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飢えたる狼たちの晩餐会

弓の狩猟者・ナターリア

<飢えたる狼たちの晩餐会>

■担当マスター:水沫ゆらぎ


「すごい遠吠えだな……ちょっと様子を見てくる」
 そう言って角材片手に出かけたっきり、少年の父親と従兄弟のおじさん達は未だに戻ってこない。
 彼らが出かけたのは、少年が他の子達と一緒に畑の大部屋から芋と野菜を掘ってくるより前だった。農家に生まれた少年達にとって、上層の市場に出荷する野菜を掘り出して箱詰めするのは日課とも言える作業。
 まさか手間取るわけもないが、それでもかなりの時間が過ぎているのは明白――なにせ取ってきた晩飯のおかずは、いまは大鍋でぐつぐつ煮られてお腹の鳴りそうな匂いを漂わせているのだから。
「おとーさんたち、遅いねえ」
 おじさんちの末の子が、芋の香りに鼻をひくひくさせながら少年の服を引っ張った。全員が食卓につかないと、いただきますを言っちゃいけない決まりになっているのだ。
 少年も椅子にただ座って待っているのが辛くなってきたので、うーんと首を傾げて父親達の帰りが遅い理由に頭を巡らせ始めた。
 ……そういえば、獣たちの遠吠えがいつの間にか鳴り止んでる。これって何でだろう?
 何とはなしに胸騒ぎを覚える少年だったが、不意に家がどしん、どしんと物凄い音を立てて揺れ始めたため、その物思いは中断されることになった。
 ……何か大きくて重いものが、家の壁に向かって体当たりしてる?
 家族みんなが不安げに顔を見合わせる暇もあらばこそ、薄板を張り合わせて作られた安普請なそれは、見る間に内側に向かって歪み、折れ曲がり、最後には凄まじい音を立てて大破した。
 居間の一角に開いた大穴から、次々に獣臭さを撒き散らして狼たちが飛び込んでくる。なかでも少年の目についたのは、不気味な仮面を銀の毛皮の表面に浮かび上がらせた大きな狼だった。そいつは少年の視線に気づくと、血糊で真っ赤に染まった口元をにたりと吊り上げた――。

「とある下層地域の集落が、いま崩壊の危機に晒されています」
 一抱えほどもある大弓を大切そうに抱いているその女は、エンドブレイカーたちを町の酒場に案内するなり、さっそく本題を切り出した。
 彼女、弓の狩猟者・ナターリア曰く――その集落で農家を営んでいる三世代同居の大家族が、数日後に襲来する狼の群れによって殺されてしまうエンディングを見たのだそうだ。
「狼の群れは全部で十頭ほど。それだけなら大した脅威ではないのですが、問題は群れのボスであるマスカレイド。ちょっとした熊ほどもある大きな銀狼で、爪も牙も通常の狼たちの危険度とは比べ物になりません。加えて、マスカレイドの攻撃を受けるとかなりの確率で出血状態となる模様です」
 血を流させ、弱らせた獲物に子分の狼たちを一斉にけしかけるのが、狩りを行う際の彼らのやり口であるらしい。
「襲撃の前に家族を集落から避難させられればよかったのですが、足の悪い老人や生まれたばかりの乳飲み子もおり、説得は難しそうです。必然的に集落の前で狼たちを迎え撃つこととなるでしょう。襲撃は夕刻――都市天井の光が薄暗くなる頃ですが、明かりの類は特に必要ありません」
 そこで言葉を切ると、ナターリアはまっすぐな瞳でエンドブレイカーたちを見据えた。
「慎ましくも幸せに暮らしていた家族に降り注ぐ災禍……断じて見過ごすわけにはいきません。人の血で喉を潤さんと欲す邪悪な狼たちに、我らエンドブレイカーの矜持を見せてさしあげましょう」

●マスターより

 お目通しいただきありがとうございます。水沫ゆらぎと申します。
 至らない点も多々あるかと思いますが、みなさまのキャラクターを魂込めて執筆させていただきます。どうかよろしくお願いいたします。

