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奇妙な置き土産

アイスレイピアの魔法剣士・ダリア

<奇妙な置き土産>

■担当マスター:伊家メグミ


 暗がりの中、鼻歌めいた声が聞こえる。
 ごりごりと、骨を削るような気持ちの悪い音を立てては、手元の何かを切り刻む小柄な影。
 奇妙な仮面を被ったそれは、マスカレイド。彼は楽しげに作業を続ける。足下に広がる赤いしみ。それは、やがて黒ずんでいく。
 ばらばらになったのは、犠牲者の……身体。
 おそろしい事に、マスカレイドはその行為を楽しんでいるようだった。
 そこには、死者に対する敬意も何もない。おそろしく、残酷なだけの、ふるまい。
 丁寧に解体し終わったそれを抱えて、小柄なマスカレイドは街のあちこちに配り歩くかのように隠して回った。
 奇妙な、置き土産。
 そうして都市の暗がりに、またひとつの事件が刻まれる。

「君達にお願いしたいのは、あるマスカレイドの討伐だ」
 アイスレイピアの魔法剣士・ダリアが、集いしエンドブレイカー達を前に口を開いた。
「私達エンドブレイカーは事件の関係者……例えば、亡くなってしまった者の死体からも情報を得る事が出来る。それを利用し、マスカレイドの正体を暴いて、撃退して欲しい」
 彼女は、そう言うと皆の顔を一巡するように見返して、次に被害者の死体のある場所を説明する。
「このマスカレイドは、どうも被害者の死体をばらばらにして、あちこちに隠して回るような行動を取るらしい。皆にはまず被害者の頭部を捜して貰い、そこから情報を得て欲しい」
 ダリアは一呼吸置いてから、再び話し始める。
「被害者の死体を確認出来れば、マスカレイドの正体を知る事が出来るだろう。次には、敵の居場所を探して貰う事となるが、発見後すぐさまマスカレイドを撃退する事は、難しいと思う。……何故ならば、マスカレイドは普段は人間のふりをして生活しているからだ」
 そこで、と彼女は言葉を切り、エンドブレイカー達にマスカレイドの監視をして欲しいと告げた。
「目を離さず、マスカレイドを監視していれば、やがて新たな事件を起こす為に行動に出るだろう。その時がチャンスだ。事件を起こす時は敵も自分が事件の犯人であると疑われる事のないよう、細心の注意を払って外へと出て来る。つまり、周囲には戦いを邪魔する者が居ない筈だ」
 その時を逃さずに撃退して欲しいと、ダリアはエンドブレイカー達に願う。
「これ以上、マスカレイドが引き起こす事件を放って置く訳にはいかない。皆には平和の為に、頑張って欲しいと思う。今回が、初めての実戦となる者も居るだろうが、皆で協力をし、確実に勝利して貰いたい。それから戦闘後は、急いでその場を離れるようにして欲しい。そこにはマスカレイドだった人間の死体が残ってしまう事になる為、下手をすれば君達が、殺人事件の犯人であると間違われる可能性がある。戦いの後で大変ではあろうが、素早く立ち去るべきたろう」
 それまで厳しい顔をしていたダリアは、ふと表情を緩めると皆に激励を送る。
「いろいろ面倒な事が多いが、マスカレイドを阻止出来るのは君達だけだ。必ず勝利し、そして無事に戻ってきてくれ。その時には、おばあちゃん直伝のお茶をご馳走しよう」

●マスターより

 初めまして、伊家メグミと申します。まずはオープニングをご覧頂きありがとうございます。皆様の旅の案内人として、共に冒険を描いていきたいと思います。
 傾向としては、ほのぼのとしたシナリオが多めとなるかと思いますが、戦闘も日常も、バランス良く書いていけるよう頑張りますので、お気に召しましたらよろしくお願い致します。

・注意点と説明
 被害者の男性の頭は、にわとり小屋の中に放り込まれている。
 捜索時に卵泥棒と間違われると面倒になるので注意。
 残念ながら、今回戦うこととなるマスカレイドとなった人間を救う事は出来ない。

・エネミーデータ
 マスカレイド……小柄で俊敏、槍のように尖った右手で相手を刺し貫く事が得意。殺した相手を丹念にバラバラにした後、街のあちこちに隠して回る。
 また、槍で貫き、抉るようにして大ダメージを与える技を持つ。

