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突撃! 恐怖の地下農場

剣の城塞騎士・フローラ

<突撃! 恐怖の地下農場>

■担当マスター:市ヶ谷智尋


 いつからここで働かされているのだろう……農夫の男は汗を拭い、薄暗い岩壁の空を見上げた。
「そこ! 手を休めるな!」
 すぐにこの現場を仕切る親方から怒号が飛んだ。
 男は「すみません!」と謝り、あわてて作業に戻る。
 男の足元には、元気に育っている作物が一面に広がっている。
 これの世話をするのが、ここの仕事だ。
 労働は過酷で、今もギリギリの状態で働いている仲間がいる。
 ここで大切にされるのは、いつも作物だけ。
 それもそのはず。ここは禁止された作物を作る地下農場……いわば、ちょっと広めの牢獄なのだ。
 この日、仲間のひとりが力尽きて倒れた。男は慌てて駆け寄ったが、何もしてやることができない。
 親方の報告を受け、すぐに農場主がやってきた。その手には、大きなハンマーが握られている。
 それを見た男は恐怖し、その場を離れた。
 農場主の鼻息は牛のように荒く、表情も邪悪にゆがんでいる。
 彼は倒れた仲間の片足を持ち、乱暴に引きずっていく。
 そして農夫たちに「働け!」と命令して去った。
 男は、身も心も震えた。
 あの農場主は、人間のものとは思えない殺気を身にまとっている気がしたのだ。
 自分もいつかはあんな風に満たされぬ欲望の足しにされるのかと思うと、もう冷静ではいられない。
 このまま黙って殺されるくらいなら……男はこの時はじめて、この地下農場からの脱走を決意した。

 数日後。
 農場を脱走したという男の存在と事情を知った、剣の城塞騎士・フローラは、集まったエンドブレイカーたちに頭を下げた。
「この農夫さんがマスカレイドに殺されるというエンディングを破壊するために、力を貸してほしいの」
 男が脱出の際に使った入口から地下農場に潜入し、農場主を探し出して倒してほしいと説明した。
 脱走に気づいた農場主が人を使って、彼を連れ戻そうと動き出している。
 もはや一刻の猶予もない。
「詳しい場所は、その農夫さんが知っているわ」
 彼は今、消えない悪夢を振り払うためか、近くの酒場で飲んだくれている。
 ちゃんと事情を話して説得すれば、道案内を買って出てくれるだろう。フローラはそう言った。
 また農場には、彼の仲間達が残されているので、彼らも無事に救い出してほしいと言い添える。
「非常に危険な仕事ですが、他の人々を救うためにも……どうかよろしくお願いします」
 マスカレイドが生み出す悲劇を止めてほしい。彼女の思いはエンドブレイカーに託された。

●マスターより

 プレイヤーの皆様、はじめまして。市ヶ谷智尋(いちがやともひろ)と申します。
 このたびはオープニングのご閲覧、誠にありがとうございます。
 これからたくさんのエンドブレイカーの皆さんと、楽しくてかっこいい物語を作っていきたいと思います。
 どうぞこの機会に市ヶ谷をお見知りおきください。よろしくお願いします!

 戦闘になると、農場主は胸の中央に仮面を露出させます。手にハンマーを持ち、強力な打撃技を放ちます。
 また、このハンマーを地面に叩きつけることで岩を隆起させ、遠くにいる敵ひとりにダメージを与えます。
 ハンマーが届かない場所にいても、ダメージを受ける可能性があります。ご注意ください!

