■リヴァイアサン大祭2014『暖かな愛』
先ほどからずっとマロンは楽しそうにお喋りを続けていた。小さなソファに身を預け、隣に腰掛けるアカツキを相手に、尽きることなく、飽きることなく言葉がどんどん飛び出してくる。今日は最高に楽しい一日だったから。
「あの店は良かったな」
マロンの笑顔を優しく見つめ、適度に相槌を入れてくれるアカツキもその会話を楽しんでくれていることは間違いなかった。
初めて見た雪景色、初めて参加した大祭の賑やかさ、二人で祭りを巡り歩いて辿りついた屋台で飲んだココアの味、何もかもが感激で。
「あのココア、本当に美味しかったです。また飲みに行けたら……、あ」
「ん?」
急に会話を止めたマロンの顔を、アカツキが見つめる。
あの時の風景を思いだし、彼女は好奇心を浮かべた表情で彼を見上げた。
「屋台でアカツキさんが飲んでいたグリューワインって、どんな味がするんですか?」
「ワインの味?」
「はい。私はまだ未成年ですけど、その、少し興味があります」
彼の大人びた手つき。鮮やかな色の液体で満たされたグラスが、彼の指で包まれ、その唇に移動していく動き。マロンはすぐに思い出すことができる。だってとっても、素敵、だったから。
アカツキは暫し思考し、それから微笑を浮かべて答えた。
「そうだな、暖かい果実酒は初めてだったが、香辛料などが加えられており、普段と比べれば甘く、飲みやすいという印象、だったな」
「……そう、なんですか」
よく分からないが、なんだか格好いい。マロンの尊敬にも似た視線に気づいて、彼は破顔した。
「いずれ二人で飲む機会もあるだろう」
「うーん……。私がアカツキさんと一緒にお酒を飲めるのは、5年後、です、ね」
「そうだな」
5年先の自分がまるで想像できなくて、マロンは少ししょんぼりした。
だが気持ちを切り替えて、また笑顔を作って、彼へと向ける。
「いっぱい話したら喉が渇いちゃいました。飲み物を持ってきますね」
「ただいま戻りました……あれ?」
二人分の飲み物を持って戻ったマロンは、ソファに一人残ったアカツキを見上げ、少し困惑した。暖炉の暖かさに負けてしまったのだろうか、彼は目をつむり眠っているように見えたから。
眠るならベッドに行かないと、と言いかけて、彼女は言葉を止めた。
代わりに毛布を運んできて、彼の肩にかけると、隣に自分も腰掛け同じ毛布で一緒にくるまってみた。
(「こんなこと、普段だったらできないけど、……今日だけ」)
そっと彼の体に身を寄せると、彼の体温に胸が高鳴る。今日だけ、だから。もう一度心に呼びかけて、あとちょっとだけ背伸びした。
彼の逞しい指の上に、彼女の細い指が重なる。
お酒はまだ飲めないけど、今できる彼女の精一杯。
(「……おやすみなさい、アカツキさん……」)
ドキドキが強すぎて言葉にならない。だから心で伝えて、マロンはぎゅっと瞼を閉じたのだった。