 配下マスカレイド……小型の槍のようなものを装備したものが4体出現。
 小柄で素早いが、威力もスピードも劣るようだ。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 弓の狩猟者・ネマリ(c00510)
■事前確認

最初に皆で作戦の確認を。
相違があれば擦り合わせ、不備のないようにしたい。

■頭部探索

散開し手分けして探す。
見つけたら皆に連絡。
フウスイ、シゾー、ルミナと共に次の作戦に移る。

■頭部回収

フウスイは主人の相手
シゾーとルミナは頭部回収に小屋の中へ。
私は小屋の側で主人や他の人に見つからないように待機。
外で2人が頭部を持ってきたら素早く受け取り、
絶対に誰にも見つからないようにその場を離れる。
ここは迅速且つ慎重に。

その後、4人で頭部の瞳から情報を読み取り、監視班に得た情報を伝える。

監視班から連絡がくるまでは酒場で待機。
連絡がきたら急いで現場へ。
マスカレイド(M)が人気のない路地に入り次第戦闘を開始する。

■戦闘

私は後衛。
初手はファルコンスピリット(FS)でMを牽制。
その後は弱っている敵から順に1匹ずつ消していく。
配下Mには弓射撃、Mには確実性でFSを。

落ち着いて確実に仕留める。

■戦闘後

すぐにその場を離れる。

● 扇の星霊術士・シャオロン(c00633)
◆事前準備
地図
ランプ等の光源

上記を準備

◆頭部探索
最初は皆バラケて小屋を捜索
発見し次第、皆に連絡
同時に人目がつかない場所&ルートの目星つけておく

場所とルートを回収班に通知
大き目の袋も渡しておく
後は任せる
念のため夜中忍び込める様準備しておく

◆捜索・情報
人目が付かない場所で合流
頭部を覗き込む
事前に入手しておいた地図に
見えた場所や遺体を隠した場所を書き込み
捜索場所を狭める

◆監視・情報
交代で監視
犯人が動いたら
同行している連絡係に伝える
空いた時間は周辺を下調べ
ある程度見たら
集合場所(酒場)へ

◆戦闘
敵が人目の少ない場所へ行ったら開始

優先順位:配下達→BOSS
上記を守りつつ一匹ずつ確実に倒す
私は後衛
味方の体力が5割切り次第
星霊召喚し回復
その際
回復が重複しないように声かけを

それ以外は流水演舞にて攻撃

戦闘時
敵を観察し
どの敵が倒しやすいか見極め
判ったら仲間に伝える
『あの敵、倒しやすそうネ!』

◆撤退
速やかに撤退

● 爪の群竜士・リョウアン(c00918)
探索
街内に調べる鳥小屋が複数存在する場合単独行動で探索する。
自警団に見えるような衣装を身に着け
「先日逮捕した盗人が、盗品を何処かの鶏小屋に隠したと自白したので、小屋内を調べさせて欲しい。」と告げて持ち主の許可を得て小屋を探索する。
頭部発見、犯人の情報を読み取ってから頭部を用意した袋に詰めて持ち出す。

犯人に発見されないように犯人を尾行している者の後方に付いて移動する

戦闘
遊撃で近接戦闘を仕掛ける。
他が攻撃を集中している敵以外を相手にする、敵の殲滅より生き残る事を優先。
後衛を狙われた場合、敵の進路を塞ぎ後衛を庇う。

T攻撃の命中率が低くなければアサルトクローで戦闘を行う。
爪が赤く染まるの効果がでたら優先して使用して『術』を上げる。二回目以降は効果がなければ不使用。
必中効果の後に引き裂き攻撃を行う。
T攻撃の命中率が低ければ竜撃拳で戦闘を行う。
必中効果の後に隙の少ない攻撃を繋げるように戦闘を進める。

● 暗殺シューズのスカイランナー・トーリ(c02527)
事前調査
地図見ながら町のつくりを見ておく。他の皆の待機場所も確認。あと伝令の時の近道が分かればいいな。

頭部探索
皆で探すよ。見つかったら、回収担当の皆にまかせる。

マスカレイド探し
ネマリからの情報を元に探索。

監視
シェスカ、ジンク、シャオロン、アレクサンテリと僕で交代でマスカレイドを監視。二・三人で監視する。もし屋根みたいなのがあったら上から監視。普通上は見ないだろうからね。
動きがあったらジンクと僕で待機している人を集めてく。

