<美の狂気を食い止めろ!>
■担当マスター:睡居わずか
「違う! こうではない!」ヒステリックに叫ぶと、肌つやのよい中年の男は目の前の石彫刻を力任せに押し倒す。
「何度も何度も言っているだろう。もっと躍動感を出せと。……この無才能めが」
「そう仰られましても……。これでも私なりに精一杯モーガン様のご要望に沿ったつもりなのです」
あまりの物言いに、思わずカチンときた若き彫刻家はつい反論してしまう。
パトロンであるモーガンの意向には出来る限り応えたいとは思うが、どこが駄目なのかも抽象的でよく解らない。
いつ頃からか、こうして作品に対して露骨に口出しすることが多くなった。
モーガンには何か心に描いているイメージがあるのかもしれないが、頭の中を覗くことなどできるはずもない。
「そうか、解らんか。では、お前にもよく理解できるように教えてやろう……」
「……は?」
やはり彫刻家は首を傾げる。
その言葉の真意にやっと気づいたのは、モーガンの左手に握られたものが、自分の腕の皮を削いだ時だった。
「あぁぁっ!」
「もっと――こうだ!」
再び振り降ろされた左手を、彫刻家は辛うじて避ける。
慌てて逃げ出そうとするが、恐怖で足がもつれてその場に倒れこんでしまった。
「ひいっ!」
「逃げることはない。じっくりその体で確かめるといいぞ」
一振り、一振り、薄ら笑いを浮かべたモーガンが手にしたノミで、自分の体が刻まれるのを激痛と共に味わい、彫刻家はやがて絶望の中で意識を失った。
「実は、ちょっと見過ごせない事件を知ってしまってな……」
トンファーの群竜士・リーと名乗る男が、同じエンドブレイカーに声を掛けて回っていた。
誰もあえて口にはしないが、珍妙な髪型が実に特徴的で、一度見たら忘れない風貌だ。
「ぜひ、皆さんに手を貸して貰いたいんだ」
先日のことだ。ある町の片隅で、見るも無残な死体が発見された。
体中の皮や肉、骨までもを刃物で削られ、ずたずたにされていた被害者は、まだ駆け出しの彫刻家だった。
「その彫刻家のいわゆるパトロンだったモーガンという男が、彼を殺したマスカレイドだ」
町の中でもモーガンは広い敷地と大きな館に住んでおり、裕福なことではその名を知らぬ住民はいないほど有名だった。
また、美術家、音楽家といった多方面の若手芸術家を大勢自分の館に住まわせ、モーガンは彼らの創作を経済的に支援していた。
殺された彫刻家もまた、モーガンの館に住み込んで日々創作活動に勤しんでいたという。
「芸術は金は掛かるが、なかなか金にはならないと言うからな。金持ちが道楽で援助してやってる分には悪くないと思うぜ」
だが、マスカレイドとなったモーガンは、言う通りの作品を芸術家たちが作れないことに腹を立て、八つ当たりのように危害を加えるようになった。
件の彫刻家も、そうして殺されたのだ。
「近所の住民はモーガンがマスカレイドであることも、館の中で起こっている悲劇も知る由もない。だからといって、悪事が広く露見するのを待っていたら、被害者が増え続けることになる。今、館に居る芸術家たちを助けられるのは、俺たちエンドブレイカーだけなんだ!」
ならやらないわけにはいかないだろう、とリーはもっともらしく同意を求める。
「幸いなことに、芸術家たちは外出については自由らしい。彼らがモーガンのいる館から離れたところで、密かに接触するのがいいだろう」
もしかしたら既に逃げ出した芸術家もいるのかもしれないが、逃げれば芸術活動が続けられなくなるという葛藤から、決断に至らずにいるのがほとんどのようだ。
今の段階では、まだそこまで差し迫った事態とは感じていないのかもしれない。
「館への侵入に成功したらモーガンを探し出し、芸術家たちが巻き込まれないように注意して倒してほしい」