 シナリオ補足。
 成功条件はマスカレイドの討伐。失敗条件はエンドブレイカーたちの敗北。
 手下の狼たちの強さは、ひとりで囲まれでもしない限りは特に問題ない程度のものです。
 マスカレイドの攻撃は、常にバッドステータス『出血』の判定を伴います。また出血状態のキャラクターがいる場合、そのキャラクターは子分の狼たちによって優先的に狙われます。
 NPCは他にも事件を抱えているため、本依頼には参加しません。


<参加キャラクターリスト>


<プレイング>

プレイングは1週間だけ公開されます。

● 太刀の城塞騎士・メリーヌ(c00153)
◆作戦
子分を先に減らし出血による集中攻撃を減らす方向で

子分を四匹にするまでは、ボス牽制班と子分攻撃班に分かれ行動
子分四匹以下になったら、ボス攻撃班と子分殲滅班に分かれます

私は基本ボス班前衛で

◆戦闘(ボス牽制)
狼達が来襲したら、ボス目掛け一直線に走りメイン牽制役として攻撃を引き付けます

ディフェンスブレイドで相手の攻撃を受け流しつつ攻撃

自分のGUTSが四分の一を切った場合は、アリスレッドさんにメイン牽制役を交代
私は居合い切りで子分攻撃に移行
「…アリスさん、後はお願いしますっ!」

◆戦闘(ボス攻撃)
自分のGUTSが四分の一を切っておらず、子分が四匹以下になったら居合い斬りに切り替えボス攻撃
切っていた場合は子分殲滅班に混じり、居合い斬りで子分攻撃です

・戦闘通して、後衛や集落方面に行かせない事を第一に考え、位置取り
前衛は半円状の陣を敷きます
また、ボスが逃亡を企てようとした場合も、退路を断つよう移動を

● ハンマーの魔獣戦士・アリスレッド(c02738)
●事前
周辺地形を観察し死角となる経路がないか把握して不意打ちを防ぐの

●戦闘
メリーヌが主前衛、私が副前衛となってボス狼の機動範囲を抑制してる隙に他の者が雑魚狼達の数を減らす作戦なの
陣形は半円形を維持し後方に狼を向かわせない布陣とするの

主前衛は狼の正面に立ち、副前衛はそのやや後方からボス狼の機動に対応しつつ援護攻撃をする流れなの
但し、主前衛が持ちこたえられない場合は副前衛と役目を入れ替わるの

私も副前衛の時はボス狼の動作観察しつつ機動範囲を塞ぐ事を重視
側面を守りつつ隙を見てパワースマッシュで攻撃なの
またメリーヌに何か隙があるようならそこもカバーなの

主前衛の時は副前衛時の観察情報を駆使しボス狼の癖等を読み取り攻撃に対応しつつビーストクラッシュを駆使し攻撃重視で反撃する隙を与えない攻撃を加えるの

雑魚狼の数が減ったら何人か加勢に来る予定なの
そうなったらボス狼の背後に回り込み退路を断つことを重視するの

● アイスレイピアのデモニスタ・クラーラ(c03306)
もう、ひどい埃。嫌になるわ。

集落に着いたらまずは、住人達に出て来ないようにってきつく言い渡しておかないと。

出来る事なら集落の入口に柵や罠でも張っておきたいけど…そんな時間きっと無いのね。

●戦術
相手の姿が見えたら、扇状に陣形を作って前に出る。
私の目標は、集団を束ねるマスカレイド。
前線を維持しつつ、とにかく先行隊のためにボスまでの道を切り開く事に専念するわ。

小物の数が減ったら、シロツメ、フェリア、ゼルアークの3人と連携を取ってボス攻撃に移る。先行したメリーヌ、アリスレッドと射手ジオルドの状況は常に視界に入れ、状況に応じて入れ替わる。

