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その姿に憧れて

竪琴の魔曲使い・ミラ

<その姿に憧れて>

■担当マスター:沙良ハルト


「あいつら、しつこいなあ!」
 12、13歳くらいの少年が、木の上から地面を見下ろした。視線の先には、数体の怪物。少年より頭一つか二つ程度背丈の高いそれは、豚のような頭をしている。先程から少年が登った木の周辺を歩き回っている。
 少年が森に足を踏み入れたのは、ほんの数刻前。
 少し進み、茂る木々の間を潜り抜けたところで1体のオークを見つけた。
 剣を握る手に力を込め、挑もうと前に出た。しかし、少年の足はそれ以上先に踏み出すことができなかった。
 気付けなかった木の死角。彼の目の前には、複数のオーク。慌てて引き返そうと振り向いた。
(「後ろにも!」)
 前も後ろもオークに遮られていた。左右には巨大な幹を持つ木が並んでいる。
 オークが尖った石の付いた槍を振り上げながら、少年へと近付いて行く。
 少年は横目に大木を見た。
 そして助走を付け、大木に飛び付き、上部まで一気によじ登ったのだった。
 幸い、オークは木の上までは追って来なかった。しかし、少年が幾ら待っても立ち去ろうとしない。木の下でうろうろと歩き続けている。どうやら少年が下りてくるのを待ち構えているようだ。
 バキッ。
 少年が足を掛けていた細い枝が、重さに耐え切れず音を立てて折れた。慌てて枝の太い部分に移動する。ふう、と肩で息をつく。
 ――ぐらり。
 途端、少年が登っている木が僅かに揺れた。下を覗き込むと、紐で石を縛り付けた斧で木を叩きつけているオークの姿が見えた。その隣では鋭い先端を持つ槍を突き上げているオークもいる。
「相手が1体だけなら、何とかなったかもしれないのに!」
 悔しそうに、下のオーク達を見ながら不貞腐れる。
 暫くして、少年の視界が傾いた。
 木が倒れそうになる瞬間、彼は意を決して隣に立つ木へと飛び掛った。

「男の子を探しているそうです」
 竪琴の魔曲使い・ミラが数人のエンドブレイカー達の姿を見て、話し始めた。
 彼女が広場で歌っていると、その子の母親だという女性から探して欲しいと頼まれたという。
「修行と言いながら、お母さんが止めるのも聞かずに出て行ってしまったみたいです。男の子は城塞騎士に憧れているのだそうで、早く強くなりたくて一生懸命なのかもしれません。ただ……」
 一呼吸おき、心配そうな声音で続ける。
「男の子が向かったのは、辺境にある森のようです」
 母親の話によると、修行の一環としてバルバ退治をするため少年はそこへ向かったらしい。
「その森には豚のような頭を持つオークが住みついているという情報があります。何もなければ良いのですが……、もし男の子が襲われたりすると無事ではすまないかも知れません」
 母親もそのことを一番心配しているという。
 探し出して、連れて帰ってきて欲しい。それが母親の頼みだ。
 ミラが伏せていた目を戻し、エンドブレイカー達の顔を見渡した。
「恐らく、今回の件にはマスカレイドは関わっていないと思います。でも、男の子が一人で向かってしまったのはとても心配です。お母さんも家の前で、男の子が帰ってくるのを待っているみたいですし、私達で探しに行ってあげませんか?」
 しかし、探して終わりではない。鍛えるために出て行った少年を母親の元まで連れて帰る必要がある、とミラは付け加えた。
 彼女の話を黙って聞いていたエンドブレイカーの一人が呟いた。
「そうだな。子供を心配しない親はいないだろうしな」
 頼まれごととあれば放っておけない。それに少年に万一のことがあっては、母親は深い悲しみに暮れ、きっと自身を責めてしまうのだろう。そうなる前に見つけなければ――。
 話を聞き終えたエンドブレイカー達は、森へと向かう準備に取り掛かるのだった。

●マスターより

初めまして。マスターの沙良ハルト(さら・――)と申します。
この度は読んで頂き、ありがとうございます。β版シナリオのオープニングをお届けいたします。
皆さんの活躍を精一杯頑張って描いていきたいと思いますので、よろしくお願いします。

●敵情報
・オーク5体(斧装備2体、槍装備3体)
成人男性よりもやや背は低いですが、体格は頑丈です。
体当たりのほか、装備している武器を使ってそれぞれ攻撃してきます。