戦闘
僕は前衛。通常攻撃とスカイキャリバーを使って手下を一匹ずつ確実に倒していく。
手下が半分倒されたらボスか手下、手が足りてないほうに加勢。基本はソニックウェーブ、距離が近かったりしたらスカイキャリバーで。

戦闘後
誰かに見つからないようにさっさと退散。

● 杖の星霊術士・ルミナ(c02670)
【行動】
事前に空気の抜けた薄布のボールを準備。
目的の鶏小屋が見付かったら急行。
周囲に人気が無い様なら、素早く小屋を探索し頭部を回収、撤退。
一応その間はフウスイさんに見張りをして貰う。
主人がいたら小屋へ入る交渉。
「飛び込んだボール」が疑われたら「本当はいじめっ子が隠した」とフォロー。
回収した頭部はネマリさんへ渡す。
渡すのが困難な時は、持ってきたボールをこっそり膨らませて破裂させ、鶏を外へ逃がす。
「鶏、ボール割っちゃった…」
待機中は照明器具等、必要そうな道具の準備買い出し。
そのついでに抜け道等、地図にない場所の確認。

【戦闘】
後衛にて、配下優先でマジックミサイルを使用。
プラスワンで標的が増えたら、マスカレイドも同時に狙う。
ダメージが半分超えた人は、星霊スピカで回復。
回復は重複しないよう注意。

【撤退】
戦闘後早急に。
回収した頭部は、マスカレイドの傍に置いておくのを提案。
「体全部、見付かるといいね…」

● シールドスピアの城塞騎士・フウスイ(c02863)
○頭部捜索
ボールを探す子供を手伝うという名目で
シゾー、ルミナと鶏小屋を訪れ中に入れてもらうよう頼む。

小屋の主人が中に入る前に「そういえば…」と呼び止め、
二人が自然に先に入れる状況を作る。
最近の治安について尋ね時間を稼ぎ、二人が鶏を逃がしたら
小屋から離れる方へ主人を誘導しつつ鶏の捕獲を手伝う。

頭部の回収はネマリに任せる。

○情報収集と待機
被害者の瞳から得た情報を基に敵の住処を特定する。
監視は他の仲間に任せ、昼のうちに周辺を歩き回る。
敵の住処から殺人現場とは逆方向で人通りの少ない路地、
追い込めそうな袋小路がないか調べる。

夕方以降は待機場所と決めておいた近くの酒場で連絡を待つ。

○戦闘
マスカレイドが人気のない路地に入り込んだら、
仲間に確認した後戦いを仕掛ける。

攻撃を集中させて配下マスカレイドから一体ずつ確実に倒す。
アビリティは疾風突きを使用。

仲間たちの前面に立ち、攻撃の標的となりやすいよう立ち回る。

● エアシューズのスカイランナー・ジンク(c03680)
【頭部探索】
みんなで探す。目標の鶏小舎が見つかった時点で、ネマリ達に伝達、俺は撤収

【瞳から情報入手】
フウスイ、シゾー、ルミナ、ネマリが担当

【敵探索】
ネマリ達からの情報でマスカレイドを探す

【敵監視】
敵が動き出すまで、トーリ、シェスカ、ジンク、シャオロン、アレクサンテリが敵を監視。
2〜3人チームで、現地で相談しながら交代しつつ24時間監視を行う。
敵が動き出したら、スカイランナーのトーリ・ジンクで酒場に待機している仲間に伝令、呼び集める