大切なのは、どんな時もそれぞれが孤立しない事。
誰かが窮地に立ったら、何よりも優先してそちらを守るわ。

近寄る者には氷の刃を、遠ざかる者には悪魔の炎を。

戦いが終わったら…、幸せな家族の姿でも遠くに眺めて、静かにその場を後にする。

そんなエンディングで、私は十分。

● 大剣の魔獣戦士・ゼルアーク(c03348)
誇り失いし獣の晩餐、――仕舞いにしようぜ

作戦
前衛が半円状に位置し後衛を守るように布陣だな
(基本的に各々の役割に移るまでは固まって動いていくぜ)
声とかで合図し攻撃対象は統一して行きたいもんだな

倒す認識は子分狼>ボス(マスカレイド)
まずは敵を減らす事から目指し、ボスに近寄れる時点で
【牽制班】と【子分殲滅】に分かれ各々動く
(班同士は常に近くに位置し、孤立を防ぐ認識で)
子分の数が4匹になった時点で【子分殲滅】【ボス対峙】の
二班に各々切り替え、後は全力

行動
1段階で【子分殲滅】(牽制班の前衛が負傷し交代が必要な場合は向かう)
2段階で【ボス対峙】どっちも前衛
2段階では仲間と協力でボスの退路は断つぜ
常に死角・孤立・集中攻撃には警戒
ワイルドスイングもビーストクラッシュも限りに使用

他の奴が真っ向から対峙してんなら死角も狙う方向
直接攻撃を受けねぇ様に大剣でガードは試みるぜ
出血や痛手の味方が囲まれねぇ様にフォローは必須で

● 太刀の群竜士・ホムラ(c03918)
家族を奪われる悲しみを子供達には絶対に与えたくないな。
子供達の為にも、そして不幸なエンディングを阻止するためにも狼の進行は村に辿り着く前に絶対に食い止めてやるぜ!

>戦闘前
目的の集落まで一刻も早く辿り着く為にも急いで向かう
もちろん、到着直後に戦闘が始まることを考慮しながら移動は行う

>戦闘
狼の集団を発見したら、すぐに攻撃を開始
攻撃は子分狼の掃討を担当
開始と同時に近くにいる1匹を居合い斬りで攻撃
残りの子分狼も近場にいるものから攻撃を行い、なるべく早く敵の数を減らしていく
余裕があれば後衛の周囲に気をつけて、近くにいる仲間の壁になって仲間が攻撃をしやすいように子分狼を近づけないように気をつけます
子分狼の殲滅が終わった時点でボス狼が生きてる場合は攻撃に参戦
竜撃拳で攻撃し、ボス狼の討伐を行います

>戦闘後
影ながら集落が無事ということを確認してから帰還します

● 弓の狩猟者・ジオルド(c04461)
オレは後衛だから敵に気取られないような後方に位置取るぜ
同時に後方からの状況把握も努める

始終念頭に置くべきは、
集落に敵を向かわせない・逃がさない
出血した仲間の集中攻撃を防ぐ
以上、勝利するため絶対だな。

まず子分狼の数を減らす為、確実にダメージを与えられるファルコンスピリット(以下ファルコン)で攻撃

マスカレイド(以下ボス)の行動が状況的にマズかったらボスを牽制する行動に移る
ボスの動きが鈍るのを期待して、なるたけ足に命中するように弓射撃するぜ
2発外した時点で局所狙いは止めて的に当てる事だけに専念する

子分狼が4匹程度になったら標的を子分狼に変更
元気な敵には弓射撃を、弱ってる敵は確実に仕留めてえからファルコンで攻撃だな
他の仲間と上手く攻撃の息を合わせて確実に数を減らして行きてえわ
子分狼を全部片したらそのままボス攻撃に加わる