エンドブレイカーたちに取り囲まれたモーガンは、マスカレイドの力を表に現すはずだ。
「最後に一つ。マスカレイドとはいえ、モーガンはこの町では社会的地位のある有名人だ。倒した後は事情を知らない住民に見つかる前に、速やかに現場を立ち去ってくれ」
事が露見すれば、捕まってしまうのはモーガンを殺した張本人のエンドブレイカーだということだ。
「上手くやってくれることを期待してるぞ」
熱い語り口調で、リーは訴えかけるのだった。
●マスターよりはじめまして、マスターの睡居わずかです。まずは、オープニングを読んでいただいてありがとうございます。 以後、どうぞよろしくお願い致します。 さてさて。今回は必殺のお仕事です。 モーガンは庭を含めた敷地は周辺の家の十倍はあり、芸術家十数人が余裕で住まえるほどの二階建ての大豪邸に住んでいます。 リーが話しているように、パトロンのモーガンに気づかれないように芸術家に接触して館に侵入して倒したら、さっさと館どころか町からも姿を消すのが一番だと思います。仕事人とはそういうものです。 ボスのマスカレイドの能力は以下の通りとなります。 ・両腕に持った巨大なハンマーとノミで近接攻撃。 ・口から毒液を撒き散らして広範囲を攻撃。 また戦闘開始と同時に、ボスは配下のマスカレイド3体を召喚します。いずれの能力も以下の通りです。 ・ナイフによる近接攻撃。 それでは、ご参加をお待ちしています。 |
<参加キャラクターリスト>
● ソードハープの魔曲使い・ラズリィ(c00727)
● ハンマーの群竜士・アステリカ(c01249)
● アイスレイピアの魔法剣士・ルカ(c01415)
● 大剣の群竜士・リン(c03761)
● 竪琴の魔曲使い・マーヤ(c03881)
● ハンマーの魔獣戦士・レイシア(c04366)
● 竪琴のデモニスタ・アルレキノ(c04446)
● 爪の魔法剣士・レディオット(c05425)
● 杖の星霊術士・リヒャルド(c05430)
<プレイング>
● 剣の魔法剣士・キース(c00638)
ラズリィ、マーヤ、リヒャルドの3人(以下接触役)が芸術家と接触している間に残りのメンバーで町の中を探索し、逃走経路に適しそうな人目につきにくい道を調べる。
できたら全員で2つか3つは見つけておきたい。
ある程度目処がついたら屋敷周辺の侵入・逃走経路も確認。
どちらもあまり目立たないようにする。
夜になったら屋敷の近くで待機し接触役の曲の合図で内部へ侵入。
住人に気取られないように注意し、侵入したらすぐに接触役と合流。
可能ならモーガンが来る前に部屋に潜伏していつでも攻撃ができるように構えておくが、それが無理なら近くの空き部屋かどこかに隠れる。
戦闘の際は先に配下のマスカレイドを狙い、倒したらモーガンを攻撃。
残像剣・十字剣を惜しまず使い早く倒すことを狙う。
但しモーガンの毒液に注意。
逃走の際は固まらず3人ずつ程度に分かれ、先に調べておいた逃走経路を使って別々に逃げる。
何をするにも素早く確実に行うよう心がける。
● ソードハープの魔曲使い・ラズリィ(c00727)
*潜入
:マーヤとのコンビと装ってモーガンに接触。リヒャルドはマネージャーかな?
潜入後の仕事は
:内部構造と人員配置調査
:館の住人の行動パターンチェック
:外のメンバーの侵入誘導路調査
以上を調べたら、夕方までに外の仲間にメモにして渡しておこう。
*作戦
:予め入り口の鍵を開けた後、窓際で軽くハープの音を響かせよう。
「あぁ、すまないね。見て貰う前に調整をしておこうと思って」
そのまま鍵をかけずにおけば、窓からも侵入できるかな?
