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偽証文をぶっ潰せ!

トンファーの群竜士・リー

<偽証文をぶっ潰せ!>

■担当マスター:葦原いつき


 震える手に握られた短刀が、少女の白い腕に赤い筋をつける。
 筋はすぐにだらだらと流れて前腕を赤く染め、下に置かれた壷に滴った。
「ほ、ほんとに証文を、か、返していただけるのですね?」
 自ら腕を傷つけた少女がか細い声で問い、その前に立つ大柄な男はにやにやと笑いながら頷く。
「もちろん。その壷をお前の血で満たすことが出来れば借金はチャラだ。ほれ」
 ひらひらと振られる紙。少女は呻きを噛み殺し、痛みに耐えて壷に血が貯まるのをひたすら願った。
 あの証文がなくなりさえすれば、家族に笑顔が戻る……早く、早く!
「しかし、これではいつ溜まることやら、なぁ?」
 我に返った少女が男を見上げる。
 男は舌なめずりをしつつ短刀を握る少女の拳を掴み、血まみれの腕にぐいぐいと刃を押しつけた。
 まるで少女自身がそうしたかのように。
「ひぃっ!」
「そうそう。こうでなくては」
 切断面から噴き出す血液に、男は恍惚として目を細める。
「だがもっと。もっと早く溜めたいよなぁ?」
 絶叫とともに、赤い飛沫が勢いよく噴き上がった。

「まぁ、元々暴利な金貸しだったんだが」
 トンファーの群竜士・リーは、肩を竦めて言った。
 集まったエンドブレイカーたちを手招き、リーゼントを揺らしながら語る。
「マスカレイドになってしまってからは、まさにやりたい放題でな。取り立てに暴力は当たり前、利子と称してなけなしの財産をむしり取る。最近じゃ借金のカタに身内を連れ去られた人もいるって話だ。だが奴は捕まらない。何しろ金持ちだし、貴族にも顔が利くらしくてな」
 ひょろんと伸びたリーゼントをかき上げて、リーは更に言葉を継いだ。
「そんな外道が、とある家の娘に目をつけた。その父親は病床に臥せっているものの、奴の金を借りてはいなかった。そこで奴は、なんと借金証文を偽造しやがった」
 有力者の金貸しが持つ証文に、ただの庶民が敵うはずもない。このままでは娘を連れて行かれ、何をされるか分からん、とリーは言う。
「というわけで、皆さんの出番だ。この金貸しを倒して、父娘のエンディングをブレイクするんだ」
 ビシッと決めたリーの斜め上で、リーゼントが揺れた。
「金貸しは偽造証文を持ち、用心棒を3人連れて父娘の家に向かっている。皆さんは、奴らが家の入口辺りで揉めているところに割り込む形になるな。旅の者を装ってさっそうと登場、なんて感じかね。用心棒は普通の人間であまり強くないが、逃がすと厄介だ。一緒に倒しちまうのが安全だな。金貸し自身は、邪魔が入るとブチ切れて本性を現す。そこをぶちのめすんだが、奴の能力に注意だ。分厚い札束のような物で手近な1人をビンタしたり、小銭のような物を飛ばして複数を攻撃してくる。ビンタは当たり具合によっちゃ吹っ飛ぶから気をつけろよ」
 それと、とリーは続ける。
「周辺の住人は関わりを恐れて出てこないだろうが、なるべく素早く倒して、終わったら急いでその場を離れるんだ。金貸しは悪党だが有力者には違いない。もし奴らの勢力の者に見られて、奴を倒したのが俺たちエンドブレイカーと知れたら、逆にこっちが捕まっちまうってことを忘れないでくれよ。ま、権力を笠に着て人々を苦しめるマスカレイドを倒せるのは、エンドブレイカーしかいないんだ。ガツンと一発、期待しているぜ!」

●マスターより

 初めまして。葦原いつきと申します。オープニングをご覧いただき、ありがとうございました。
 ついに始まりましたエンドブレイカー! わくわくしますね。皆様と共にこの魅惑的な世界を巡るのが楽しみです。