 さらに戦闘開始と同時に、農場主に殺されてマスカレイドとなった3体の死体が出現します。
 仮面は顔についており、手には農具を持っています。特殊な攻撃は仕掛けてきません。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 竪琴のデモニスタ・ルルルラ(c00552)
■心境
どんな禁止作物を作っているのか気になるね。
とりあえず脱走した彼の理不尽なエンディングは潰しておこうね。


■交渉時

酒場に先に入ってジュースでも飲んでるよ。
交渉メンバーの様子を見ながらね。


■戦闘前

潜入できたらとりあえず周りの確認をしてみる。
人が少なくて、スペースのある農地にデモンフレイムを放つよ。
これで少なくとも農場主達の気は引けるだろうから、
後は前衛の皆の出番ね。

農場主が出てきたら対峙。
「お、案外早かったね。お邪魔するよ。」


■戦闘

死体は各ペアに任せて目の前の農場主に集中。
あのハンマーは遠距離も攻撃できるみたいだから気をつけよう。
デモンフレイムで主に遠距離攻撃をしつつ、
近づいてきたらディスコードで毒でも狙ってみようか。
「どうだい?痛みは感じるかい?」


■戦闘後
労働者の誘導かな。
地上までご案内だ。
「とりあえずこの手の物には気をつけて、皆が良い暮らしができることを祈ってるよ。」

● 槍の魔法剣士・ロゼッタ(c00618)
【目的】
1、農夫、及びその仲間達の救出。
2、農場主、3体の死体(以下、雑魚)の撃破。

【作戦】
農夫の説得は、率直に…短刀に説得して道案内を頼む。
無理に遠まわしに言うと警戒される恐れがある為。

戦闘は、雑魚には、一体ずつにそれぞれ2人のペアで挑み、
農場主には4人で戦闘に挑む。

地下農場に着いたら、ルルルラがデモンフレイムを開いている場所に放ち
敵の注意をこちらに逸らして、農夫の仲間達を逃がす隙を作る。
その際は、農夫の仲間達に声を掛けて、逃げるように促す。

【行動】
私はリオンと共に雑魚の相手をする。
私は前衛で、攻撃は主に疾風突きを使用する。
担当する雑魚の攻撃にもちゃんと注意を払い、避けたりガードする等の対処もするが、
農場主からの遠距離攻撃にも注意し、農場主に背できるだけ向けない様努力する。
どうしても避けきれない場合は防御する。

● 剣の城塞騎士・エクリス(c00891)
-説得-
少人数だが誰が行くか未定なので、面子が3人以下の時は私も説得へ回る
「私は城塞騎士のエクリスと申します」
丁寧に自己紹介。城塞騎士と言えば信頼度が上がるかもしれん
「強制労働をさせ違法作物を育成する者がいると聞きました」
「他の方々を助けるためには、貴方の力が必要なんだ」
真っ正直な説得。成功時は感謝の意を伝え、他の仲間を紹介
「ありがとう。共に囚われの方々を助け出しましょう。そうだ、貴方のお名前は?」
後は知る限りの道順や建物の位置を聞き出す

● アックスソードの城塞騎士・トーヤ(c00953)
交渉
人数が三人に満たないなら自身も参加。自身が武器や荒事のプロフェッショナルであることを説明して守り得る力を持っている事を理解させ、頼りがいのある存在として見せからこちらの言い分を信用させてから、道案内を頼む
互いに熱くならないようにを意識しながら、落ち着いて真摯な態度でお願いしていく

戦闘行動
ルルルラさん(c00552)、タツヤさん(c03299)ジョーさん(c03776)と共に、農場主の相手をとる
後衛の人達が相手の注意を引く行動を取った後、自身と農場主の間に障害物が一切ない場合は農場主にダッシュで突撃して十字斬で攻撃、障害物がある場合は、通常移動で接近しながら直線状に障害物がない場所まで移動し、そこで突撃しながら十字斬を
十字斬は初撃でのみ使い、後は相手の眼前でディフェンスブレイドを使用して戦い、農夫さん達の安全を確保出来るまでは自らを農場主の眼前の障害物として立ち振る舞い、攻撃をなるべく自身に集中させる

● 剣の魔法剣士・リオン(c01076)
・交渉
下手に嘘ついて勘ぐられるより素直に言おうという結果になった。
だから嘘つかずに農夫を助けたい気持ちを言う。
案内後は逃げてもらっても構わないとも伝えないとな。
大勢で行くのもアレだ。
多いのならばあたしは待機。