モーガンには、オレ達の演奏を聴いて欲しいから、都合をつけてもらおう。時間は夜、広くて静かな部屋を探しておかないとね。
先に侵入して貰った仲間を潜ませておいて、モーガンがきたら戦闘開始だな。
*戦闘
:戦闘は苦手でね…誘惑魔曲でモーガンを足止めしているから、その間に他の皆に頑張って貰おうかな。
「鎮魂曲をくれてやろう、モーガン!」
*事後
:急いで退却だね。
予め逃走ルートを考えて貰ってるので、そこを使うよ。
● ハンマーの群竜士・アステリカ(c01249)
行き過ぎた芸術というのも考え物ですね。
犠牲者が増える前に片付けましょう。
・侵入前
予め侵入路に使えそうな箇所に当たりをつけておく(全員バラバラで確認した後、一旦離れた所で合流)
裏口や人気のない部屋の窓等が良いかと。
その後、接触役と待機役で分かれて行動。私は待機役です。
待機役は更に適当に数人ずつに別れ、街の外への安全な逃走経路を3ルート確保。
・侵入
夜。
合図のメロディが聞こえる範囲で分かれて待機。
合図で数人ずつ侵入。
建物内では誘導役の指示に従う。
・戦闘
まず配下担当。
状況を見て分担し、パワースマッシュで攻撃。
私は配下を全て倒してからモーガンへ移行する予定です。
モーガンも同様に攻撃。但し毒を受けたら竜撃拳に切り替えキュアを狙う。
・逃走
基本的に潜入に使った道を戻る。
他に逃げやすいルートがあればそちらを。
外へ出たら、接触役をバラバラに分けた適当な3班に。
昼間調べた逃走ルートを使い、班毎に速やかに離脱。
● アイスレイピアの魔法剣士・ルカ(c01415)
◆侵入
以下の2グループに別れる
A ラズリィ、マーヤ、リヒャルド
B 上記以外の7名
Aが芸術家に接触し、
館内の情報収集とBの侵入の手引きをする作戦
館に侵入するまでの間に逃走経路の確認をしておく
夜目立たないよう隠れてAの合図を待ち、
館に侵入したらAの案内に従って全員でモーガンの元に向かう
戦闘になる部屋の扉に鍵があれば念のために閉める
◆戦闘
モーガンの足止めをしつつ配下3体を倒し、
その後モーガンに集中する作戦
私はラズリィ、マーヤと共にBSでの足止めを目的に最初からモーガンを狙う
まずモーガンとの距離を詰める
近接する位置まで移動したら「氷結剣」で攻撃
以降モーガンがBSになるまで「氷結剣」で、
モーガンがBS時は「残像剣」で攻撃
GUTSがギリギリのところまで下がったら回復をお願いする
回復が無理なら攻撃の範囲に入らない場所まで下がる
◆戦闘後
そのまま速やかに館を出て、
予め調べておいた逃走経路を使用し、固まらないよう散開して街を出る
● 大剣の群竜士・リン(c03761)
矛盾がある場合は他の人のプレイング優先で
【戦闘】
他のメンバーにモーガンを足止めしてもらって
まずは配下のマスカレイドを倒す
基本は通常攻撃
トドメを差せそうだったらワイルドスイングで攻撃
攻撃している配下を1体倒し終わったらモーガンを倒しに行く
攻撃は出来るだけ間合いを取らないようにして近接で戦う
モーガンの毒液は可能なら回避、
毒のBSにかかってしまった場合は竜撃拳で自キュアを狙いながら攻撃
【脱出】
あらかじめ用意されていた脱出経路を使って逃げる。
芸術家達に見つからないように気をつける。
脱出に成功したらすぐに町を出る。
殺人犯扱いされたらたまんないしな。
● 竪琴の魔曲使い・マーヤ(c03881)
◆準備
接触班として行動。
パトロン募集中の音楽家として屋敷に入り込み、屋敷の間取りや
人の動きを他のメンバーに伝え情報を共有します。
進入時には手引きと安全の確認を行います。
◆行動
新人達が演奏を聴かせたい、という事であれば部屋にいれてくれる
のではないかと思うので、他の芸術家が犠牲にならないよう演奏を