【事前調査】
監視の合間に、敵が抜け出してきそうなルート、戦闘を仕掛ける場所の下調べとして、人気のない路地裏を調査する

【戦闘】
前衛:フウスイ、ジンク、アレクサントリ、シゾー、トーリ
中衛:リョウアン
後衛:ルミナ、シェスカ、シャオロン、ネマリ

ジンクは、配下がいる間はスカイキャリバーを使いつつ前衛。配下が二人倒れた時点で、ソニックウェーブでボスを攻撃

【戦闘後】
速やかに姿を消す

● 暗殺シューズのスカイランナー・シゾー(c04150)
光源、頭部を入れる袋、地図用意

全員で頭部探索。
目標の鶏小舎が見つかったら、ボールを探すという名目でフウスイ、ルミナ、ネマリと一緒に鶏小屋へ。フウスイに主人の相手をして貰っている間に鶏をワザと逃がし、その隙に頭部をこっそり袋に詰めてネマリに渡す。その後は鶏を回収。頭部から情報を得たら情報収集へ。
監視組を酒場で待つ間に、周囲の人気のない路地裏を確認。敵が抜け出してきそうなルートと戦闘を仕掛ける場所の下調べを行い地図に記入。また、この事件が初犯かどうか、もし初犯でなければ被害者に共通項がないかを確認。敵の次の行動を考える。

監視組から連絡が来たら人気のない路地にて犯人と接触、戦闘へ。
前衛:(ダッシュ+)スカイキャリバー使用。他のメンバーの攻撃したマスカレイドを攻撃する(各個撃破優先)。後衛に突っ込んでくる別のマスカレイドがいればそちらを優先で攻撃。

戦闘が終われば速やかに撤退。

● 大鎌のデモニスタ・シェスカ(c04228)
>頭部探索
鶏小屋探しは全員で散開して探すわ
見つけ次第何らかの方法でネマリ達に報告
私はここで一時撤収、ネマリ達から情報が入るまで監視斑と酒場で待機

>情報収集+監視
得られた情報を元に監視開始
出来るだけ街に溶け込むようにして監視したいわね
地味な服装をしていくべきかしら?
敵が動き出したようならジンク達に通達を頼んで、私達は監視続行ね

監視の順番が回ってくるまでに戦闘が出来そうな場所を調査しておくわね
できれば私達の能力で次の標的を探したいのだけど…
無理ね、不自然になりそうでハイリスクだわ

>戦闘:基本後衛
倒す順番の目安は配下→本体
デモンフレイムで後方より援護射撃するけど
敵があまりに肉薄してくるようなら黒旋風も使うわ
まあ出来るだけ距離は保ちたいわね

>後始末
敵の殲滅確認後は速やかに撤収よ
間違っても姿を見られないように、ね
マスカレイドを倒して殺人犯扱いは御免だわ

● アックスソードの魔法剣士・アレクサンテリ(c05357)
【頭部探索】
各自散開して探索する。それらしき小屋を発見したら、回収班に知らせる。
知らせた後は任せ、自分は撤収する。
【情報収集・敵探索】
回収した頭部から情報を手に入れ、マスカレイドの特徴や町の風景などを手掛かりに探す。
敵を捜索するのと平行に、人気の少ない場所や、袋小路になっている場所を探す。
【敵監視】
監視担当の仲間とともに行う。
敵が行動を開始したら連絡担当の仲間に頼み、自分は引き続き監視する。
監視する際は、気づかれない様に細心の注意を払う。
【戦闘】
前衛を担当する。
配下マスカレイドから一体ずつ、確実に倒していく
配下マスカレイドとの戦闘では残像剣を使い、敵をかく乱しながら戦う。
配下マスカレイドが全て倒れたら、大本のマスカレイドに接近し、再び残像剣を使い戦う。
もし大本のマスカレイドが突破を図った場合は、そちらを優先し、目の前に立ちはだかり、十字剣を駆使して突破を阻止する。
【戦闘後】
速やかに去る。