・作戦
デモンフレイムで注意を引きつける。
騒ぎを立てている間に逃げる手伝いをする。

戦闘はそれぞれが決められた敵を倒す。
倒した後は増援として向かう。

・構成
アイラ・シャンディ、ロゼッタ・リオン、テッキ・エクリスの6人はそれぞれ死体を担当。
ルルルラ・タツヤ・ジョー・トーヤは農場主を担当。

・戦闘
ロゼッタとうまく連携していく。
アビリティは残像剣と十字剣を交互に使用。
強さはどうか知らないが相手は死体。
遠慮せずに行かせてもらうぞ。

・事後
ちゃんと働いていた人は逃げれただろうか。
今度はもっと扱いのいい処で働いて欲しいものだな。
みんな、初仕事お疲れ様だ。

● 暗殺シューズのスカイランナー・テッキ(c01486)
こんな事に苦しめられとるんを見過ごしはできんな。絶対助けたるで!

準備
農案内を頼みに行く際、店の外で交渉組を待つで。農夫はんが出てきたら挨拶する。

突入時
前衛組が敵の気を引いてる間に、他の後衛組と一緒に農夫に駆け寄り、助けに来たと伝えて入口まで連れ出す。極力目立たんようにね。
途中敵に襲われたらスカイキャリバーで応戦。農夫を守る。
無事に逃がせたら後衛に移動する。

戦闘
敵とは距離をとって、ソニックウェーブを使って戦うで。
エクリスはん(c00891)とタッグを組み、わいらは農夫の死体の一人を担当する。エクリスはんが相手取ったのと同じ奴に遠距離攻撃を仕掛けるで。前衛が攻撃できる隙を作れたらベストやな。
出来る限り農場主の動きに気を配り、こちらへの攻撃に警戒したいな。
自分らの担当の死体が倒せたら、他の死体>農場主の順で攻撃を加えていく。

戦闘後
敷地の奥まで残ってる農夫の人を探して、いない事を確認してから撤退やね。

● 暗殺シューズのスカイランナー・シャンディ(c02450)
【農夫への道案内依頼】自分を含めて4〜5人ほどで農夫のいる酒場へ行き、率直に「他に捕えられている人を助けたい」と頼みます。戦力を聞かれた場合は、外で待機している仲間のことを話します。
依頼に向かうのは候補が他にいなければ、言葉遣いの丁寧な人(トーヤ・ロゼッタあたり)とともに向かいます。
【脱出の手引】農場に着いたら先に他の農夫を逃がします。ルルルラのデモンフレイムで監視の注意をそらしているうちに、逃げ道まで連れて行きます。見つかった場合はソニックウェーブで牽制して時間を稼ぎます。
【戦闘】アイラの後衛に回って取り巻きの死体のうち1体の撃破を行います。後方からソニックウェーブを使って牽制しつつ、武器の農具もしくはそれを持った腕を狙い、戦力ダウンを図ります。なかなか撃破しづらい時は隙を見て死体の後方に周り、挟み撃ちを試みます。早く撃破できた場合は農場主撃破の援護に回ります。戦術は死体の時と一緒です。

● ハルバードの城塞騎士・アイラ(c02538)
「交渉」
率直に農場主を退治しキミの仲間を救いたいことを伝える

「戦闘」
まずはシャンディと一緒に死体を各個撃破、終了次第で農場主、もしくは近場の死体を殲滅、死体戦では積極攻勢、農場主戦では防御を固めつつ攻撃する、可能ならダメージの多い味方を庇う。

● エアシューズのスカイランナー・タツヤ(c03299)
農夫に案内してもらい農場へと向かいます。
敵の農場主達を見つけたらとにかく移動しまくって相手を撹乱します。
敵の攻撃を受けないように高速で移動しつつ無茶をしない程度に一撃、一撃とジワジワと攻撃してやります。
基本的に三人の死体達は無視、攻撃を避けるだけで何もしません、ひたすら農場主を狙いに行きます。
そのほかの人々達と協力して奴らを倒してみんなを救い出してやります。

