決めた2人も、見た目は育ちの良い大人の友人同士……のよう。
ともかく、食事が始まった。
前菜にスープにオードブル、そして主菜と続く。
今食しているのは、高級なステーキ。肉汁と出汁で味付けされたソースが、肉のうまみをより一層引き立ててくれている。ティルキアは、夢中になって口に運んでいたが。
ふと顔を見上げると、向かい合って座っているヴォルフガングの表情が、呆れたそれになっているのに気付いた。
「? なんでしょう?」
「……汚れてるぞ?」
「え、何がですか?」
聞き返すと、ヴォルフガングは自身の口元を指さし、呆れた顔で指摘してくれた。
「……ソース、口元に付いてんぞ」
ようやく気付いたティルキアは、反射的に袖で拭こうとしたが。
「スーツ汚す気か。ナプキン使え」
すぐに目前の友人に止められると、ナプキンを取り上げて口元を拭いた。
「お前なぁ……ったく、中身はガキのままか。見た目だけは良いのにな……」
ぼそっと、ヴォルフガングが何か言ったようだったが、ティルキアはまたも頭に疑問符。
「長年なんでこんな奴と一緒なのか」、とか、「こいつと付き合い良い自分が我ながら不思議だ」とか、そんなつぶやきが聞こえてくるが、ティルキアとしては何が何やら良く解らず。
(「うーん、迷惑かけちゃったでしょうか。おいしい食事だから、つい夢中になっちゃっただけなんですけど」)
心中でそう考えたティルキアは、そうこうしてるうちに肉料理を完食。
が、思い付きが頭に浮かび、パンパンッと手を叩いてウェイターを呼んだ。
「あのー、おいしかったのでおかわり!」
ヴォルフガングの顔色が、また変わったようだったが、その時は気付かなかった。
その後も、ワイングラスをテーブル上に倒しちゃったり、甘々ですごく美味しいケーキに夢中になり、口に目いっぱい頬張ったり、クリームの髭が口の周りに付いちゃったりもしたけど……なんとか、食事は済んだ。
けど、なぜかヴォルフガングは疲れた様子。
「今日は、ありがとうございました。また一年、宜しくお願いしますね……!」
そう笑いかけると、ヴォルフガングは力ない微笑みをティルキアへ向けてくる。
「……嫌な予感しかしねぇ」
「?」
疲れてるのかなと、疑問に思うティルキアであった。