 さて、今回の敵の能力の補足です。
 金貸し
 札束ビンタ:単体攻撃。当たり所が悪いと吹っ飛ぶ。
 小銭礫:マスカレイドに近接する全員にダメージ。
 用心棒
 剣で切りつけてくる。金貸しマスカレイドが倒された後も生きていると、逃げようとする。

 それでは、皆様の義侠心溢れるプレイングをお待ちしております。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● エアシューズのスカイランナー・プルース(c00140)
父娘の幸せを護る為に俺たちができることをしよう
趣味の悪いマスカレイドを遠慮なく蹴り飛ばしてな

前提として俺たちはバンダナ等で顔を隠して行動する
俺はバンダナで鼻から口元にかけて隠すようにする
俺たちが悪党みたいだけど仕方がないよな

「貴方たちは家の中へ!」
と父娘へ声をかけながら父娘とマスカレイド達の間へ割
って入るような位置を取る
まずはスカイキャリバーとソニックウェーブで用心棒を
優先して敵の頭数を減らすように行動する
用心棒を3人とも倒しせたら次は金貸しとの戦闘に参加
GUTSが多くも少なくもないが半分以下になったらソニッ
クウェーブでの遠距離で戦闘に参加することにする

戦闘時に主に気を付けるのは後衛への攻撃
後衛が攻撃を集中されそうな場合は間に割って入って敵
の注意を俺に向けるようにする
それと声をかけてできるだけ連携を取れるようにする
金貸しとの戦闘中に用心棒が再度起き上がってきそうな
ら優先して改めて倒す

● 太刀の魔法剣士・ハルカ(c00853)
【心情】偽の証文を作って人々からお金を脅し取ろうとするなど、許されざる行為ですね。これ以上黙ってみているわけには行きません・・・。私達が成敗させていただきます。

【行動】覆面をつけて敵に顔を見られないように接近、家の前で揉めてる家族を家の中に入れてから正義の味方のように名乗りを上げて戦闘開始。

【戦闘】前衛にて相手の攻撃に注意しつつ、用心棒→金貸しの順で攻撃。

【使用アビ】残像剣で敵の注意を引きつつ敵が隙を見せたところで居合い斬りを発動。

【名乗り上げの台詞】私は通りすがりの覆面騎士です。ちょっと貴方のやってることを黙って見過ごすわけには参りませんでした。ここはおとなしく帰った方が身のためですよ・・・?どうしても帰らないというのなら、私達が成敗します。
【戦闘時の台詞】お前ら!!罪もない人間襲って何が楽しいんや!?この私が成敗してやるから、お前ら全員そこに立っとれ!!

● アイスレイピアのデモニスタ・シルバ(c01356)
現地近くで三角に折ったバンダナ(強盗風?)で顔を隠してから向かうよ。
到着したら、メンバーから離れて待機。
揉めたり名乗りを上げたりでごたごたしたら、こっそり4人の背後に廻る位置に移動する。囲っておいた方が逃亡を防げるかな、と。
巧く廻れたら、口上が続いていても即攻撃。獲物は遠距離でデモンフレイム。卑怯にも不意打ち狙い。
目標はまず用心棒たち。次に金貸し。小銭にあたらないように遠距離を維持するけど、他のメンバーの様子を見ながらまあ臨機応変に。
戦闘が終了したら、金貸しの懐を探って偽証文回収してから、さっさと撤収。もちろん証文は後で処分するよ。

● 暗殺シューズのスカイランナー・カルル(c02151)
現時点でこんな感じや

<プレイング>
さぁ!アクスヘイムでの第一歩やね
今回のマスカレイドは悪徳高利貸か…商人の風上にも置けへん奴やな
そないなことしてるから棘に憑かれるねん
これ以上可哀想な家庭を増やさん為にも、ちゃっちゃと倒さんとな!