● 太刀の群竜士・ジョー(c03776)
○道案内の交渉
交渉にはついて行くが、一歩下がり口添え程度に留める。うまく話が進まなければ業を煮やし「貴公、仲間の命を助けたくはないのか!」と感情をぶつける。
○マスカレイド出現前
ルルルラのデモンフレイムの後、タイミングを見計らい先陣を切って斬り込んでいく。監督、見張りなど、農夫の逃走の妨げになりそうな者は、片っ端から当て身で動けなくさせる。農場主が現れるまでは、作物、設備等を荒らし回る。
○マスカレイド出現後
農場主がマスカレイド化したら、すぐに間合いを詰め、自分に攻撃を誘い、遠距離攻撃をさせないよう立ち回る。その間は防御、回避を重視し、仲間が雑魚を片付けるのを待つ。前衛が増えてきたら攻撃に移る。
仲間が来る前に体力が少なくなってきても「ここが命の懸けどころ」と低く呟き、絶対に退かない。
○戦闘後
逃げ遅れの者を確認し、助けつつ立ち去る。

<リプレイ>

●地下農場へ
 マスカレイドに支配された秘密の地下農場から脱走して来た農夫は、酒場のカウンターにつき、薄汚れた服のままで酒を煽っていた。彼の前には既に幾つも空いたグラスが並んでおり、顔は赤く染まっている。
「でも……どんなにお酒を飲んでも、悪夢を振り払えてはいないようね」
 テーブルに座った竪琴のデモニスタ・ルルルラ(c00552)は、ジュースを飲みながら呟いた。
 彼女の視線の先で、数人の男女が農夫に近付いていく。ルルルラと同じ依頼を受けた、エンドブレイカー達だ。
 その中の一人、槍の魔法剣士・ロゼッタ(c00618)は、農夫に歩み寄ると単刀直入に言った。
「あなた、捕まっている方達を助けたくはありませんかしら?」
「なっ……!? あんた達、一体……?」
「驚かせてしまって申し訳ありません。私は城塞騎士のエクリスと申します」
 剣の城塞騎士・エクリス(c00891)は、自己紹介すると小声で言った。
「強制労働をさせ、違法作物を育成する者がいると聞きました」
「捕まえられている人達を助けたいんです」
 言葉を重ねるのは、暗殺シューズのスカイランナー・シャンディ(c02450)だ。
「脱走の手助けをすると……?」
 農夫はエクリスとシャンディの顔を、夢でも見ているかのような目で見つめて来る。シャンディに冷たい水を渡された彼がそれを飲み干すのを待ち、ハルバードの城塞騎士・アイラ(c02538)は、自信に溢れた表情で言った。
「私たちが農場主を退治し、キミの仲間を救い出す。そういうことだ」
「だ、だが……分かってるのか? あいつら人を殺すことなんてなんとも思ってないんだぞ?」
「大丈夫です。他にも仲間はいますから」
「い、いや……だが、俺は、もうあそこには戻りたくないんだ……」
 シャンディの言葉にも、男は怯えたような表情で首を横に振るばかりだ。
 農場での悪夢のような体験が、彼の決断を妨げているのだろう。
 その時、それまで一歩を退いて仲間達を見守っていた太刀の群竜士・ジョー(c03776)が動いた。彼は男の両肩に手を置き、視線を合わせて言う。
「貴公、仲間の命を助けたくはないのか!」
「落ち着いて下さい、ジョーさん。ここで熱くなっても仕方がありません」
 感情を露わにするジョーを制止し、アックスソードの城塞騎士・トーヤ(c00953)はジョーの言葉にハッとしたような顔をしていた男に、改めて説明する。
「私達には荒事には慣れています。でも、あなたの案内が無ければ、何も解決出来ないのですよ」
 落ち着いた物腰で言うトーヤに、やがて男は一つ頷くと、言った。
「……分かった、案内しよう」
「ありがとう。共に囚われの方々を助け出しましょう」
 礼を言い、エクリスは男と硬い握手を交わした。