●その他
森の中を少し進んだ辺りに少年とオークはいますので、暫く探せばすぐに見つかると思います。
救出後、少年に家に帰るように説得することも忘れずにお願いします。

それでは、皆さんの熱いプレイングを楽しみにしています。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 弓の狩猟者・アーラーナ(c00783)
・作戦
少年を探してごーごー。
オークの姿を確認次第、誘い出し班と待ち伏せ班と救出班に分担する。
誘い出し班がオークを攻撃して挑発、此方にオークが向かってきたところを近くに隠れていた待ち伏せ班が奇襲する。
少年の居る方へ逃がさないように注意する。

私は誘い出す班。オークの姿を視認できたら射線が通るように移動して足元と近場の幹に撃ち掛けてこっちに向かってくるように挑発するー!

私は弓と狩猟者のアビリティだから近距離での闘いは避けて、前衛で頑張ってくれる人をサポートするためにファルコンを飛ばしたりすきを突いて矢を射かけるよ


・戦闘


少年の方に向かいそうになったら、挑発して自分に注意を向けてでも止めるぞ。

● 剣の魔法剣士・イヴァン(c00875)
森へ入ったら僕は上の方を見ながら歩き、
不自然に揺れている木が無いかどうか探そう
気付いたことがあれば仲間に知らせるよ

少年を見つけたら作戦開始。僕の位置は前衛だね
木の陰に隠れて、遠距離班に敵が誘導されて来るのを待つことにしよう
万が一にも敵に気付かれて警戒されないように、
装備が音を立てないよう気をつけつつ息を殺す
敵がこちらに充分近づいてきたら、他の前衛と共に飛び出して強襲するよ
戦闘ではまず十字剣で攻撃していき、
剣を構える動作が出たら残像剣に切り替えて一気に攻めていこう
敵も複数居るからね、少しでも弱っている個体が居たら集中的に狙って撃破していくよ
可能ならば戦闘中も敵の様子に気を配り、
少年の方に引き返すような素振りを見せる者が居た場合は、
ダッシュで退路を阻むようにするさ

少年の説得は城塞騎士の二人に任せよう
母親を心配させてまで得る強さなんて本当に必要な強さでは無いことを、
彼もきっとわかってくれるはずさ

● 槍の魔法剣士・サイラス(c02023)
・作戦
少年を探して探索。
オークの姿を確認次第、誘い出し班と待ち伏せ班と救出班に別れる。
誘い出し班がオークを攻撃して挑発、此方にオークが向かってきたところを
近くに隠れていた待ち伏せ班が奇襲する。
少年の居る方へ逃がさないように注意する。

俺は待ち伏せ班で前衛だ。
少年とオークを見つけるまでは、なるべく音を立てずに行動し
足跡や木の幹や枝に注意しよう。
不自然に壊れた部分があれば、敵が近くに居ると推測できるしな。

・戦闘
数を減らすために、残像剣で複数攻撃を狙っていく。
【プラスワン】が発生したら傷を負っている奴を優先的に攻撃。
数が2体くらいになったら疾風突きで攻撃。
状態異常の敵がいたら優先的にそいつに攻撃する。

少年の方に向かいそうになったら、挑発して自分に注意を向けてでも止めるぞ。
「自分より弱い者しか攻撃できないのか、臆病者めっ!」
それでも止められねば、自分の身体を盾に立ち塞がろう。

● 大剣のスカイランナー・ヴァサラ(c02083)
◆目的
少年の救出及びオークの撃退

◆行動
シンと共に少年の救出班として行動

主力班がオークを引きつけてくれまで、森の木を使い、身を隠しつつ待機。
主力班がオークを引きつけるのに成功したら、シンと共に少年の救出を開始。
「坊主、お前を助けにきた。死にたくなきゃ、こっちに来てくれ」
少年を運ぶのはシンに任し、自分は手の空いていないシンのカバーをする守り役を担う。万が一、少年が勝手にオークの方へ向かおうとしたら、少年の動きを制す。
救出完了後は主力班に混ざり、前衛として戦闘。

◆戦闘
少年救出時、オークがこちらに気付いて迫ってきた時、もしくは後ろから追ってきた時は、ワイルドスウィングでオークを切り払う。
「邪魔だ、どけぇ!」(オークが迫ってきた時)
「おっと、ここから先は通行止めだぜ?」(オークが追ってきた時)