聴かせ部屋にひきつけておきます。
そこはそれ、天才的な演奏でなんとか(希望)
窓際で演奏し、合図にします。
他のメンバーが来たら後ろに下がり後衛にまわります。
◆戦闘
基本的には後ろから演奏、アビリティは誘惑魔曲メインで。
多分前衛が支えきってくれると信じてます。
◆戦闘後
用意されていた逃走ルートでさっさと逃げます。
。
● ハンマーの魔獣戦士・レイシア(c04366)
【心情】
芸術はお金になるのは100年先って言うけど、本当らしいわね。
お金持ちの道楽に付き合うつもりはないけど、
やっぱり血で芸術を磨くのはいただけないわね。
ちょっとお灸を据えてやるとしましょうか。きっついのをね
【戦闘】
接触組からの合図を待ってから部屋に入って、
先に配下から狙うわ。
ハンマーを持って、一気に前に駆け出して
近くにいた配下のマスカレイドの頭に、一発きめてやるわ。
配下が倒れたら、モーガンに向かってハンマー・アビリティを使うわね。
「芸術は、血で描くんじゃないわ、心で描くのよ!」
…似合わない言葉なんて叫んで見ましょうか。
【戦闘後】
モーガンを倒したら、ハンマーを担いで窓から飛び降りるとしましょうか。
目立たないように路地裏に出て、裏街道を通って
町の出口に、こっそりと逃走するわ。
「後で一杯やらない?」
なんて、仲間に声をかけるのを忘れずにね♪
● 竪琴のデモニスタ・アルレキノ(c04446)
・道化た振る舞いをしてみせることでパーティーの結束感を強めます。
・先行して潜入を担当する仲間のために、彼らが芸術家と接触している間に屋敷の周りで辻弾きの振りをして進入経路、脱出経路などを探ります。
・逃走時に備えて、潜入した段階で竪琴の弦を鍵など絡めて破壊します。
・逃走後に備えて、如何にも物盗りの犯行かのようにミスリードのための痕跡を残します(鍵開けをしようとしたように傷をつける。芸術作品を物色したかのように積み上げる)
・戦闘時は戦列から一歩はなれ、苦戦している仲間に臨機応変に援護射撃をします。
・戦闘が長引きそうな場合は回復が可能な仲間を優先して援護します。
・誰かが毒液をかぶったりした場合、それを歌い手特有の大声で回復薬に知らせます。
● 爪の魔法剣士・レディオット(c05425)
当日、行動に矛盾が生じた場合は他のメンバーに合わせる形とする
◆事前調査/調査班
*接触前
通りすがりを装って館周辺を調査
予め侵入路に使えそうな箇所に当たりを付けておく
全員確認できたら一旦離れた所で合流
*待機中
日が暮れるまでバラけて街を散策し
人目に付かない、逃走に使えそうなルートを合計3つ程確保しておく
◆館潜入
夜になったら接触役の合図で数人ずつ館に侵入
接触役の手引きと状況に合わせ臨機応変に行動
万が一館の住人に見つかっても冷静に対応を
◆戦闘/対配下A班・前衛
モーガンの居る(あるいは誘き寄せた)部屋に入ったら内鍵を掛け、戦闘態勢へ
対配下組で三手に分かれ手近な敵を残像剣で1体ずつ集中攻撃。素早い殲滅を目指す
自分の攻撃していた配下が倒されたら攻撃対象をモーガンへシフト
アサルトクローで高ダメージ・BSを狙う
◆逃走
モーガンを倒したら速やかに館から抜け出し
予め調べておいた逃走ルートを使用して
三手に分かれ街から脱出する
● 杖の星霊術士・リヒャルド(c05430)
●戦闘前
接触役として、予め屋敷内に侵入。
私は音楽家のお付きと言うか門下生役として、お二人(マーヤさん、ラズリィさん)の後について行くと言うスタンスをとろうと思います
スタンスがスタンスなので、自分から積極的に芸術家の方達に話しかける事はせず、お二人の会話を助長させるといった形にしようかと
突っ込まれた時は「すいません、お喋り好きでー」といった感じに誤摩化せたら
