■リヴァイアサン大祭2014『君と過ごす初めての聖夜』
暗い空から、白い雪は休むことなく街に降り注ぐ。見慣れた景色がいつの間にか、何もかも白に染まっていく。
今宵は特別な夜。一年で一度の、奇跡が起こる夜。
「ヴォルフ、一緒に出かけようぜっ」
家の前に彼が立ち、そう誘いかけてくれた時、彼女はぱあっと笑顔を咲かせ、それから少し恥ずかしそうに微笑んだ。
手を繋ぎ、さくさく、と2人で雪を踏みながら、賑やかな街へと歩く。
暖かな格好はしているけれど、体の中でぽかぽかする場所はつないだその掌な気がするのは何故だろう。
両想いになって、初めてのお出かけだ。
先を歩くクレアの横顔をそっと見つめ、ヴォルフラムは小さく心の中で思う。
心が弾むのは、だから当然で。
「今日は、どこへ連れて行ってくれるの?」
期待をこめた言葉に、彼は明るい表情で答える。
「そりゃ勿論、着いてからのお楽しみだぜっ♪」
そしてまた前を向き、少し歩く速度も速くなる。
きっと彼は、楽しい時間を過ごす為に素敵な場所に向かっているのだ。
そう感じるだけで、ヴォルフラムの胸はますます高鳴った。繋いだ手にちょっとだけ力をこめて、彼の歩調に合わせていく。
二人で歩くのは、1人で歩くよりも少し気を使う。
だけど心を預けていいと思う相手なら、そのことにたくさんの幸せを感じるものだ。
「ふふ、楽しみにしてるね」
微笑みながらクレアに告げると、彼は目を細めて振り返り、それからますます彼女の手をぐいぐいと引っ張って歩いた。目指す場所はもうすぐなのだろうか?
恋人の暖かな掌を感じながら、クレアは道を急いでいた。
あの場所に早く連れて行ってあげたい。自分のお気に入りの場所を、特別な君と共有して過ごしたい。
そう思うとついつい急ぎ足になってしまう。
けれど、びゅうと冷たい北風が一筋、2人に吹き付けていった時。
長い金色の髪を彼女が押さえる仕草を見せた時に、クレアはちょっと自分のミスに気がついた。
「ヴォルフ、大丈夫か?」
「……ん?」
髪に手を添えつつ、こちらを見つめる彼女。出会った時より彼女の髪は長くなり、どんどん女性らしくなって見える。美しいと思う。彼女を愛しいと改めて感じてしまう。
「ちょっと急ぎすぎたぜっ。もう少しだから並んで歩こう」
笑いかけると彼女はにっこりと微笑んで頷いてくれた。
目指す場所までもう少し。
だけど急ぐ必要なんて無い。2人で紡ぐこの一歩一歩だけで、心はとても満たされていくのだから。
しんしんと静かに雪は降り注ぐ。
未来へ続く、まだ初々しい恋人たちを祝福するように、いつまでも。