■リヴァイアサン大祭2014『頬に贈る想い』
日が沈み、群青の絨毯に宝石を散りばめたような空が広がる。葉を落として寒そうな木々は光の『実』を宿し――。
(「なにげない道なのに、幸せだな……」)
ラスティニャックは、ゆっくりと歩きながら、隣のユリオールを柔らかく見つめた。
『恋人』としては2度目の、そして、最後のリヴァイアサン大祭。
その視線に気付いたユリオールは微笑み、
「ラスティくん、私のお願い聞いてくれる……?」
少し遠慮するように口を開いた。
(「去年、薔薇姫さまに勇気をもらったじゃない」)
そう自分を鼓舞しながら。
「お願い? 勿論、俺に叶えられる範囲なら」
ラスティニャックは、にこりと微笑む。
未来を約束して、なにげない道も、辛い道も一緒に歩いていくと決めた、彼女の『お願い』ならば。
「ちょっとだけしゃがんで? それと……目を瞑って……?」
どこか緊張した声。
(「いつも私が嬉しい気持ちにさせてもらってばっかりだから……今日はラスティくんにも」)
その想いで、緊張を忘れようとするユリオール。
ラスティニャックは、言われた通りに少し腰を折り、静かに目を閉じた。
ユリオールは思い切って、ラスティニャックの腕にしがみついて、少しだけ背伸びをする。そして、その冷たい頬に自分の唇から温もりをプレゼント。
「……好き、だよ」
小さく、一生懸命に呟く唇。小さく震えているのは、寒さのせいだけではない筈。
震える温かい唇は、ラスティニャックの胸に温かいものを広げた。
その温かいプレゼントに、ラスティニャックは静かに瞳を開いて、そっと柔らかく微笑む。
「俺もだ。……愛してる。来年もその先も、一緒にいてくれ」
まっすぐユリオールを見つめ、優しく、それでいて力強く願った。
(「今日はラスティくんにも嬉しい気持ちにって思ったのに……結局私が嬉しい気持ちになっちゃってる」)
ラスティニャックの願いは、難しいどころか、ユリオールからもお願いしたいもので。
「……っ」
ユリオールが、もちろんだよ、そう告げようとした瞬間、ラスティニャックの柔らかい唇が、その言葉を奪った。
『恋人』としてではなく、来年も、その先も『家族』としてすっと一緒に――。