正体バレるなて話やったから、シルバさん見習ってバンダナで顔半分隠すで


現場に着いたらすぐに間に割り込むで
中途半端な事して女の子人質に取られたら大変やしな

戦闘ではまず手下を狙うわ
わいはスカイキャリバーで攻撃
前衛の人と切り結んでる所を頭上から攻撃やから、霍乱にはもってこいやろ
わいの進路上に金貸しが居てたら、ついでに蹴っ飛ばし(プラスワン)ていくで

今回は回復手段無いし、深めの傷負ぅたらちょっと離れた位置からのソニックウェーブに作戦変更や


相手を倒したら速やかに撤収なんやけど、家の前に遺体は残しておきたくないなぁ
余裕があれば路地にでも放り込んでいくで

● アイスレイピアのデモニスタ・サフィール(c02232)

【心情】
正直なところ少女に同情しているというよりも金貸しの汚いやり方に腹が立っています。
生き様にしろ容姿にしろ、例えそれが犯罪だとしても…美しいに超したことはないでしょう?
【作戦】

ポジションは『中衛』です。

まず金貸し達の前に割り込み、立ち塞がります。
用心棒を集中的に狙って、他の中衛一名と組み前衛と共に一人ずつ確実に倒していきましょう。

攻撃は基本『氷結剣』。
GUTSが半分をきったら今回は回復役はいないので、念には念を入れて後衛付近まで下がり『デモンフレイム』で応戦します。

用心棒を全て倒し終わったら金貸しを上記と同じ要領で攻撃します。


【戦闘終了後】

少女の隠れる家をちらりと見て微笑み、騒ぎで人が集まる前に仲間達と共に迅速に去ります。
ふふ…正義の味方っぽくていいでしょう?


【補足】
顔がばれないようにバンダナで口元を覆っています。
しかし…こんなチープな姿ではお世辞にも正義の味方とは言いづらいですか?

● アイスレイピアの魔法剣士・ティア(c03318)
○準備
長いスカーフを顔にまきつけて正体がわからないようにするよ。
へへ、民族のダンサーな気分だね。

○段取り
口論?になっているマスカレイドと少女達の間に割ってはいるよ
少女をあんまり危険な目に合わせたくないし、家の中に入ってもらうようにするよっ、さぁさぁ可愛い女の子は家の中に入った入った!
この間にシルバ君が挟み撃ち出来る様に裏に回ってくれるみたい、戦闘の準備はばっちりだね。

○戦闘
まずは前衛として用心棒に張り付く!1人も逃がさないよ。
プラスワンを使用して、複数攻撃狙ってみる、攻撃は残像剣、氷結剣持てる力は全部発揮するつもりだよ!

用心棒を倒し終えたらマスカレイドを集中して攻撃さ!
ソードダンスの真価発揮してあげるよ!

○戦闘後
戦闘後はすたこらさっさ撤収させてもらいまーす。
「アバヨっ嬢ちゃん!あんたのバッドなエンディングはうちらが盗ませてもらったぜ。」
あれ?なんか盗賊団っぽい?えへへ・・まぁいっか!

● 弓の狩猟者・アルバ(c03383)
事前
穏やかな様子とは言えないし、ここはさっさと身体ごと間に割り込んだ方が良さそうっすね。父娘に余計な怪我させるわけにゃいかないっすし、ボクじゃあっさりと跳ね除けられそうっすね、時間稼ぎくらいになればいいんすけど。
格好とかは事前にバンダナとか布切れとかで顔の下半分隠せればいいっすかねー?
こうすりゃ盗賊団とかにも見えないことも……やっぱ無理っすかね?

戦闘
ボクのポジションは父娘の家の扉を庇う位置っす。
家の中に被害は及ばないと思うっすけど、どうなんすかねー?
まー、戦闘ではファルコンスピリットを中心に遠距離攻撃っすよ。
ウチらにゃ回復役はいないっすし、前衛が倒れたりしたらボクも前に出ないといけないっすかねー?