 男が脱出に使ったという入り口は、一軒の納屋の中に隠されていた。
 男が納屋に隅にあった茶色い布の覆いを取ると、人一人が通れるほどの穴が口を開いた。
「この穴の先だ」
「ありがとう。ここも危険になるかも知れないから、すぐにこの場を離れてくれ」
 そう言った剣の魔法剣士・リオン(c01076)に、男は心配げな表情を見せた。
「気をつけろよ……あいつら、普通じゃない」
「大丈夫や。わいらに任しとき」
 暗殺シューズのスカイランナー・テッキ(c01486)は人好きのする笑みで言うと、男を見送った。後には、10人のエンドブレイカー達だけが残される。
 ジョーは鉢巻を頭に巻き、服の袖を襷がけにしながら仲間達に言った。
「各々方、覚悟はよろしいでござるか?」
 その言葉に、エンドブレイカー達は頷いて応じると、次々と穴の中に入っていく。
 エアシューズのスカイランナー・タツヤ(c03299)は、穴に入る直前、ふと足を止めた。
「……はぁ。行かないといけませんよね」
「どうしたんだ? ここまで来て怖いなんて言わないだろう?」
「いや、怖いからためらってるんですけどね……」
 不思議そうに言うエクリスにそう答えると、タツヤは怯える心を誤魔化しながら、穴に体を滑り込ませる。生来の臆病ゆえに恐怖はあるが、それを克服しなければ、不幸なエンディングを破壊することなど出来はしないのだ。

 穴を抜けた先には、緑の葉を茂らせた植物が、整然と生えていた。
 ここが問題の地下農場であることは、疑いようが無かった。
 周囲は薄暗く、ひんやりと湿った空気がエンドブレイカー達を包み込む。
「なんていう植物なのかしらね、これ」
「それよりも、急ぐ必要がありそうでござる!」
 ジョーはルルルラに、逃げ道の周囲の植物を太刀で刈り飛ばしながら顎をしゃくって見せた。
 農場のあちこちには、強制労働に従事させられているのであろう人々の姿がある。
 こちらに気付いたのだろう、驚いたような顔をしている者が殆どだ。
 彼らに素早く駆け寄り、テッキは密やかに声をかける。
「助けに来たで」
「こちらですわ。早くお逃げなさいな」
 ロゼッタが出口を示すと、働かされていた農夫達の顔に、希望の光が灯った。
 だが、この騒ぎに農場主が気付かないはずも無い。今のうちに目を逸らそうと、リオンは一つの小屋の前に積まれた作物を指差した。
「ルルルラ、火をつけるのなら、アレがいいんじゃないか?」
「そうね……幸い、周囲には人の姿も無いようだし。それじゃぁ、行くわよ!」
 ルルルラは仲間達に声をかけると、デモンフレイムを放つ。
 黒い炎は積み上げられていた作物に当たり、瞬く間に燃え上がらせた。
 炎と共に広がる混乱の中を駆け回り、エンドブレイカー達は農夫達を出口へと導いていく。
 低い声が響いたのは、その時だった。
「ワシの農場で、何をしているかぁっ……!!」
 現れたのは、この地下農場の主だ。
 手には無骨な金属製のハンマーを抱えた彼の顔は、憤怒のために歪み、赤黒く染まっている。
 地下農場を恐怖で支配する暴君の出現に、農夫達が悲鳴を上げ、我先に出口へ駆けて行く。
「お、案外早かったね。お邪魔するよ」
「貴様らか……ただで済むとは思うなよ!!」
 軽く応じたルルルラへの怒りに呼応するかのように、農場主の筋肉が隆起した。
 その胸板に浮き上がるのは、マスカレイドの白い仮面。
 さらには地面が割れ、顔を仮面で覆った3体の動く死体……アンデッドが姿を現す。
 敵の姿を目にしたアイラは、ハルバードを肩に担ぐようにして構えると薄く笑った。
「ふっ……これがエンドブレイカーとしての初仕事だ。私の力、試させてもらおう!!」
 その宣言と共に、全員が一斉に地を蹴った。

