■リヴァイアサン大祭2014『可愛い娘の為に』
街がにわかに活気づき、人々が笑顔で行き交う大祭の日。カラフルに彩られた商店街を眺めながら、並んで歩く夫婦の姿があった。
「イリアスにはどんなプレゼントを送りましょうか」
妻であるユエが思案顔でそう呟くと、夫のイリークは少し笑んだように見える。
「喜びそうなプレゼント、あるとええな」
そう。今日の夫婦の目的は、新しく増えた家族――大切な娘のためのプレゼントを購入すること。
ただ、イリークの足取りがいつも以上に軽い理由は、こうして久々にユエと共に出歩く嬉しさからだろう。ユエもまた、二人きりで出掛けている感覚を噛みしめるように、歩みを進めていた。
「あっ」
やがてユエが不意に小さく声を上げた。見れば、前方にある動物の形をした店の看板にユエの視線は釘づけ。
外壁にも可愛らしい装飾がされているその店は、星霊を模したぬいぐるみを取り扱う店のよう。
「ねぇ、イリーク。あのお店はどうかしら?」
ユエが楽しそうに指させば、そんな妻の様子を見ていた夫も頷いて、店へと足を向ける。
そして二人が店の扉をくぐると、店内は内装もファンシーで可愛らしい雰囲気に溢れていた。何より店中の棚やテーブルには、沢山のぬいぐるみ達が愛らしく鎮座して二人を出迎えてくれていた。
「お、可愛えの色々あるやん。男一人ではとても入れんから助かるわ」
「本当。沢山の可愛いのがあって悩んじゃう」
早速手近なテーブルにあったぬいぐるみを持ち上げながらユエが唸る様子を見て、イリークは優しく言葉を付け加える。
「ゆっくり選んでええで」
そうして自分もそっと辺りを見渡すと、イリークの目に飛び込んできたのは星霊ジェナスのぬいぐるみ。
じっと自分を見つめてくる瞳に、徐々に心を奪われてしまう。
(「……く、自分用に買うか?」)
いやいやあかん誘惑に負けたら、負けたら!
今日は娘のプレゼントを買いに来たのだと、ぐっと堪える背中にユエの明るい声が掛かった。
「この子にしましょう!」
「……お」
ユエが手にしていたのは、ふわふわもこもこの羊のぬいぐるみ。
抜群の触り心地に加えて、つぶらな目がさらに愛らしくて。
「きっとイリアスも気に入ってくれるわ」
愛娘のことを思い浮かべながら、ユエがイリークにそのぬいぐるみを見せると、イリークは目を細めた。
「ああ、気に入ってくれるやろな」
そうして夫婦が自然と微笑み合えば、プレゼントは決定だ。
「この子もまた新しい家族や。帰ったら名前付けよか」
新しい家族。
そんな言葉に、ユエの瞳は優しく和む。
「そうね、名前を付けてあげましょう」
店の外に出ると、冷たい風がイリークの頬を撫でた。
けれど、体が冷える前にユエの温かい手が彼の掌を優しく包み、彼は口元を緩ませた。
――手を繋いで帰ろう。愛しの我が子が待つ家へ。
帰宅後、妻がこっそり購入していたジェナスのぬいぐるみを見て、夫は大喜びしたようだけれど、それは家族だけの秘密。