■リヴァイアサン大祭2014『水の都の聖なる夜〜静けき水面に星は煌めく〜』
「これで最後かな? もうすっかり夜も遅くなっちゃったよ……」リィナは、少しだけ疲れのにじむ顔で苦笑を浮かべた。
「ふふっ。思いのほか忙しくなっちゃったわね。結構いい時間かしら?」
ラテリコスも苦笑しながら時間を確認する。
2人がいるのは大きな運河のゴンドラの上。
彼女らが所属するゴンドラ会社はこの日、子供達にプレゼントを配るイベントを催した。イベントには人手も必要で、当然のようにリィナとラテリコスは駆り出されていたのである。
「リコ、ごめんな? つき合わせちゃって」
リィナは申し訳なさそうに苦笑した。
今日、エルフヘイムでは一日中雪が降り続き、星霊リヴァイアサンが見られる特別な日である。しかし、2人がいる場所からはリヴァイアサンを見る事はできない。
「ううん。私も楽しかったし、気にしないで?」
星霊が見られなくても、一緒にいられて楽しかったし、とラテリコスはにこやかに笑う。
「私もリコと一緒にいれて嬉しいよ」
ラテリコスの笑顔に、リィナは心の底から嬉しそうな笑顔を浮かべた。
(「でも……何か忘れてる気がする……」)
ふとラテリコスが何かを考え込む。
「?」
その表情にリィナが首を傾げると、
「……ねえ、挨拶忘れてない?」
ラテリコスは思い出したように口を開いた。
「挨拶? ……あっ!? まずい、いつもお世話になってるから挨拶しておかないと!」
最初は誰への挨拶だろうと首を傾げたままのリィナだったが、はっとする。この水の恩恵を与えてくれる水神への挨拶を忘れていたと。
「今からでも遅くないわ。ご挨拶に伺いましょう?」
「そうだな」
ラテリコスが笑いかけると、リィナも頷いてゴンドラのオールを持ち直した。
「……でも、その前に」
そっとリィナの腕に手を絡めて寄り添ったラテリコスが、じっと銀の瞳を見つめる。
「リコは甘えん坊さんだね……」
その意図を汲み取ったリィナは、ちらりと時計を確認。
「これは元アクエリオの星の腕の見せ所かな?」
ゴンドラレースで優勝した腕があれば、今日中の挨拶も間に合わせる、そう自信に満ちた表情で笑うリィナ。
ラテリコスは静かに瞳を閉じると、リィナがゆっくりと唇を重ねた。