少年救出完了後は、主力班が戦っているオークの背後に迫り、スカイキャリバーで奇襲を狙う。
「後ろがガラ空きだぜ」

● 杖の星霊術士・ナージャ(c02152)
○目的
少年を無事に母親の元まで帰すこと。

○捜索
少しでも早く発見できるように
周りの音に注意して捜索。

○戦闘準備
主力組と救出組に分かれる。自分は主力組で後衛。

○戦闘
オークを見つけたら仲間に合図。
少年からオークを引き剥がすため、
挑発として遠距離からマジックミサイルを撃つ。
全てのオークがこちらに来るように攻撃して誘導。
誘導に成功したら前衛と救出組の援護にまわる。
直接攻撃には向いてないので魔法中心で攻撃&回復。
バッドステータスの回復もできれば行う。
少年を助けることが目的なので
負傷者多数の場合は無理に戦闘を継続しない。

○戦闘後
少年を母親の元へ連れて行く。
できれば一人で戦うんじゃなくて
チームで戦うことを教えてあげたいな。

口調・行動は男っぽく、自分のことは僕という。

● 弓の星霊術士・ヒナ(c03877)
◆心情◆
初の依頼なので緊張するですね。
足を引っ張らないように頑張りたいところです。

◆口調補足◆
一人称→ヒナ
二人称→〜様
語尾→〜です(ですよ、ですね)等

◆班分け◆
※他の人のを参考に。

◆戦術(アビリティ)◆
通常→弓射撃での援護
味方が傷を負った場合→星霊スピカの使用

◆行動◆
先ずは全員で森の中に入って少年と敵探しをするです。
見つかったら始めに敵に威嚇射撃をするのですが、少年が当たらないようにするのと、なるべく正確に敵の頭上に大量の矢の雨を降らせれるよう、木の上で行うです。
その後本格的に闘いが始まったら援護に徹底するですよ。

戦闘が無事に終わったら皆様に合流するです。
そして少年に言ってやるです。
「城塞騎士に憧れるのは勝手ですが、母親に心配を掛けるのはどうかと思うですよ。」
これで少年がどんなに自分が愚かな行為をしたのか、気付くといいですね。
この後、少年はちゃんと依頼主の母親の所まで送り届けるです。

● ハンマーの城塞騎士・デューク(c04864)
オーク達を発見したら、誘い出しは遠距離攻撃者に任せ、こちらを小勢なりと思わせオークを油断させるため木陰に隠れています。

オークが近づいたら飛び出して強襲。他の前衛と壁を形成、遠距離者に攻撃が行かないように。2体倒したら回り込みつつの攻撃に切替え退路を断とうと試みます。特に少年のいる方。

アビは【盾】になるまでディフェンスブレイド、後はパワースマッシュ。




首尾よくオークを倒したらまず篭手を外し、
「城塞騎士懲罰の壱!歯を食い縛れ!」
少年の頭のてっぺんをごつん。

それから労わるように肩を叩きます。

「よく頑張ったな……しかし、騎士はこの盾で民を守るもの。家族や隣人もまた守るべき民、蔑ろにして盾に認められはせぬ。まず、手の届く所を守りなさい。母君を置き去りにしてはいけない」

「周りを固めてからなら、いつでも私達の所に来るといい。君は勇気と信念を示した。頼もしい後輩となるかも知れぬ若者の鍛錬、喜んで協力しよう」

● ナイフの狩猟者・ロウ(c05215)
さぁーて、救出大作戦いくぞ!
【救出班】シン、ヴァサラ
【主力班】前衛:イヴァン、サイラス、デューク、コリン 
後衛:ヒナ、アーラーナ、ナージャ、ロウ

オレは主力班で、オークの気をひく役割だな!
ファルコンスピリットで攻撃しながら、
オークたちを挑発するぜ!
オーク5体に気づいてもらうため全員に当てるぞ。
救出班が少年確保して安全なところに
辿り着くまでは遠距離攻撃でサポート。
その後は、素早さでかき回してナイフで攻撃だ!
「ノロマなオークども!こっちだ!オレの速さについてこれるか!?」
●少年へ
オレと同い年くらいなんだなー
まぁ焦る気持ちも分かるけどさ
無茶してちゃみんな心配するだけだぜ?
戦い方もいろいろ!強くなる方法もいろいろ!
一人で頑張りすぎんなよ!
オレもこの間やっとこさ家族に
認めてもらえたばかりだからな!
まぁ、その気持ちがあれば城要騎士になれるさ!
なぁ、そう思うだろ?城要騎士のお二人さん!

