■リヴァイアサン大祭2014『碧の聖夜』
リヴァイアサン大祭の夜。森の、とある場所に立つ祠。そこには、柔毛の狼がいる。
ゲオルグは、その存在を知っていた。なぜなら、以前に関わった事があったからだ。
『月影に舞う銀狼』とも呼ばれる暗殺者でもある彼は、ある種の趣味を持っている。平たく言えば、もふもふ好き。なので今宵は件の狼に会わんと、祠へと赴いた。
そう、狼……『もりがみ様』の元へと。
「もりがみ様、今晩は!」
祠を目前にゲオルグが大きく挨拶をする。と、祠の中から出てくるは……牡牛ほどもある、巨大な狼。
その眼差しは優しく、その毛並みはふわふわ。まるでゲオルグを歓迎しているかのように、首をかしげていた。
「……うわー……」
そして、ゲオルグの隣りでそれを見つめるは、細身の少女。
色白な肌と対照的に、長い黒髪と黒い衣服。頭に結ぶ大きなリボンは、まるで黒羽の蝶が止まっているかのよう。
赤い瞳を持つ少女の名は、プリシラという。
(「誘ってみて、正解だったな」)。
などと思いつつ、ゲオルグはもりがみ様へと供え物を取り出した。
甘い香りを漂わせる、カスタードプティング。もりがみ様への供物としては最高の一品。
この供物を供えたら、ゲオルグはもりがみ様へと聞いてみるつもりだ。……一緒に、聖夜を過ごさせてもらえないか、と。
「ふう……」
ゲオルグは、至高の一時を過ごしていた。
供物のプリンを食し、ともに過ごす事を了承してくれたもりがみ様。
プリシラとともにゲオルグは、更なる願い……「もふもふのもりがみ様に、包まれたい」とお願いしたところ。巨大な狼は誘うように、目前で横になり丸まった。
それに体をまかせると、予想通り……否、予想以上のもふもふ感触。もりがみ様に包まれつつ、ゲオルグは携えていたホットココアを瓶からふたつのカップに注いだ。
一つを手にして、中身を口に……しようとしたが。
まだ熱々。ふうふうと、息を吹きかけつつ冷まそうとするが。
「熱いの、だめなの?」
同じくココアを受けとり、飲み干したプリシラが不思議そうに尋ねる。
「え? あ、いや……」
「猫舌なんだ。おじさま、かわいい」
「い、いや! そんなことはないからな!?」
彼女の言葉に照れつつ、ゲオルグは無理にぐいっと一口。
「あちちっ!」
舌を火傷してしまった。
「ふう……」
柔らかな毛に包まれ、もりがみ様のぬくもりを感じつつ……どれくらい経っただろうか。
プリシラとの会話もなく、夜空を見上げているだけの時間。
しかし。誰かが隣に居てくれる。ただそれだけで……心が安らぐ。いつものように、一人だけで過ごすより、ずっといい。
プリシラも……静かに夜空を見上げていた。
彼女も、同じく安らいでくれているだろうか? 今夜、彼女は私の趣味に付き合わせてしまったが……。もしも同じように、安らぎを感じてくれているのなら。
……とても、嬉しい。
男と少女と、狼は、静かな時の中を揺蕩い続けた。