事後
エンディングをブレイクできたんならまーオッケーっすかね?
まー、理不尽かどうかなんて、当人達にもわかりゃーしないっすけどね。
終わってみないとわかんないこともあるっすから。

● トンファーの群竜士・ジャブ(c04168)
●プレイング
【基本方針】
まず言い争ってる女の子とマスカレイドの間に割って入る
敵さんの興味をこっちに向けさせなきゃならんからな
ティア親分に続いて口汚く挑発か不意打ちを試みたい

マスカレイドは完全に潰しておかないとな
出来れば用心棒の3人は気絶くらいにしておきたいが…
状況に応じて臨機応変に動こう

【女の子の処遇】
マスカレイドとの諍いに割って入りったら家の中へ速やかに避難させる
不安がられるだろうから簡単に一言言っておこう
「俺たちは怪しいもんじゃない。だから速やかに家の中に引っ込んでな」
速やかに入らないようなら襟を掴んででも家の中に突っ込むぜ

【戦闘】
前衛として行動
必中・超集中を駆使した上で、トンファーキックと肘打ちで攻撃を試みよう
戦闘中は常に用心棒3人の退治を優先

用心棒を片したらマスカレイドに心臓打ちも含め攻撃を試みよう
ダメージを受けたようなら竜の呼吸を使うぜ


【戦闘後】
速やかに撤退だ

● 竪琴の魔曲使い・レンジ(c04327)
エンドブレイカーとしての初任務だな。
どのような任務であれ、与えられたものに対して全力を尽くすのみだ。
強欲な高利貸が個人的に気に入らぬというのもあるが。

俺たちの正体が割れぬよう、変装を行う。
目だけを隠した仮面を着用。

敵を発見したら、少女と敵との間に割り込む形で陣を敷く。俺は後衛に。
その際に、少女に家の中に入って出ないよう伝える。
「怪しいものではない。いや見た目は怪しいが、悪くない盗賊団だ。
危ないから家から出ないように」

攻撃は誘惑魔曲を使用。用心棒から攻撃する。
前衛が吹き飛んできたら、攻撃より味方を受け止めダメージを抑えることを優先。
用心棒の攻撃順位は、ダメージを負っている方へ集中攻撃する。また味方へもそうするよう声をかける。
「右の奴が手負いだ、攻撃を集中しろ!」

前衛にいる者の傷が深く危険であれば、隊列を交代する。

戦闘後は敵を目立たない茂みか路地かに移し、速やかに撤退。
「…ふむ、こんなものか」

● 剣の城塞騎士・オリヴィエ(c04751)
バンダナで顔を隠して現れ
父娘を金貸し達から引離すように割って入ります。
父娘は巻き込まれないよう屋内へ。
シルバが背後から不意打ちを仕掛ける為に
金貸し相手に口上を述べ注意を引きます。

前衛:ジャブ、ハルカ、ティア、オリヴィエ
中衛:カルル、プルース、サフィール、シルバ
後衛:アルバ、レンジ

用心棒逃走阻止の為、用心棒を先に倒します。
声を掛け合い用心棒それぞれに前衛が分散して張り付き
中後衛と協力し集中攻撃で1体ずつ確実に倒します。

用心棒を倒す間、金貸しは中衛にローテーションで抑えてもらいます。
ただし、手が必要な場合は用心棒は他に任せてそちらに回ります。

用心棒撃破後はマスカレイドを集中攻撃。
撃破後は速やかに立ち去ります。

アビリティは
まず「自分【盾】」が出るまでディフェンスブレイド
次に「自分【剣】」が出るまで十字剣
その後は相手が【3マヒ】状態でなければ十字剣
【3マヒ】状態ならディフェンスブレイド
を使用。