また敵が集落に向かわねえよう、かつ逃走しねーよう警戒かな
ファルコンで牽制攻撃するぜ

● ナイフの魔法剣士・キヤ(c04689)
件の狼を全滅させる。

徹頭徹尾、子分狼の排除に尽力。
子分を狩り尽くして残るはボス、という状況で無い限りはそのように。
敵の数が多い場合の懸念材料は、なんと言っても撃ち漏らしが出ること。
一頭でも逃がしてしまうことを避けるために、確実に数を減らしてゆきたいところ。

体調が万全な内は前に立ち、狼の首や喉元といった急所にナイフを突き立てるべく行動。
残像剣と切り裂きの使用頻度は半々。
敵味方が入り混じる戦いになることを考慮し、残敵数のカウント役もこなせれば。
「敵があとどれくらい残っているか」を適宜仲間に知らせ、狼を見落とす可能性を減らす。

警戒度を高めるのは敵数が少なくなってきた頃。
敵味方の位置関係のバランスがおかしくならないよう配慮を。
不利を悟った敵の逃亡を阻止すべく、先回りして包囲内に閉じ込める。

全ての子分撃破を確認した際は、ボス退治に協力を。
ここまできたら焦る必要も無いので、確実に着実に削り仕留める。

● 暗殺シューズのスカイランナー・シロツメ(c04742)
【心情】
「わー、ほんとしつけなってないんだねぇ…おしおきしなきゃ」
狼に対しては馬鹿なことしちゃってダメだね、とある種達観した目で見ている。
逃がすつもりは毛頭ないけれど。

【戦闘】
子狼が4匹程度になるまで、子狼を殲滅。
第一段階では半円の左側に立つ。後衛に敵が近接した場合はすぐに駆け込めるように気を配る。
4匹程度になったら、ボスの殲滅に向かう。

・基本
スカイキャリバーを使い、足技で叩きつけるように戦闘。
追い詰められても必死に成らず「あー、スーツ汚れるなぁ」とつぶやく余裕も見せる

敵が逃げようとした場合は
「あ、逃げれると思った?…ダメだよ」と軽い調子で言いつつ、ソニックウェーブを使用。

クリティカルの場合は「あははっ、ごめんごめん!」とにやりと片頬を上げて尚も攻めようとする

【戦闘終了】
感情を抱いてるメンバーが怪我した場合は、「あらら…」と手当てに向かう。
その他のメンバーの場合は心配するも行動はしない。

● 弓の狩猟者・イシュカ(c05091)
まずは狼の現れるだろう方向に向かって弧を描くように半円に配置された前衛に囲まれ、円心地点辺りに位置。奇襲に警戒しつつ群狼と対峙する段階になったらボスの牽制を任せ、誤射に細心の注意を払いつつ前衛ゾーンの背後から子分の狼達を一匹づつ狙っていく…中でもなるべく弱っていそうな狼を優先する。あくまで前衛から孤立しない程度の距離感を維持しつつ、もし狼がこちらを攻撃対象とするようなら近接状態で無闇に迎撃しようとはせず回避に専念し味方からのフォローを待つ。然し、近くで戦う味方が深手を負った場合、やや感情的にその味方を優先的に援護する。子分の狼が4匹以下になるまで退治出来たら味方の弓手ジオルドと合流し、残りの子分の狼を一匹づつ狙っていく。なるべく弓手同士が離れすぎないように意識しつつ、子分の狼達を逃さず仕留めていく、間違っても町のある方には逃がさないように。子分の狼を全て退治ないし撃退したらボスへ総攻撃。

● 杖のデモニスタ・フェリア(c05206)
◆作戦
概要は他の者が書いてくれているのでそれに準ずる。
私は全体を通して後衛担当で引き目に構え、手数を稼ぐため移動は必要に応じての最低限に止めるつもりだ。

◆戦闘
先ずは相手の頭数減らしからだな。
当面はマジックミサイルで確実に削っていこう。
他の者と対象を合わせて、一匹ずつ確実に──
特に遠距離主体のジオルド・イシュカとは極力攻撃を合わせていくか。