<リプレイ>


 鶏小屋は早朝からけたたましい声が響き、賑やかしい事このうえない。
 卵を取りに来た所だろうか、小屋の扉に手を掛ける主人に、もしと声を掛けるのはシールドスピアの城塞騎士・フウスイ(c02863)。
「ボール遊びをしている内に、こちらの小屋に飛び込んでしまったそうでな、恐縮だがボールを取らせていただけぬか」
 朝方から皆で奔走し、場所を特定したエンドブレイカー達は、次の段階と、鶏小屋の中に放り込まれているという被害者の頭部を回収すべく、交渉に当たっていた。
「そりゃ本当かい? ……ん、お前さん、見慣れない顔だな」
「……あの、いじめっ子に隠されたの」
 見慣れぬ者の言葉にやや警戒気味の主人だが、フウスイの影からひょっこりと顔を出した少女……杖の星霊術士・ルミナ(c02670)に目を止め、思案顔をする。
「ふうむ……」
「お話中、失礼」
 そんな中、自警団に見えるような装いで如何にも無関係という風に話掛けてきた者がいる。爪の群竜士・リョウアン(c00918)だ。彼は独自調査で別ルートから鶏小屋を探し出していたようだ。
「……ん、何だい?」
「先日逮捕した盗人が、盗品をどこかの鶏小屋に隠したと自白したのですが……」
 念のため調査させて欲しい、そう願うと。
「ん? あんた新人かい? ……調査なら協力したいが」
「ところでご主人、最近の治安が……」
「お、おお?」
 対応を決めかねた主人がフウスイとリョウアンの対応に追われている間を狙い、暗殺シューズのスカイランナー・シゾー(c04150)がこっそりと小屋へ接近。ルミナもそれを追う。
「今のうちっす!」
「あ……待って」
 二人は素早く簡素な鍵を外すと、鶏や卵を踏まないように注意しながら小屋に入った。
「あれっすね!」
 小さな小屋をじっくりと見回せば、あっさりと頭部は見つかった。シゾーはそれを袋に入れて小屋内を抜け出そうと、外を窺うが……。
「確かに、まあ、最近は物騒だがねぇ……」
「全く、けしからんですな」
 小屋の近くで大人達の問答は続いている。
(「……それなら……えいっ」)
 ルミナが懐から空気を抜いたボールを取り出し、膨らませて破裂させる。

 ぱあんっ!

 至近で起こった大きな音に、慌て騒ぐ鶏達。その混乱に乗じて、子供達は鶏小屋の戸を開け放ち、外へと駆け出す。
「そーら行けっす!」
 シゾーもこっそりけしかけ、鶏達を追い立て。鶏は鶏小屋を飛び出す。
 その騒ぎに、わずかに遅れて話し込んでいた大人達も気づく。背後に目をやれば、鶏小屋からわらわらと大事な鶏が逃げ出しているではないか!
「とっ、鶏が!」
「おお、これはいかん。儂も手伝おう」
「そうしてくれ!」
「おや主人、あっちまで鶏が」
 さりげなく慌てふためく主人を小屋から離すフウスイ。
「鶏がボールを割っちゃった……」
 破裂したボールを主人に見せて、ルミナが騒ぎの原因を話して目を引く傍ら、小屋の近くにひっそりと待機していた弓の狩猟者・ネマリ(c00510)に目配せし、シゾーは素早く袋を彼女にパスする。しっかりと目的の物を確保したネマリは、無言で頷き、それを持って細道を駆け出す。
(「ここまでは手筈通りじゃの……!」)
 ひたすらに息を殺しての潜伏は骨が折れたが、結果は上出来だろう。後は、いち早くこの場を離れて人目の無い場所に向かうだけだ。
「自分も手伝うっすよ!」
 ネマリの姿がすっかり見えなくなった事を確認し、緊張から解放されたシゾーも、笑顔を浮かべて鶏を捕まえに戻るのだった。


 鶏小屋の調査中に扇の星霊術士・シャオロン(c00633)が調べておいた人の目の少ないルートを辿り無事合流を果たした彼らは、被害者の瞳から得た情報を元に、鶏小屋捜索時の地理情報も加味しつつ、どこを探索すべきか話し合っていた。
 特定した情報を元に、シャオロンとアックスソードの魔法剣士・アレクサンテリ(c05357)が地図に得られた情報を書き込む。
「さて、これからが本番じゃのう……」
 思案顔でネマリが言うのに皆は頷き、捜索を開始。
「あれが……」
 捜索も二度目とあり、少しは地理に明るくなったか、やがて一人の少年を見つけた。
 小柄なマスカレイドの名はマイクと言い、年の頃は十四といったところ。少々小柄な点を除けば、特に目立った特徴もない、一見してどこにでもいる少年だ。だが間違いない。
 少年は彼らが被害者の瞳の中に視た姿形、そのものだった。

