■リヴァイアサン大祭2014『ゆびさきの誓い』
美しい星空の下、広がる氷面は空を照らして静かに輝く。緩やかに軽やかに舞い散る雪の結晶達に見守られ、恋人たちは氷上を華麗に舞い続けていた。今宵は特別の夜。沢山の恋人達が美しく着飾り、賑やかな場所に集う。
しかしその中でも、二人はひときわ輝きを放っていた。燃える様な赤い髪に立派な体躯をしたコーキネア、対して赤い衣装を纏う小柄なレア。美しき二人は互いに見つめあい、固く手を握りあいながら、華麗なダンスを繰り広げていた。
ついさっきまで、初めてのダンスに不安を抱えていたとは思えない二人だ。
互いに相手の足を踏まないか、暴走してしまわないかと心配しながら氷の上に降り立った彼らは、いつしか互いの手を取り、相手を思いやりながら、曲の流れに合わせて滑ることを心から楽しめるようになっていた。
「ブルー・リヴァイアサンを」
曲が終わり、踊り疲れた二人は少し休憩することにして氷上を降り、傍らにあるカウンターへと進んでいた。
今宵限定の深い藍のグラスを受け取り、コーキネアは紅いドレスに身を包むレアへと手渡す。
「ありがとう」
受け取る指先。その左指に光る指輪を彼は見ていた。その視線に気づいて、彼女も指輪を見つめ、それから彼を見上げた。見つめあい、彼は目を細める。
「去年はウェディングドレスだったな」
それは一年前の大祭の日。純白に包まれた美しい彼女。
一年経って、またこの日を過ごしている。今度は華やかな紅の衣装を纏う君と。
「そうだね」
夫の思いに気づき、レアはゆっくり頷いた。
仲間として出会い、恋人となって、そして夫婦となって過ごした一年間。
気づけば、いつも隣には彼がいた。いつの間にか一人だと思わなくなった。
「……」
コーキネアから受け取ったグラスを、レアは静かに見つめる。揺れる深い藍を見ていると、幸福と同時に存在する不安がまた心の中で首をもたげてくる。
幸せな時間がある日突然、絶たれてしまうことを彼女は経験してしまっているから。
「なんだか幸せすぎると、怖くなっちゃうな……」
「何言ってる」
彼の逞しい腕が、彼女をそっと引き寄せた。彼に触れた部分だけ、空気の冷たさが去っていく。左手の薬指の指輪をそっと撫で、コーキネアは囁いた。
「指輪に刻んだ『永遠』の言葉、忘れてるワケじゃねぇだろう?」
「……勿論」
答えて、レアは彼に一瞬だけ気弱な笑みを見せた。そしてそれを振り切るように笑顔になった。
「傍にいてくれてありがとう」
「当たり前だろ。これからもずっと、傍にいてくれ」
「……」
答えの代わりに彼女は心からの微笑を彼へと向けた。溢れんばかりの愛おしさが言葉を失わせたのだ。彼で良かった。彼だから良かった。
冷たい頬を、大きな手の平が覆う。レアはその手に自分の手の平を重ねた。
見つめ合う二つの影が一つに重なる。
互いの暖かな唇を感じつつ、二人は今宵が永遠に続くことを実感していた。