● 剣のスカイランナー・シン(c05397)
家族と離れ離れはつらいものだ。必ず母親のもとに届ける…もちろん、元気な姿でな。

■救出:ヴァサラと行動を共にする。
少年・オークを確認したら気づかれないうちに身を隠し、
オークに気取られない位置まで素早く、かつ静かに近づいて待機、
初撃、囮によりオークの気がそれ、移動を確認したら少年を保護、
抱えあげてそのまま身を隠し、安全圏まで移動し隠れておく。
万が一気取られて攻撃された場合、応戦はすべてヴァサラに任せる。
安全圏を確保後、ヴァサラに本陣合流を促したら、俺は少年の保護に徹しよう。

■保護:少年の安全を最優先
もし、少年が果敢に挑もうとしたり、危険な行動をとるようであれば、
剣で行動を遮り、厳しい言葉をかけて、脅してでも抑制する。
万が一の時を考え、常に臨戦態勢のままでいる

■説得:我関せず
戦闘終了後、仲間のところへ少年を抱えてつれていき、
説得中は背伸びやあくびをし、時折説得に耳を傾けながら様子を見ている。

<リプレイ>

●辺境の森
 不揃いに樹木が立ち並ぶ森に、一行は足を踏み入れた。
 森独特の湿り気のある雰囲気を感じながら、この森に向かったという少年の姿を探す。
(「足を引っ張らないように頑張らないとですね」)
 初めて受ける仕事からか、やや緊張した面持ちで弓の星霊術士・ヒナ(c03877)が周囲を見渡している。対照的に、心なしか楽しさが体中から溢れ出ているのは、弓の狩猟者・アーラーナ(c00783)だ。森の中にいるとわくわくするという彼女は、歩く足取りも軽い。
「ふむ……少年も無茶をするものだ」
「しっかりとした実力がないのに、一人で危険を冒すのは感心しねぇが。たった12、3歳でオークに挑むとは、なかなかガッツがあるじゃねぇか」
 地面に足跡が残っていないか探しながら進んでいる槍の魔法剣士・サイラス(c02023)が呟いた一言に、大剣のスカイランナー・ヴァサラ(c02083)が言葉を返した。
「俺はこういう奴、嫌いじゃないぜ」
 軽く腕伸ばしをしながら視線を木々の隙間に向ける。
「でも、親が心配しているからね」
 危険が迫るものなら、助けてあげたい。立木の上部を見ながら歩いていた剣の魔法剣士・イヴァン(c00875)も二人の会話に加わった。少年は修行として森に足を踏み入れたという。恐らく、そう奥深くまでは進んでいないはずだ。
 ふと、イヴァンが足を止めた。眉をしかめ、視線は前方にそびえる樹木へと向けたままだ。
「今――」
 向こうの木が大きく揺れたような、と続けるより先に、杖の星霊術士・ナージャ(c02152)が口を開く。
「何か聞こえたよ」
 低く、ぶれたような音。注意深く耳を傾けていたからこそ、微かに聞こえた。
 二人が示した変化に全員が顔を見合わせ、頷いた。
 この森にはオークの姿をしたバルバが住みついているという情報があった。不自然さを覚える異変は、何らかの事態に他ならない。
 イヴァンが指す方向へと急ぎ向かう途中、先頭を進んでいたハンマーの城塞騎士・デューク(c04864)が立ち止まった。気付いた剣のスカイランナー・シン(c05397)が目配せし、全員で木の陰に隠れるようにして様子を伺う。
 五体のオークが一本の大木を中心に取り囲んでいる。身体は人のような形をしているが顔は豚を思わせ、良く見れば眼光は鋭い光を放っている。牙も剥き出しになっており醜い姿をしていた。そのうち二体が石の斧で幹を叩きつけているようだ。先程の揺れと音は、これによるものだったのだろう。
「あっちいけよ!」
 声がした方向、大木の上部に視線を上げれば、一人の少年が見えた。オーク達のいる下方に向けて宙に足蹴りをしている。
「さぁーて、救出大作戦いくぞ!」
 ナイフの狩猟者・ロウ(c05215)がナイフを逆手に握り締め、声を潜めて全員に告げる。
 まずはオーク達を少年から引き離す。
 射線を捉え、立ち位置に着いたアーラーナが準備完了の合図かのようにウインクしてみせた。