 そのまま気付かれないように追跡し、少年の住居を突き止めると、一行は監視を始める。
「気付かれないようにしないとネー」
 十分に距離を取って監視を続ける中、ふと呟く。
「それにしても、猟奇な殺人事件ネ」
 扇で口元を覆いながら青ざめたシャオロンは、常時呼び出している星霊スピカの方を見る。星霊のいらえは無いが、彼の言葉に仲間が頷いた。
「確かにね。それにしても、なかなか尻尾を出してくれないものね……折角、大嫌いなマスカレイドをボコボコに出来る機会だと思ったのに」
 物静かな大鎌のデモニスタ・シェスカ(c04228)が多弁な様子で呟くのに、思わずシャオロンが笑う。監視を始めてそろそろ、半日は過ぎただろうか。
「それにしても、変あるねー?」
 監視を始めて分かった事だが、少年は一人で住んでいるようだった。
「確かに変わってるわよね……」
 食事の差し入れなど、周囲の者が何くれなく手伝ってやるのに喜ぶ様子を見せ、
「……大丈夫ですよ。父さん達も遠出してるけど、そろそろ帰ってくるんじゃないかな」
 平凡な少年そのものの顔でそう言って、両親は仕事で遠出していると周囲に触れ回っているようだが……。
「ちっ、全くうるさいな。もうあんなうるさい奴らバラバラにしたに決まってるだろう」
 にやりと冷酷な笑みを見せながら隣人を見送る姿にぞっとする。暴力的な衝動は、確かに少年の中に在るのだ。

 同じ頃、待機の者も、ただ待つではなく忙しい。
「みんな……どうしてるかな?」
 買い物の帰り道、ルミナは親の形見のスピカぬいぐるみを抱いて、心配そうに呟く。
「うーん……」
 シゾーは情報収集ははかどらなかったものの、周辺の道の状況など分かった事を知らせるべく足早に酒場へ戻るのだった。


「交代するよ」
「お疲れさまです」
 仲間が次の監視に回るべく顔を出す。取り逃がさないようにと、二〜三人でローテーションを組み、常に監視出来る体制を取っていた。
「今の所は異常なしね。まあ……薄気味悪い事は言っていたけれど」
 昼間は周囲の人目があるからか、少年の動きは特に無かった事を伝えて、シェスカらは休憩に向かった。
「僕は上から見るね」
 普通、上は見ないだろうしと身軽に屋根に登る暗殺シューズのスカイランナー・トーリ(c02527)。住宅地とあって、登る屋根には事欠かない。
「お、そりゃいいな。よろしく!」
「確かに視点が広がって良いですね、お願いします」
 エアシューズのスカイランナー・ジンク(c03680)とアレクサンテリが見上げるようにしてそれを見送る。
 時は日暮れとなり、次第に周囲の家にも灯りが点り始めていた。暖かな夕餉の匂いに腹も空いてくる。
「それにしても、普通の人と変わんないな。見失ったら困るなぁ」
 持ってきた食料を食べつつ、トーリが一人呟く。平凡な風景に、平凡な少年。一見して、どこにでもある光景そのものなのだが……。
 しんしんと夜が更けていく。
 周囲の家屋から漏れる光などで、全く見えないという訳でもないが、僅かな光のみで監視を続けるというのも、なかなか心細いものだ。
「動かないでいるものつまんないなぁ。……あれ、光が?」
 屋根上のトーリが屋内の様子に気付いた頃、下で見張っていた二人も異変を察知した。
「そろそろ交代かな……っと?」
 ジンクが呟きを止め、目を凝らした。何かが動いたような気配がしたのだ。
「……消えましたね。寝るつもりでしょうか」
「いや……動いた。扉が閉じた音がしたぞ。トーリ!」
「うん、行こう」
 ひらりと屋根から飛び降りたトーリと共に、ジンクが酒場で待機中の仲間の元へと走り出す。二度の捜索に、休憩の合間の下調べ。何度も通った道を頭に浮かべて、二人は道なき道を駆る。あらゆる物を足場に駆けるスカイランナーならば、最短の距離で仲間の元へたどり着ける筈だ。
「交代の方達もそろそろ到着するでしょう。私は引き続き彼を監視します」
 二人の背に、アレクサンテリが声を掛けた。

 その頃、酒場で待機する者達は思い思いに時を過ごしていた。
「……うむ、いや、いかんいかん」
 酒好きのフウスイは厄介な誘惑と戦っていた。ただ待っているだけでは怪しかろうと、酒を注文したのが仇となり、先ほどからカップへ伸びようとする手を握りしめては引っ込め、とやっている。
(「さても、頼もしき事じゃの」)
 そんなフウスイの様子に笑いながらも、一番の年上である事を意識し、ネマリはしっかりしなくてはと自らに檄を飛ばす。
 慌ただしく扉が開いたのは、その時だ。仲間の顔を見て、トーリが常の笑顔で言う。
「はじまったよ。ほら、行こうよ」