<リプレイ>

●おっと悪事はそこまでだ!
 明るい陽射しの中、場違いな大声が響く。
「おうおう! こちとら借金の証文を持っているんだぜ?」
 いかにもな風体の大男が野太い声で脅す。しかし目の前の少女は気丈に首を振った。
「し、知りません! 父はお金なんて借りていないって……」
「知らねえわけがねぇだろう!」
 怒鳴り声にびくりと身をすくませる娘。小柄な彼女にとって、山のような大男の威圧感は並大抵の物ではない。まして物騒な武器をちらつかされてはなおのこと。
「れっきとした証拠があるのに、嘘を言っちゃあいけねぇよ」
「借りた物は返すのが世の中って奴だ。払えねえなら、お譲ちゃんに一緒に来てもらわねぇとなぁ?」
 別な男が少女に迫る。その後ろには、でっぷりとした体躯を揺らし、にやにやと笑う金貸しの姿があった。
「さあ、来な!」
 男が娘に手を伸ばす。身をよじる娘の腕を取ろうとした――その瞬間。
 突然上から降ってきたエアシューズのスカイランナー・プルース(c00140)に、用心棒の1人が突き飛ばされた。
「おっと、すみませんねぇ」
 すとんと着地した彼は、金貸し一味に軽薄そうな笑顔を向ける。その途端、わらわらと人影が現れたかと思うと瞬く間に人間の壁が出来上がり、用心棒と娘を引き離した。
「何だてめえら!」
 用心棒が凄んで見せるが、太刀の魔法剣士・ハルカ(c00853)は動じない。
「偽の証文を作って人々からお金を脅し取ろうとするなど、許されざる行為。黙ってみているわけにはいきません。ここはおとなしく帰った方が身のためですよ」
「悪徳すぎるわ……商人の風上にも置けへん奴やな」
 暗殺シューズのスカイランナー・カルル(c02151)も前に出る。それを聞いた金貸しの顔から、にやにや笑いが消えた。
「ふん、薄汚い盗賊風情が。まともな市民の正当な行為を邪魔しないでもらおうか!」
「わぁ、外道に盗賊呼ばわりされたっすよ」
 弓の狩猟者・アルバ(c03383)は手を叩いて喜んだ。しかしその表情は、覆面のためよく分からない。
 そう、現れた一団は、盗賊よろしくそれぞれの顔を布や仮面で覆っていた。『盗賊』呼ばわりも想定内。むしろ、彼らエンドブレイカーの目論見通りである。
「随分あくどい商売をしているじゃないか。恨みを持つ者は相当いるようだぞ」
 対照的に重々しい声で、剣の城塞騎士・オリヴィエ(c04751)が告げる。
「全く……美しくないやり方ですね。おお、ばっちい」
 アイスレイピアのデモニスタ・サフィール(c02232)も、覆面の上から口を押さえて言い放つ。
「ぐ……何だと! ええい、さっさとこの野良犬共を片づけろ!」
 激高した金貸しは、用心棒の背中を押して叫んだ。慌てて剣を構える男たち。
「女の子を狙うなんて許せないね! 1人たりとも逃がさないよ!」
 覆面の端を踊り子のようにたなびかせ、アイスレイピアの魔法剣士・ティア(c03318)が啖呵を切った。
「がってんだ親分!」
「ラジャーでさぁ! 姐さん!」
 掛け声に合わせるかのように、用心棒たちが斬りかかってきた。