●地下農場の戦い
 作物に点いた火が、赤黒くゆらめき戦いを照らし出していた。
 農場主の注意を引くのはジョー、トーヤ、タツヤ、ルルルラの4人。他のメンバーは2人ずつ3組のコンビを組み、3体のアンデッドとそれぞれ相対する。1体でも逃せば、マスカレイドの魔手は逃げようとしている人々に向くだろう。
 それに、まだ逃げ遅れている人がいるかも知れないのだ。
 農場主達の注意を、こちらに引き付けねばならない。
(「大丈夫だ……いつも通りにやれば、いける」)
 リオンは、剣を額に近づけ、祈るように目を閉じ、開くと同時に剣を構えた。
「おーっほっほっほ! さぁ……! 貴方の相手は私達でしてよ!!」
 高笑いと共に、ロゼッタがアンデッドへと素早く踏み込んだ。串刺しにされた体を目掛け、リオンはさらに残像を伴った突きを繰り出していく。
 濁った血が、土に舞い散った。
 振り回されるクワの歯が2人を斬り裂いた。
 血の赤を目にした事で狂乱の度合いを深めながら、農場主は哄笑を上げる。
「ハハハァ!! 好き勝手も、ここまでだ!」
 ハンマーが振りかぶられ、彼に接近していたジョーへと振り下ろされた。
 強烈な一撃に視界がぶれるのも構わず、ジョーは太刀を鞘から引き抜く。鞘走りの音と共に走った一閃が胸板を切り裂き、さらにトーヤの剣が突き刺さるが、農場主は平然とした表情を崩さない。
「あーあーあー、なんか敵さん余裕じゃないですか、もう!」
 ヤケになったように、タツヤは足を振り、ソニックウェーブを放っていく。ルルルラもそれに続いて炎を放つが、マスカレイド化したことで、農場主はそれらを余裕で耐える耐久力を得ていた。
「貴様ら、まとめて農場の肥料にしてくれるわ!」
 脅しつけるような叫び。
 だが、その言葉を笑顔で受け流し、トーヤは人差し指を立てると舌を鳴らした。
 あからさまな挑発の仕草に、農場主の顔がいっそう赤黒く染まる。
「ウラァッ!!」
 ハンマーが地を叩くと共に、足元から鋭い先端を持った岩が隆起した。胸板を貫かれ、ジョーは顔を歪ませる。
「ここが命の懸けどころ……!」
 命の危険を感じながらもそう呟き、彼は再び太刀を振るっていく。

 4人を相手にして一歩も退かぬ農場主の姿は、アンデッドと戦う者達の目にも映っていた。
「早いところ、アンデッドを片付けないといけませんね」
「そうやね。ほな、急ぐとしようや!」
 エクリスに応じると、テッキは暗殺シューズを履いた左右の足を振り抜いた。
「行っとけ!」
 声と共に走った二条の衝撃が、アンデッドを撃ち据えた。無言のままにクワを振り被り、テッキへの距離を詰めようとしたアンデッドの前に、エクリスは防御を固めつつ突っ込んだ。
 アンデッドが振り下ろすクワを剣で受け止めると同時に、鈍い痛みが腕に走る。
「くっ……!!」
 直突きを入れ、エクリスは突き飛ばすようにアンデッドとの距離を取る。
 エクリスの体を耕さんとクワを振り回すアンデッドを見据え、テッキは手にした棒を地面に突き立てると、棒高跳びの要領で宙に跳び上がった。
「これで、しまいや!」
 頭上からの衝撃がアンデッドを貫いた瞬間、エクリスの剣が十字を描いて振り抜かれる。
 アンデッドの体が崩れ落ち、その顔を覆っていた仮面が消滅した。