情報は決して聞き逃さない様に、脱出経路を確保する事を忘れない様に注意しましょうかー。
●戦闘
●モーガン班
待機組と合流後は出来るだけ気付かれない様に、そっと後ろの方へ移動、戦闘位置に
戦闘の際は、星霊のせーちゃんを呼び出し、基本的にHPの減りが大きい方から、星霊スピカを駆使して回復役に努めます
私のHPが3分の2を切った時もせーちゃんに助けてもらいましょうか
せーちゃんが倒れた際は、マジックミサイルで射撃
戦闘終了後は予め確保した退路を使い、速やかに撤退
<リプレイ>
●序曲「私に会いたいというのは君らかね?」
豪邸と呼ぶに相応しい館の玄関先。
使用人に取り次がれた三人の訪問者が、モーガンと対面していた。
パトロンとしてこの界隈では有名なモーガンの噂を聞きつけた芸術家の卵からの売り込みは、別段珍しいことではないようだ。
「この天才の演奏が聴けるキミはなんて幸せなんだろう。ボクの後ろ盾にしてあげるにやぶさかではないよ!」
「――あー、私達は奏者として大成したいと志しているのだが」
空気を読まない竪琴の魔曲使い・マーヤ(c03881)の口を慌ててふさぎ、ソードハープの魔曲使い・ラズリィ(c00727)は言葉を選んで畏まる。ここで相手の機嫌を損ねるわけにはいかない。
派手な格好のラズリィと、ボーイッシュなマーヤ。どちらも見た目は申し分ないのだが、胡散臭そうにモーガンは二人の姿を品定めする。
「……で、そちらは?」
二人の後ろに控えている女性に、じろりとモーガンは顔を向けた。
「私はお二人のお付き役でございますー」
乾いた笑みを浮かべたまま、杖の星霊術士・リヒャルド(c05430)は抑揚のない声で答える。
「……従者を養える程の者に、私の力が必要なのかね?」
「いや、まあ、それは……」
リヒャルドの自己紹介に不審を強めるモーガンに、ラズリィは言葉を濁す。
「まあ、よい。話くらいは聴いてやろう。中に入りたまえ」
あわや門前払いとなりそうであったが、モーガンの気まぐれにほっと胸を撫で下ろしつつ、三人は館の中へと足を踏み入れた。
「どうやら上手くいったみたいだね」
玄関のドアが閉まるのを視界に収めた爪の魔法剣士・レディオット(c05425)は、そしらぬ顔で館の前を通り過ぎる。
ちらと見上げた館の外観は、どうやらレディオットの美意識に適ったようだ。
「それにしても大きな家だなぁ……掃除するのも大変そうだよ」
庭が広いだけでなく、敷地に占める建物の割合も大きい。
「――つまり、目の行き届かない場所も多い、と」
モーガン宅の敷地の外周を辿っていたハンマーの群竜士・アステリカ(c01249)は、こっそり塀越しに中の様子を伺っていた。
建物の裏口など人気のないところは少なくなく、隙を見て敷地内に入るだけなら容易だろう。
「まあ、今は目ぼしい侵入路に見当をつけておくだけで十分でしょう」
長居は無用とばかりに、アステリカはその場を離れた。
館の前は大通りに面しており、その先には路上で町人を前に竪琴のデモニスタ・アルレキノ(c04446)の姿があった。
「あなたもモーガンさんのところの?」
通りがかった町人が、道化た振る舞いで竪琴をかき鳴らすアルレキノに声を掛ける。
「いえいえ、ボクなんかまだまだ〜♪」
こうしていて気づいたのは、町でのモーガンの評判はけして悪くないということだ。
悪評と言えば道楽生活へのやっかみくらいのもので、芸術に理解のある人徳者という風評が中心だった。
「どういうことだろう……謎だ、神秘だ、不可思議だ」
真面目に考えているのかそうでないのか。歌いながらアルレキノは弦を弾いた。
「下見をしておいて正解だったな」
ざっと町の中を散策し終わった剣の魔法剣士・キース(c00638)は、一休みしようと足を止める。
