■リヴァイアサン大祭2014『ぬくもり』
茜色から群青色のグラデーションがかかる空。刻々と群青色の面積が広がり、空の色に合わせるように森は徐々に煌きを増していく。
温もりを受けて咲いた様々な色。一夜限りの命を懸命に咲かせている花達――。
「……」
誰かの温もりがなければ花開くことができない花。つまり、咲いている花達は、温もりを込められた花だ。
込められた温もりに、どこか温かく感じられる花を見惚れつつも、オニクスの瞳には迷いが浮かぶ。
(「……俺が触れていいんだろうか……」)
綺麗なものは、同時に壊れやすいものだから。必要だと分かっていても、自分が触ったら壊れてしまいそうで、蕾を包もうとする手が止まってしまった。
「……オニクスさん」
隣のヴフマルの顔に苦笑が浮かぶ。
綺麗なものや愛らしいものに触れようとする度に戸惑うオニクスの様子は幾らか見慣た。もどかしさと共感とが半々でヴフマルの心を埋める。
(「想いの込められたものはいつだってうつくしく、いとおしい……だから――」)
「……大丈夫ですよ」
ヴフマルは静かに微笑んで、優しく口を開いた。そして、止まってしまったオニクスの手を外側からそっと包む。
「……うん……」
手の甲に感じるヴフマルの温もりが、オニクスの心を溶かした。
(「エルディのぬくもりも届いてくれ……」)
オニクスは目を閉じて、祈りながら蕾を包んだ。
「ほら、──咲いた」
ヴフマルの声に瞳を開くと、ふわりと綻んだ――暖かな色合いの花。
「ああ、ちゃんと咲いてくれた。──2人で一輪、それはそれでなんとなく俺達らしいのかもな」
ヴフマルの温もりを感じたから、優しい声が後押ししてくれたから、だから咲かせることのできた花。2人で足りないところを補いあって1つを完成させる。
「俺達らしい、ですか?」
オニクスの言葉に、意味を感じ取って、ヴフマルの顔に柔らかな笑みが広がった。
「……綺麗で、きれいで、あったかいですね」
また来年もその先もずっと、こうしてまた花を咲かせに来たい。
2人、一緒に。