■リヴァイアサン大祭2014『銀の世界に包まれて』
柔らかなベッドで眠りについていたオータムは、ゆっくりと目覚め、つんと冷たい空気を鼻先に感じた。それから普段にはない静けさに気づき、隣で眠り続けるツバキを起こさぬように細心の注意を払いながら身体を起こした。「……っと」
暖かな寝台と違い、冷たい外気が肌に染みる。我慢して、窓に顔を寄せた彼の口から驚きの声が漏れた。
「おお……こりゃスゲエ」
窓の外は一面の銀世界。見渡す限り、真っ白な雪が全てを包みこんでいる。
「……ん……どうか、されました?」
もぞもぞとシーツが揺れて、長い漆黒の髪が見えた。まだ寝ていていいぞ、と優しく呼びかけたあと、オータムはしかしこの景色を共有したい思いを断ち切れず、笑って言った。
「外、すごいぞ。なかなかここまで積もるのは珍しいなあ」
「積もる?」
興味を抱いたらしい彼女は、シーツを纏い、ベッドを降りるとオータムの隣に近づき、窓の外に眼差しを向けた。
「アマツでも降ることはありましたが……久しぶりにこれだけの雪を見ましたね」
懐かしそうに目を細めるツバキを見下ろし、オータムは小さく苦笑した。
「こりゃ、雪かきが必要になるなぁ」
朝食を食べた後、片付けをツバキに任せ、オータムは我が家を守るため雪かきの作業に取り掛かった。コートを着込み、さくさく、とスコップで雪を取り除いていく。
それからツバキが合流し、二人で作業を始めたけれど、彼女は途中で何かに気づいた。
「この実、きっと可愛い目になりますね」
庭先にある赤い小さな実と、細長い緑の葉と。思いつくと作ってみたくなる。彼女は玄関近くに雪うさぎを二つ並べた。
「……へぇ、上手いもんだな」
彼の知らぬ間に作って驚かそうと思ったのに、オータムは先に気づいて、ニヤニヤ笑う。
「あっ……」
思わず背で隠そうとして、つるりと足元が滑った。その身体を慌てて支え、彼が笑う。抱きとめられながら、彼女も微笑んだ。
二人はそのまま雪の上に座りこみ、白い大地と降り注ぐ淡雪の景色を楽しむことにした。
「まったく、指先冷たくなってるじゃないか」
「……だって懐かしくて」
膝の先にある雪うさぎの傍に、新たな雪を寄せながらツバキが言う。
その姿を眩しそうに見つめ、彼は仰向けに寝転び、空を見上げた。
「……大事な人とこうしていられるってのは幸せだよなあ」
彼女は手を止め、小さく頷いた。
「私も、幸せです……」
「来年も、その次も、ずっと一緒だぜ」
空に向けて呟かれた彼の声。ツバキは暫くその横顔を愛しく眺めてから、彼の隣に同じく仰向けに寝転んだ。
「はい。……ずっと、一緒ですね」
「ん……」
オータムは隣にいる愛しい人へと視線を移す。青い瞳が彼女をじっと見つめた。
「愛してるよ、ツバキ……」
呼びかけと同時に、少し冷たい指先が頬に触れた。彼女は目を閉じて受け止める。
「愛してます、オータム……」
重なりあうシルエット。できたばかりの小さな雪うさぎが見守っていた。