一部メンバーが途中からボス狼への牽制に向かうが、私は引き続き配下の狼の数減らしだ。
この局面では手負いの狼に確実に止めを刺す事、牽制組に狼が向かわない様にする事の二点が重要だな。
牽制組に向かう狼は此方に注意を引き付ける為にも、あえて当てずに狼の目の前を掠めて挑発してもいいな。

狼の数が減ってきたら私はボス狼への攻撃にシフトだ。
デモンフレイムでの炎上と大ダメージ狙っていく。
前衛組そろそろ消耗も激しいだろう。
場合によっては私も前に出ることを考える必要があるな。

<リプレイ>

●開会の砂埃
 典型的な下層地域の佇まいを見せているとある街区。
 塀の隙間をシダか何かに侵食されたボロ家が立ち並び、通りには乾物や豆スープの屋台が出ている――そんな街から郊外へと伸びる道をしばらく進むと、やがて街道の脇にだだっ広い平野が見えてくる。
 件の大家族の集落は、この平野に足を踏み入れて数刻といった場所に位置している。
 あたりに他に目立つものはなく、それゆえ狼たちの注意を引くことになったのだろう集落を背にして、エンドブレイカーたちの影が夕刻のぼんやりとした明かりの下に伸びていた。
 戦闘の余波が飛び火しない程度には離れていて、それでいて集落の明かりが目に届く程度には近いという理想的な地点。傍に大樹が一本見えるぐらいで、あとは微かに雑草が生えているだけのグラウンド。特に戦闘の邪魔になりそうな物もなく、これなら派手に大暴れできるというものだ。
「あとでよく髪を洗わないとダメね……」
 アイスレイピアのデモニスタ・クラーラ(c03306)が、剥き出しの地面から立ち上る砂塵に顔をしかめた。
 一行のなかで抜けた発想を見せたのがこのクラーラだった。戦闘に先立ち集落の家族たちを説得――狼たちの襲来に備えて立ち退くよう促すのではなく、逆に適当な理由をでっち上げて家から出てこないよう言い含めたのだ。
 狼たちを逃さぬよう気を配って戦うとはいえ、集落の近辺で戦闘の騒音が生じれば、家族たちが様子を見に来る可能性があったことはナターリアの情報からも明らか。非戦闘員を抱えて立ち回る破目に陥ることも有り得たわけで、これは彼女のファインプレーだったと言えよう。
「ん? どうしたお嬢ちゃん」
「いや……なんでもない」
 明かりの灯る集落を切なげに見つめていたのは杖のデモニスタ・フェリア(c05206)。声をかけてきた仲間に返事をして、そっと追憶の篝火から目を伏せる。
 誰かに語って聞かせるような、そんな珍しい話ではない。失われた家族。マスカレイドへの復讐。都市が棘(ソーン)に覆われるようなこのご時勢、似たような境遇の者は数多いるだろう。それこそ道を歩けば枯れ木を踏みしだくように、この世界にごまんとありふれた悲劇……。
 ――それをありふれたものでなくするために、私はマスカレイドを討つんだ。
 再び顔を上げて集落を見つめるフェリアの目に迷いはない。
「(幾度この弓を引けば、私はその答えに手が届く……?)」
 奇しくもフェリアがもたれていた樹木の上で、弓の狩猟者・イシュカ(c05091)も彼女と似たような物思いに耽っていた。
 人々のささやかな笑顔を守るため、悲しき終焉を呼ぶマスカレイドどもを討つが我らエンドブレイカーの宿業。ならば――その宿業の終わりは? 世界からすべての理不尽な終末が滅び去り、私たちがいなくなっても人々が平和に過ごすことのできる日はいつ訪れる?
 ふと湧いた疑問にゆるりと首を振り、イシュカはスカイランナーさながらに足音も軽く地面に降り立つ。
「お〜っ」
 暗殺シューズのスカイランナー・シロツメ(c04742)が、口笛を吹いてぱちぱち手を叩いた。一風変わった道化じみたキャラクターのためか、実は場を包むシリアス空気にぐったりしていたのだとか何とか。そんな彼女もイシュカの身軽さに対抗心を刺激されて生き返った模様。
 ご来場のみなさま、大変お待たせしました! これよりお披露目しますは、樹上に踊る影絵の妖精。お代は見てのお帰りよっと!
 シロツメは助走をつけて樹木めがけてハイジャンプ。太い幹を足場にさらなる高みへと舞い上がる。全身に風を感じながら、身体を丸めてくるくる回転しようとしたまさにそのとき――狼たちの迫り来る砂埃が、宙を舞う彼女の視界に写った。
「あーあ、ここからが楽しい見せ場だったのに!」
 予定を取り止めて素直に着地すると、シロツメは咥えていた棒のお菓子を噛み砕いた。