●我ら良い盗賊団……?
「俺たちは怪しいもんじゃない。だから家の中に引っ込んでな」
「いや見た目は怪しいが、悪くない盗賊団だ」
 トンファーの群竜士・ジャブ(c04168)と、竪琴の魔曲使い・レンジ(c04327)の掛け合いに、娘は目をぱちくりさせる。盗賊団を名乗る覆面男と仮面男、どう見ても悪そうなのに『悪くない』と言う背の高い2人を不安そうに見上げて。
 そんな彼女を半ば押し込むように家の中へ戻すと、アルバはドアの前に陣取った。
 と同時に、サフィールとハルカが敵へと踏み込んだ。各々が手にする得物は、形こそ違うが鋭い光を帯び、用心棒を刻んで弧を描く。
「ぐわぁっ!」
 返す刀でもう一閃。ハルカがぴたりと止まると男の手から剣が落ち、のけ反った体が背中から倒れた。
「このアマァ!」
 倒れた仲間を乗り越えて、用心棒が剣を振りかざす。と、冷静だったハルカの表情が一変した。
「お前ら罪もない人間襲って何が楽しいんや! この私が成敗してやるからそこに立っとれ!」
 ハルカの大音声に思わず怯む用心棒――その背中に、黒炎の塊がヒットした。
「卑怯にも不意打ち。これぞ盗賊団だよねぇ」
 こっそり金貸し一味の背後に回っていた、アイスレイピアのデモニスタ・シルバ(c01356)の一撃だ。
 そこへカルルが追討の急降下。
「せや、わいら正義の盗賊団! てな」
 縦横無尽に空間を飛び回るカルルの攻撃に、用心棒は反撃するが追いつかない。
 金貸しの眼前で、用心棒の男はばたりと倒れて動かなくなった。
「こっ、この盗賊共め……!」
 金貸しがわめく。と、みるみるうちにその体が膨らんだ。筋肉が盛り上がり、両腕が太く、長く変化する。そして、
「おい、見ろ!」
 プルースが示す光景に、エンドブレイカーたちは息を呑んだ。
 金貸しの顔が、白いマスクに覆われていく!
「……本性を出しやがったな」
 もはや異形と化したマスカレイドは、その巨躯に似合わぬ動きで、1人立つシルバに突進した。
「じゃ――ま――する――なぁ!」
「む、ぬかったか」
 皆が用心棒を標的としていたために、マスカレイドを引きつける者が足りない。気づいたオリヴィエが後を追うが、シルバに降り下ろされる凶器の方が速い。
 ガッ!
 重い音と共に、シルバが宙を舞った。
 レンジが彼を受け止める間に、オリヴィエはマスカレイドを打ち据える。
「うぐ……やりやがったなあの仮面野郎」
 シルバは頬を押さえて唸った。「大丈夫か」と問うレンジに、首を振りつつ立ち上がる。
「痛そうな音ってか、痛いっすよね、やっぱり」
 首をすくめて、アルバはマスカレイドを見やる。あの吹っ飛び具合を見た後で、前に出るのはちょっと遠慮したい心持ち。
 その彼女の手から淡い色のスピリットが飛び立つと、ティアにふわりと舞い降りた。
「頑張るっすよ、親分」
「ありがとね! 行くよ!」
 激しくも優雅にも見えるソードダンスが、残る用心棒を狙い打つ。ティアは軽やかにステップを踏み、踊るような剣さばきの残像が消えると最後の男もまた地に伏していた。

●金の力。物理的な意味で。
 レンジ、オリヴィエ、そしてシルバの連携によって、マスカレイドはその場に足止めされていたものの、接敵している者への攻撃は激しい。
 マスカレイドの元へ駆けつけたジャブは、踏み込む勢いそのままにトンファーを振るい、マスカレイドの肉を抉った。手応えは充分だ。しかし、
「堅いな……」
 ジャブの感想は、マスカレイドの脳天に蹴りを食らわせて着地したプルースが抱いた物と同じ。
「ただ金勘定してただけとは思えない耐久力ですね。確かに金という物は、ある意味『頑丈』ではあるが」
 プルースは顔をしかめ、エアシューズのつま先で地面を軽く叩く。
 振り回される凶器を見て、ジャブも肩をすくめた。だが、今はあのマスカレイドを完全に潰すことに全力を尽くすのみ。
 目配せをした2人は、ほぼ同時に動いた。敵の心臓に『竜』を叩き込むべく飛びかかるジャブ、そのすぐ後ろをプルースの蹴りから生まれる衝撃波が駆け抜ける。
 同時攻撃を受けてよろめいたマスカレイドだが、まだ余力があるように見えた。オリヴィエは、振り下ろした剣を太い前腕で受け止められて苦笑する。
「このような悪党をのさばらせておくとは、領主殿もたいがいにしていただきたいものだ」
 マスカレイドの表情は仮面に隠されている。が、オリヴィエの呟きを白い仮面が嘲ったように見えたのは気のせいか。
 オリヴィエとジャブを、無数の鋭い痛みが襲った。
「っつ!」
「礫、か」
 金の力を暴力に変える、まさに金貸しのマスカレイドらしい。
 礫を受けた2人に替わりマスカレイドに近接したサフィールが、凍てつく一撃を見舞う。エンドブレイカーたちには仲間を回復する手段がない。ゆえに互いに位置を替わりあい、ダメージが一点に集中するのを避ける作戦だ。
「それにしても、これはちょっとチープすぎて」
 覆面の端を引っ張って不満をぽつり。しかめ面のサフィールは、まるでマスカレイドを睨みつけているように見えた。それが引き金となったか。
 ガツッ!!
「ってか、ギャー! 何すんだこンのダァホゥ! 痛ーい!!」
 当たり所が悪い2例目は、彼となった。
「うわ分かりやす」
 思わず両頬を押さえつつカルルは思う。お金は大事。何しろ大金でぶたれたら痛いのだ……今のように。
 と、妖しい旋律がひときわ大きく響いた。
 高く低く、レンジが操る竪琴の調べに、マスカレイドが引きつったような動きを見せる。
(「個人的に気に入らぬのでな……強欲な高利貸しという存在が」)
 その思いを音に込め、レンジはさらに竪琴をかき鳴らす。
 ついにマスカレイドの両腕が、だらりと垂れ下がった!
 それは、またとないチャンスだった。
「よぉし! ものども、かかれぇー!」
 ティア親分の芝居がかった号令一下、エンドブレイカーたちは一斉に技を繰り出す。
「でいやあ!」
「成敗!」
 気合いの入ったプルースの雄叫びに、ハルカの声が重なる。アルバのスピリットとカルルの衝撃波が、先を争うように大気を裂いて目標を捉える。レンジの魔曲はマスカレイドの精神をかき乱し続け、
(「貴様の不滅の『エンディング』、破壊させてもらうぞ!」)
 そうして力を纏ったオリヴィエの剣が、マスカレイドの体表に鮮やかな十字を描いた。