●強い想い
 ひゅん――。
 アーラーナの放った矢が、少年に向け槍を突き上げていたオークの頬を掠め、隣にそびえる木の幹に突き刺さった。続けて彼女の立っているとなり。木に登ったヒナが弓の弦を弾き、別のオークの頭上へと矢を射る。
 予想外の矢の出現に一体、また一体とオークが矢の飛んできた方向へと向き直り、アーラーナ達を視界に収めて低い唸り声をあげる。気付いたアーラーナが口元を緩め挑発するように目を細めた。斧を幹へ叩きつけていたオーク達も少年の登る大木から気を反らし、彼女達のいる方向へと向かい始めた。
 オーク達を誘導するようにナージャが杖を掲げ、前方に振りかざせば、無数の魔力を帯びた矢が放たれる。彼女の動きに合わせてロウが呼び出した鷹のスピリットが尖った爪を輝かせながら追随した。
「今助けてやるから、待ってろよ!」
 自分と年がそう変わらない位の少年だった。強さを求める気持ちも分からないわけでもない。抱く憧れも。だからこそ、伝えたいことがある。
 それぞれが違うオークへと攻撃を仕掛けたことで、注意を惹くには充分だった。アーラーナ、ヒナ、ナージャ、ロウ。オーク達に対峙したのは四人。まだ子供だ。更に、受けた攻撃もさほど強力と感じなかったのだろう。自分達よりも少人数の弱者だと認識したようだった。
 牽制をおこなう四人とオーク達の様子を感じ取りながら、イヴァンは陰に潜んだ。細心の注意を払い僅かな鎧の掠れ音さえも感づかれないよう配慮していた。目を伏せれば、先程の少年の姿と自分の妹の姿が重なった。だが、今は少年の救出に集中を。救えなかったことへの悔いを振り払うように、剣の柄を持つ手に力を込めた。
 少し離れた位置では、ヴァサラがオークと少年のいる大木との距離を目視していた。そのまま、全員こっちに来い。額に上げていたゴーグルを下ろし、気を引き締める。彼の仕草に、隣りで同じく様子を伺っていたシンが改めて少年へと視線を向けた。
(「必ず母親のもとに届ける……。もちろん、元気な姿でな」)
 再び、アーラーナが弦を引き絞ろうとする。
 離れた位置からの攻撃に痺れを切らした一体のオークが、彼女へ目掛けて勢いよく走り込んだ。そのまま身体ごとぶつかろうとする隙間を縫うように、デュークが飛び出して代わりに受け止めた。その衝撃に顔をしかめながらも威圧するように叫ぶ。
「オーク共、我らが討伐に来たからには貴様らの命運もここまでだ!」
 そのままハンマーを頭上へ振り下ろせば、腕にごつりとした堅い感触が伝わった。
 続けてサイラス、イヴァンも姿を現し、牽制をしていた四人とオーク達の間に壁を作るように立ち塞がる。彼らの出現に残りのオーク達がいきり立ち、速度を増して近付いてきた。
 完全に気を削いだ。状況を見計らったヴァサラとシンが、木々の陰を利用しながら素早く少年の元へ駈け出して行った。