「被害が出る前に片付けさせてもらおうか!」
 アイラは遠慮なく、アンデッドへとハルバードを突き込んだ。
 相手は既に死んだ身だ。遠慮をすることは無い。
 アイラの後ろからは、シャンディがそれを支援するように、ソニックウェーブを放っていく。
 アンデッドの体はたちまちのうちに傷ついていく。
 だが、死してなお農場主に従順な敵は、アイラに向かって一心不乱に手にした農具で攻撃を仕掛けて来た。黒い鎧の上からも響く痛みに、アイラはかすかに顔をしかめる。
「雑魚とはいえマスカレイド。やはり侮れるモノではないか」
「大丈夫ですか!?」
「ああ。そろそろ終わらせる」
 アイラはシャンディにそう叫ぶと、ハルバードを構えた。素早い突きが続けざまにアンデッドを貫くと共に、シャンディの撃ち放った衝撃が、アンデッドを元の動かぬ死体へと立ち戻らせていた。

「おのれ、ワシの配下を2体も!」
「いいえ、3体ですわ」
「つまり、全部だな」
 ロゼッタとリオンの声と共に、残っていた1体が崩れ落ちる。剣を振り、こびりついた血を払い飛ばしたリオンと共に、ロゼッタは農場主を見据えた。
「これで、10対1……!」
 トーヤは荒い息の下から呟く。
 だが、仲間達がアンデッドマスカレイドを片付ける間に、農場主と戦っていた4人の体は激しく傷ついていた。特にトーヤとジョーは、いつ倒れてもおかしくない状態だ。
「あー、もう、ようやく少し楽になるかな……」
 それまでの怯えから、あからさまにホッとしたような表情を浮かべてタツヤが言った。
「ここからが勝負ね……行くわよ!」
 ルルルラが宣言と共に放った火の玉が、戦場をさらに赤く照らし出す。
 それと同時に、集中攻撃が開始された。
 衝撃が、炎が飛び、刃が翻る。10人がかりの猛攻は、次第に農場主を追い込み始めていた。
「お……おのれェッ!!」
 だが、相手もただではやられない。
 反撃とばかりに振り回されたハンマーが、トーヤとジョーを叩き飛ばした。
「ジョーさん、トーヤさん!」
「く、そ……!!」
 地面に倒れ込んだ2人は、そのまま動かない。
 荒い息をつきながら、農場主は狂笑を顔に浮かべた。
「フン、ワシの奴隷どもを助けたりするからよ! 奴らはワシに従っておれば良いのだ!」
「あなたに彼らの命と自由を束縛する権利はありませんよ……テメエは絶対許さねえ!」
 怒りも露わに、シャンディは宙を蹴り付けた。
 弾かれるように放たれた衝撃が、農場主の体を揺らがせる。
「今だ!」
 リオンの叫びと共に、再びの一斉攻撃が、農場主の体に叩き込まれた。
 どう、と音を立ててハンマーが手から零れ落ち、僅かに遅れて体が地面に崩れ落ちる。
 仰向けに倒れ込んだ胸板から、マスカレイドの仮面は消えていた。

「残っている人はいないみたいやな」
 農場を周って来たテッキが、静まり返った地下農場を見渡して言う。
 残っていた人々もルルルラ達に案内されて安全な場所へと向かい、地下農場に残されたのはマスカレイドにされた者達の遺体だけだ。
 彼らの冥福を祈っていたロゼッタは、彼に顔を向けると微かに痛みの混じった笑みを浮かべた。
「最小限の被害で済んだ、というところですわね」
「良い結果だな。皆、勝利を祝おう」
 微笑で言ったアイラに頷き、エンドブレイカー達は地下農場を後にしたのだった。
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