 夜の都市を、少年が一人歩いていく。
「……行くぞ」
 誰ともなく、合図の声が上がる。
 そこは、都市の交差路、袋小路の手前。辺りに人気が無い事は、皆が幾度も重ねた調査の上にしっかりと確認してあった。
「何か用?」
 振り返る影。
 怪訝そうな顔をする少年に、最早隠す必要もない光源を掲げ、エンドブレイカー達は武器を構えた。
「お前の嘘をここで終わらせる」
「ふうん、なら、バラバラにしちゃおうかな? 別に、誰だっていいんだし」
 ジンクの言葉に、愉快そうに笑う少年の顔はゆがんだ笑みのまま仮面に覆われた。
 ランプのゆらめきに踊るかのような武闘は、そうして幕を切った。

 いつの間にか、右腕を長大な槍に変形させた少年の……否、マスカレイドの周囲には、彼に似た槍を持つ小柄な影が複数寄り添っていた。
「今楽にしてやるよ」
 マスカレイドは壊すしかないと、ネマリの命令を受け鷹のスピリットは翼広げマスカレイドへ踊り掛かった。
「これでどうっすか!」
 天高く舞ったシゾーが旋回しながら蹴りを放つと、配下は声もなくよろめいた。
「人殺しが普通の振りをしてるなんて……そんなの許せない!」
 続けて挑むように飛び上がったジンクは配下の頭上から蹴りを落とす。思わぬ痛打に砂のように崩れ落ち、それは消えていく。
「全く腹が立つな!」
 思ったようにいかない戦況にか、異形の大槍を構え憤慨した様子でネマリへ突進するマスカレイドの動きに合わせ、フウスイが動く。
「邪魔するなぁ!」
 進路を阻まれ、届かぬ攻撃に叫ぶマスカレイド。
 その怒りを受けたかのように配下達が動く。
 黒い影めいた個性なき姿は、淡々とした様子で槍を動かし、次々と近くのエンドブレイカー達を突き刺す。いっそ不気味な程に静かに。
 後退気味に距離を取っていたシャオロンら術者達は被害を逃れた。
「行きますよ」
 自らを遊撃担当とし、傷を受けていない敵へ鉤爪を振るうリョウアン。毒を受けた配下は、声もなく苦しそうに身もだえる。
「読み切れますか?」
 アレクサンテリの高速の剣は残像を残しながら突き立った。ざらりと砂の像のように崩れ落ちる影。

 攻撃を阻止される事に業を煮やしたマスカレイドは標的をフウスイに定めるが、いっそ好都合というもの。痛みに口調を荒げながらも完全と立ちはだかり、その攻撃を受ける。
 マスカレイドの大槍より苛烈に叩き込まれるダメージも、シャオロンとルミナの召還せし星霊の働きで癒され、危なげなく戦いは進められた。

「本当に……しつっこいったら!」
 忌々しそうに呟き、黒き炎を放つシェスカ。その身を焦がしながらも、人を傷つける事そのものが楽しいのだとでも言うようにマスカレイドは大槍を振るうのを止めない。
「はは、ハハ、ハハハハ! 全部バラバラにしてやる!」
 壊れた笑いが響く中、淡々と攻撃を繰り出すのはリョウアンだ。どうも攻撃の効率が悪いと、彼は途中から攻撃方法を変えて、鋭い突きを放つ。
「いい加減にしなよね」
 頭上から落ちるトーリの鋭い蹴りに、ゆがんだ笑いはちぎれ飛ぶようにして止まる。
 ……それが、マスカレイドの最後だった。

 そして、残ったのはマスカレイドであった少年の身体。そこにルミナが被害者の頭部を置く。早く家に戻れますようにと。
「さあ、行きましょう。マスカレイドを倒して犯人扱いはごめんだわ」
 シェスカのさばさばした物言いに、同意するように頷き。エンドブレイカー達は速やかにその場を去る。
「体全部、見つかるといいね……」
 小さなルミナの呟き。それはきっと、皆の共通する思いであった。
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