●しんどい仕事
 遠吠えをあげて集落を目指していた狼たちは、武器を構えて立ち塞がる人間たちを見て警戒の唸り声を発した。
 その数は二桁に届くか届かぬかといったところ。群れを率いる銀狼のマスカレイドも含めて、ナターリアの情報と相違ない。エンドブレイカーたちは兼ねてより打ち合わせていた布陣に散開した。
 最も避けるべきは孤立による集中砲火。特にマスカレイドの攻撃はそれを誘発するよう条件付けられていると聞き、一行はマスカレイドを相手取る班と、出血者を狙う狼たちを殲滅する班とに分かれたのだ。
 それぞれの標的へと挑みかかる機は早々に訪れた。マスカレイドが短く吼えると、一斉に狼たちがエンドブレイカーたちに襲いかかってきたのだ。
「ここは通さないっ!」
 裂帛の気勢とともに、太刀の城塞騎士・メリーヌ(c00153)がマスカレイドに向けて袈裟切りに斬りつける。冴え冴えとした銀の毛並みを裂くはずのその一撃は、何か不可解な手応えを彼女に返してきた。
「――――っ!?」
 まるで金属でできた樹皮に打ち込んだかのような感触。打点をずらされて死んだ剣にされたのか――メリーヌの両手が衝撃に痺れる。
 マスカレイドの黄金色に光る双眸がメリーヌを捉えた。晩餐の贄として選ばれたと直感するや否や、強烈な爪撃が彼女を見舞った。一撃目を何とかディフェンスブレイドで凌いだメリーヌだったが、その圧倒的な膂力に肝が冷える。二度はできないという益体もない確信。それなのに、続く二撃目が彼女の身体を斜めに引き裂かんと振り下ろされ――
 その強靭な一撃を、副前衛として控えていたハンマーの魔獣戦士・アリスレッド(c02738)の攻撃が間一髪で逸らした。彼女の腕はすでに魔獣戦士としての巨大な獣のそれと化していて、眼前の強い力を持つ獲物に齧りつかんと気を滾らせている。「せっかく招かれた晩餐会、心行くまで味わう準備は万端なの」とでも言わんばかりだ。
 メリーヌの援護に回ってマスカレイドの癖や弱点を探るつもりのアリスレッドだったが、思いの他すぐに出番が回ってきて内心ホクホク――と思いきや、実のところ彼女にもあまり余裕はなかった。というより……。
「正直、ふたりがかりでもキツそうなの」
「それなら三人でどうだい? ちっとばかしアドリブ入っちまうけどなっ」
 弓の狩猟者・ジオルド(c04461)の放った牽制の二矢が、跳び退るマスカレイドの足元に突き刺さる。
 いつも面倒臭げな面をしているのだが、笑うと意外に愛嬌のある顔つきになる。喋り出せば人当たりもいいので、本当は陽気な性質なのだろう。スラムでその日食べる物にも事欠くような日々を送ってきたジオルドだが、その過酷な経験も彼の本質には何ら影を落としていないらしい。
 また生来のムードメーカーであるというだけでなく、彼は目端もよく利いた。マスカレイドの抑えに回ったふたりがどれぐらい保ちそうか、他の狼たちにファルコンスピリットをぶつけながらも気を配っていたのだ。
 手下の狼たちを相手している仲間に、マスカレイドの牽制組に回ると声を上げる。
 かくてマスカレイドと相対する三人――すでに前衛も後衛もない。回復手がいない以上、取り得る策はダメージを各々に分散させる他にない。
 マスカレイドの鋭い爪が、牙が、三人の身体を朱に染める。
 小物たちの掃討を行っている他の仲間が救援に駆けつけるまで、はたして――。

