■リヴァイアサン大祭2014『死が二人を分かつとも』
アセレアはガラス越しに雪景色を見つめていた。ガラスの装飾が、室内を飾るたくさんのキャンドルの灯りに照らされて輝き、リヴァイアサン大祭の雪景色がよりいっそう美しく感じられる気がする。
そんなアセレアの傍らには、今、一人の女性がいた。
青い髪と瞳を持ち、色白の肌を有した彼女、シェラザードは……この美しい灯りに照らされた場所で、まるで幻想の中に現れる妖精のよう。
「着て、みたいの」
彼女は、そう訴えかけていた。
「真似事でもいいから、ウェディングドレスを着てみたいの。だめ……かしら?」
彼女、シェラザードの我儘。アセレアはちょっと考えるふりをして……。
「だめ、ですね。真似事でドレスを着るより……」
そう言ってみると、シェラザードは悲しげな顔に。
「……それくらいなら、本当に式を挙げてしまいましょう」
しかし、続けて言った言葉を聞くと、シェラザードは一転し、明るい顔に。
それを見て微笑みを浮かべたアセレアは、うやうやしく彼女の手を取った。
「シェラの事、お嫁さんにもらうつもりでしたから」
アセレアが、さらに続けてそう告げると……シェラザードは、一瞬驚いた顔に。
そして、言葉に出さず、『いいの?』と訴えかけるような顔で、アセレアを見つめ返してくる。
「…………」
沈黙が続き、そして。
青色の瞳で、アセレアを見上げながら、
「……お嫁に、貰って……」
シェラザードは……小さな声で、しっかりとそう告げた。
決して大きな場所ではないし、見守る者もいない。けれど、それでも……天は見守ってくれているはず。
祭壇の前に進み出てきたのは、ウェディングドレスを着たシェラザード。
その姿は、いつもと違う。いつもの彼女とは異なる、まるで夢の世界から出てきた精霊の姫のよう。
目を見張るその美しさに、アセレアは言葉を失い……胸がいっぱいになった。
こんな美しい女性が、自分の妻となるのだ。
「……死が、二人を分かつまで……」
誓いの言葉を紡いだアセレアだが、シェラザードは手を伸ばし、立てた指を彼の唇に当てて、首を振った。
「死が二人を分かつとも、私はアセレアさんと一緒にいたいわ」
それは彼女が口にした、最大級の告白。シェラザードにうなずくと、アセレアは改めて誓いの言葉を口にする。
「それでは……『死が二人を分かつとも』共にあることを、誓いましょう」
その言葉は、魔法。互いが互いを、愛するという魔法。
「私も、誓います」
シェラザードが、言葉少なに返答するが、それで十分。余計な言葉は必要ない。
見つめ合う二人。シェラザードが目を閉じると、アセレアもまた、目を閉じ……妻となった女性の唇へと、口づけした。
それは、誓いの口づけ。死が二人を分かつとも、共にある事を誓った者たちの口づけ。
リヴァイアサン大祭の夜に交わされた、小さな奇跡が……二人の間で輝いていた。