●護る戦い
「さっさと片付けるぞっ」
 素早い動作で幾重にも残像を伴いながらサイラスが槍を突き刺していけば、イヴァンが隙を入れずに剣で斬りつける。十字を残した軌跡が消える前に、自らも残像を生み出した。呻く声すらも出せないままオークの身体が地面に倒れ込む。
「へぇ〜さっすが!」
 これは負けてらいれない、とロウが感嘆する。
「よし、こっちだ! オレの速さについてこれるか!?」
 軽い身のこなしで別のオークに近付き、肉厚の腹へナイフを強く突き立てる。続けてアーラーナが弓を掲げる。
「行くよー!」
 強い風と共に生み出されたファルコンが翼を羽ばたかせ急降下していく。
 反撃する暇を与えることなく次々と倒されていく仲間を見たオークが、怒りに任せるようにサイラスに向けて荒々しく斧を振り上げた。
「……っ!」
 重い一撃を喰らいながらも肩先を押さえ、滴り落ちる血液を留まらせようとする。額に汗が滲み表情が歪んだ。ヒナが急いで呼び出した星霊スピカがサイラスに寄り添う。暖かな光で傷口を包んだかと思えばサイラスを襲う痛みが和らいだ。ふう、と安堵の息を吐き、体勢を立て直す。 
 ――がさり、と大木に茂った葉が二人の動きを合わせて音を立てた。
 近くの枝にシンが飛び乗ったが、少年は気付く様子はない。突然現れオークを相手に戦い始めた一行に、先程から釘付けとなっているようだった。
「坊主、お前を助けにきた」
 ヴァサラの声に漸く気付き、驚いて目を見開いた。足を滑らせそうになる。
「お兄ちゃん達、誰? あの人達の仲間なのか?」
「ああ。……お前の母親に頼まれたんでな」
 シンが手を差し出すと少年は一瞬戸惑った表情を見せたが、死にたくなきゃ来いとヴァサラが告げた言葉に頷いた。少年を抱えたシンが軽い足取りで地面に着地する。
 繰り出される攻撃に、数を減らしていくオークの姿。少年が自分も加わろうと、持っていた剣を握り駈け出そうとした矢先、ヴァサラが腕で制止する。駄目だ。シンが表情を何ら変えることなく、ただ一言厳しく言い放てば、少年は口をつぐんだ。
 オークの一体が先程までの獲物だった少年の様子に気付いた。少年のいた大木を背に回り込んでいたデュークの横を走り抜ける。相手をしていた別のオークの突きを厚みのある盾で弾きながら、頼むと後方へ呼び掛けた。
「おっと、ここから先は通行止めだぜ?」
 庇うように前に立ったヴァサラが大剣を大きく一振りする。オークの厚い肉を抉るように深く刃が食い込んだ。よろめいた背にナージャの魔法の矢が迫る。
 近付けさせはしない。
「後ろに」
 シンが少年を背で隠すように前に出る。
 後を追ってきたイヴァンが流れるような手付きで素早く斬りかかる。胴体を幾重にも切り裂かれたオークは、糸が切れたように崩れ落ちていった。

●進む道
「歯を食い縛れ!」
 デュークの発した言葉に、少年が思わずぎゅっと目をつむる。
 暫くして。
 こつん。
 篭手を外した素手の拳で軽く額を小突いた。深く息を吐く。
「全く、無茶をする」
「母親がとても心配しているみたいだよ」
 伺うように恐る恐る目を開くも、続けて言われたイヴァンの言葉に口を尖らせる。
「だって」
「早く強くなりたい、か?」
 言い訳のように口を開け掛けた少年をロウが遮った。焦る気持ちも分かるけどさ、と一言置いて笑顔で続ける。今日みたいな状態では心配されるだけだと。そして、自分もこの間やっとのことで家族に認めてもらえたばかりだと。
「それに、一人だけで戦おうとしなくてもいいと思うよ」
 僕達だって皆でこうやって力を合わせているのだから。ナージャが付け加える。
 自分と大して変わらない年齢に見える二人の言葉に、通じる想いを感じたのだろうか。少し俯いて肩を落とした。
 大きな手でデュークが優しく少年の肩に触れれば、反射的に大きな瞳で見上げてきた。
 この少年は城塞騎士に憧れていると聞いた。それならば。
「……騎士はこの盾で民を守るもの。家族や隣人もまた守るべき民、蔑ろにして盾に認められはせぬ」
 まず、手の届く所を守りなさい。母君を置き去りにしてはいけない。自らにも改めて言うように信念を交えて紡げば、今度は素直に頷いた。母君にも謝るように、と最後に添える。
「うん、分かったよ。……それと」
 ありがとう。最後の言葉は呟くように。
「とはいえ、一人で挑もうとするとは、勇気は一人前の騎士だなっ!」
 あとは、無茶をせずに少しずつ進んでいけばいい。サイラスが少年の髪をくしゃりと撫でれば、子供らしく嬉しそうな笑みが溢れた。その表情に、木にもたれかかって話に耳を傾けていたシンの口元も僅かに緩んだ。母親も少年の無事を知れば喜ぶに違いない。
「用は済んだし、早く皆で帰るですよ」
 ヒナが帰路を促せば、少年が思い付いたように言った。
「皆の話が聞きたいな」
 エンドブレイカー達の活躍で一人の少年の憧れは消えずに済んだ。
 それはいつか見える形へと変わるのだろう。
 頼もしい後輩となるかも知れぬな。デュークが少年の背中を見つめ、ひとり呟いた。
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