●一刻も早く
「悪く思うなよ? 晩餐はもう終わり、蹴散らさせてもらう!」
 大剣の魔獣戦士・ゼルアーク(c03348)が自身を取り囲む狼たちに啖呵を切る。大柄な身体から溢れんばかりの自信を発散した、見た目そのままの荒々しい兄ちゃんである。
 しかしこの男の本質はむしろ、その豪快さを隠れ蓑にした冷静さにあった。今回の狼掃討作戦においてどのような布陣を敷くかの意見を取りまとめたリーダーシップ。一時の感情に流されずに役割を果たすことを第一義とする鉄の意志。そんなワイルドとクレバーの同居したミスター兄貴肌が、突進の勢いもそのままに大剣を振りかぶり、標的とその隣にいた狼までいっしょくたにして薙ぎ払う。
「そのように無駄に数ばかり増やすから、餌も行き渡らんで共倒れするハメになるのじゃ。そら、妾が間引いてくれよう!」
 宣言を受けた狼はさぞ驚いたに違いあるまい。ボスの毛並みもかくやといった金ピカ派手女が分身したと思ったら、次の瞬間には身体中のあちこちを刻まれて血塗れにされていたのだから!
 その不遜な笑みは玉座に君臨する女帝のよう。ナイフの魔法剣士・キヤ(c04689)の残像多重斬りだった。ゼルアークの一撃を豪壮と称するなら、キヤのそれは夢幻――彼女の繰る刃の煌めきが、虚空に銀の軌跡をいくつも描いて消える。
「(俺は何のためにこの太刀を振るうのか)」
 太刀の群竜士・ホムラ(c03918)は、束の間鞘に収めた太刀の柄を握り締めて黙想した。
 いまよりもっと強くなりたいから? この一振りで世界をも見て回れるほどに? 否。いまのホムラの胸を焦がしているのは義憤。マスカレイドに奪われ、虐げられ、掬い取られる、そんな無慈悲な結末を俺は覆したい。そのためにこそ俺の太刀はある。ならば――ここは絶対に譲れない!
 跳びかかってきた狼に、ホムラは鞘から抜いた太刀を横薙ぎに一閃した。彼の表情は氷のように険しかったが、その心は荒らぶる焔の如くに赤々と燃え盛っていた。
 エンドブレイカーたちの活躍で見る間に狼たちの数は減っていき、殲滅班は期待通りの戦果を挙げつつあった。しかし彼らの胸中に達成感はなく、むしろ焦りばかりが募っていく。
 戦闘の合間に視線をやると、マスカレイド班は明らかに劣勢。一刻も早く加勢に駆けつけなければ。しかし配下の狼たちを減らし切れずに動くのは、逆に場が混乱するだけのジレンマ。
 まだか、まだかと、誰もが思った。
 ――そのとき。
「残り、四匹!」
 誰かの叫ぶ声が戦場に響き渡った。
 待ちに待ったシフトチェンジの合図だった。
 狼たちに体勢を立て直す暇も与えない、見事な連携を見せた。