●すたこら撤収、その前に!
「エンディング無事ブレイク、っと。まーオッケーっすかね」
 アルバは伸びをしつつ、シルバの隣にしゃがみ込む。そのシルバは、先ほどから金貸しの死体をつつき回していた。目的は金貸しが持っていると思われる、例の『偽証文』である。
「もちろん処分するんだよ」
 シルバは言いながら金貸しの懐を探る。まだ頬は赤いが、口調はいつもののんびりとした物に戻っていた。
 事が終われば即撤収と言われていたが、騒動の元凶を残していくわけにはいかない。
 残していけない物がもう1つ。
「こいつらをここに転がしておくのは感心せんな。どこか目立たぬところに移しておこうと思うのだが」
「せやね。路地裏にでも放り込んどこか」
 レンジの言葉にカルルはこくりと頷くと、用心棒の足を担いで引っ張ってみた。
「重いわー。おっきい人、ちょっとこれ担いでくれへん?」
 カルルの呼びかけに数人が手を上げ、分担を決めている。
「ああ、あった」
 シルバが証文を掲げると、エンドブレイカーたちに安堵の笑みが浮かんだ。
 その時。
 ドアの鍵が外され、娘がおずおずと顔を出した。どうやら外が静かになったのに気がついたらしい。
 となれば、ますます長居は無用。他の住人も遠からず出てくるに違いない。
 そこで、ジャブはシルバから証文を受け取ると、少女の目の前でびりびりと破った。
「えっ……! あの、これ……」
「支払い無用、だ」
 それを娘に手渡して、ジャブはにぃっと笑う――が、覆面なので見えない。
「さあ、撤収だよー! アバヨっ嬢ちゃん!」
(「バッドなエンディングはうちらが盗ませてもらったぜ……なんてね。えへへ」)
 最後まで『親分』なティアの掛け声で、エンドブレイカーたちは一斉にきびすを返す。
「あの、ありが……」
 少女の声に、振り向くサフィール。が、彼女に微笑んで向き直った途端、レンジが担いだ金貸しの足に顔をぶつけ、派手に転んだ。
「うぎゃっ!!」
 しかし、深々と頭を下げる父と娘はそれに気づかなかった。
 彼らが顔を上げた時、そこにはいつもの平穏な風景だけが広がっていたのである。
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