●終焉壊者乱舞
「あら……! ちょっとあなた、大丈夫?」
 戦場の隙間を縫うように黙々と狼たちに矢を打ち込んでいたイシュカだったが、真っ赤に染めた足を引きずって戻ってきたジオルドを目にすると、さすがに驚きの色を隠せなかった。
「たはは、弓手が身体張っていいとこ見せようなんて思うんじゃなかったぜ」
 くつくつと笑いながらそんな軽口を叩いてはいるが、マスカレイドの猛攻を身体を張って食い止めていたダメージは隠し通せるものではない。にもかかわらず――鷹のスピリットを呼び出そうとするのは彼の責任感の表れか。
「あまり無理せず俺たちの背中に避難してるといい」
「そのとおり、お主にばかり見せ場はやらんのじゃ」
 ホムラとキヤの申し出に苦笑して降参のしぐさを見せるジオルド。さっそく血のにおいを嗅いで集まってきた狼たちにイシュカの矢が乱れ飛び、その援護射撃のなかをホムラが駆ける。全身を駆け巡る生命エネルギー『竜』の流れ。澄み切った無我の境地から繰り出された正拳突きは、不可避の一撃となってジオルドを狙っていた狼の急所に突き刺さった。
「むう、残り三匹で倒したのが七匹とな……」
 しばし何事か考える素振りを見せたキヤだったが、やおら憤激。
「……三も七も割り切れん数字ではないか! この世のバランスに真っ向から反逆するが如き所業!」
 全部片付けると除算もできなくなることに彼女が気づくのは、もう少し先のことらしい。
 子分の狼たちが残らず殲滅されるのは時間の問題だったが、マスカレイド班はというと倍に増えた人数でなお一進一退の攻防を繰り広げていた。脅威の戦闘力とタフネス。ただの狼をこれほどまでの魔物に変貌させる――げに恐るべきは仮面の力であった。
「しつけのなってないバカ犬には……おしおき!」
 空高く跳びあがったシロツメが敵の首に急降下ギロチン斬りをお見舞いするが、お返しとばかりに強烈な体当たりを受けて弾き飛ばされる。
「痛いなぁもーっ! スーツ汚れるじゃんか!」
 どこかしら余裕を感じさせる台詞を叫ぶ彼女の隣を、メリーヌが疾風のように駆け抜けて斬撃を浴びせる!
「この運命、変えさせて貰うぞ……マスカレイドっ!」
 もはや血に染まっていない場所などほとんど見当たらない酷い姿だった。けれど彼女は退かない。戦いの果てに倒れることなど怖くはない。真に恐ろしいのは城塞騎士の誇りが失われること。守るべき平和が失われていくのをただ黙って見守るしかないことだ!
「ここで果てろッ!」
 負傷したジオルドと入れ替わったフェリアが腕を掲げると、掌に二対の煌々と照り輝く紫炎が生まれる。
「あら、気が合うわね。丁度私もあいつを丸焼きにしたいと思ってた所よ」
 アイスレイピアを鞘に戻したクラーラの詠唱がそこに重なり、ふたりのデモニスタによる極大の猛火がマスカレイドを包み込んだ。ドロースピカによってもたらされる光の源、本物の空に浮かぶ太陽のように燃え立つそれが、たなびくフェリアのポニーテールを炎の色に染める。
 全身を消えぬ業火に炙られてマスカレイドが苦悶の声をあげる。
 手下を瞬く間に滅ぼし、己が身体に次々と傷をつけていく手練たち。そして何よりもマスカレイドが忌避感を覚えるのが、視界をちょこまかと飛び跳ねる小さな赤い影だった。
 食指をそそる好餌としか見えぬ幼い身体なのに、獣の腕を縦横に操って皮膚を削ぎ取っていく。血化粧を施した濡れた唇を吊り上げて「オイシイヨ? モットモットモット!」とはしゃぎ立てる理解不能の何か。捕食の対象でしかなかったはずの赤頭巾に、逆に身体を貪られるという恐怖。
 ここに至り遅すぎる逃亡を試みたマスカレイドだったが――その逃げ道を塞ぐようにゼルアークが立ち塞がった。轢き殺さんと速度を上げたマスカレイドに、彼は大剣をゆるりと構えた。
「誇り失いし獣の晩餐、――仕舞いにしようぜ」
 人と獣の影が交錯した刹那。
 マスカレイドは深々と大剣を埋め込まれ、やがて動くのを止めた。
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