立体的にも入り組んだ町並みは、余所者が一見しただけで把握できるものではない。
その分、人通りの少ない裏道も多く存在し、逃走に使えそうな経路に当たりをつけることができた。
「そうね、これで万が一追われる状況になったとしても、逃げ遂せる自信があるわ」
アイスレイピアの魔法剣士・ルカ(c01415)の自信ありげに頷いた。
「こんな白い格好の奴がいて、目立たなきゃいいんだが」
ふと自分の全身を見回して、キースはきまりが悪そうにする。
「……そろそろ時間よ。合流しましょう」
主観は人それぞれで、すれ違う町人にどう思われていたかは分からないが、心配ないだろうとルカは思うのだった。
●舞踏への誘い
「さすがボク。やっぱり天才だ!」
マーヤが触りの部分を聴かせただけで、モーガンの興味はそそったようである。暫しの滞在を許可され、そのための部屋も宛がわれた。
だが、いくら豪邸とはいえ、通常の部屋の広さで満足に戦うには如何せん人数が多すぎる。
「改めてちゃんとお聴かせしたいので、場所を用意して頂きたいのだが」
日が落ちるのを待って、ラズリィは館の地下にある小型の音楽堂へと館の主人を招き寄せた。
「私も忙しいのだ。準備が整ったら早く始めたまえ」
リヒャルドに付き添われて地下に現れたモーガンは、舞台に立った音楽家の姿を認める。
「……じゃ、始めるとしましょうか」
「――誰だ!?」
背後からの聞き慣れない声。モーガンは反射的に振り返る。
マーヤたちの手引きで事前に館内に侵入し、部屋の物陰に隠れていたハンマーの魔獣戦士・レイシア(c04366)たちだ。モーガンには突然現れたように感じたに違いない。
「どれもこれも、まるで覇気の感じられない作品ばかりだった……。気持ちがどっか、行っちゃってる」
館の中にあった絵画も、彫刻も、レディオットの感性にはまるで響かなかったようだ。
「まぁ、あたしは芸術とかはサッパリ分からないが。主観の押し付けは良くないよな」
首をひねりながら、大剣の群竜士・リン(c03761)はモーガンの反応を見る。
「――貴様ら、いったい何者だ。賊か。金が目的か」
「ボクらが賊なんて俗悪なものに帰属しているだなんて、心外だな」
アルレキノは言葉遊びを交えて、モーガンの言に憤慨を隠さない。
「芸術を愛する者には、芸術を守る使命がある。……その使命を以って、貴方の命、今此処で貰い受けるとするよ」
かちゃりと音を立てて扉に鍵を掛けたレディオットは、手甲の感触を確かめる。
次々に武器を構えるエンドブレイカーたちに、ようやく自分を倒しに来たのだとモーガンは理解した。
「芸術の何たるかを理解できぬ愚か者どもが、群れおって」
マスカレイドの仮面がすっと浮き出ると、怒気を放つモーガンの素顔を覆った。
ぼこぼこと隆起する筋肉。両手には無骨な武器を携えている。
「美を追究していたわりに、本人は美しくないのね」
変貌を遂げるモーガンの姿を注視していたルカは、侮蔑の言葉を口にした。
●成敗!
「鎮魂曲をくれてやろう、モーガン!」
ラズリィとマーヤが爪弾く誘惑魔曲の二重奏が、モーガンの聴覚を直接侵す。
「気に入って貰えたかな?」
「ぐぅぅ……き、気に入らん!」
ふらつく体に気合を入れて踏ん張ると、高速で繰り出されたモーガンのノミが、眼前のルカの太腿を深く貫いた。
「これがマスカレイドの力……」
反撃とばかりに氷刃が舞うが、モーガンの右腕の肉を浅く裂くに留まる。
「ありがとう。助かったわ」
「どういたしましてー。ね、せーちゃん」
星霊スピカに傷をなめられて気力を取り戻したルカは、リヒャルドに感謝する。
だが、いかに仲間の後ろ盾があるといえども、一人でこの前線を持ち堪えるのは流石に厳しい。
殊勝にも冷静な表情は崩さないが、ルカは味方の早い増援を心待ちにせずにはいられなかった。
揺らぐ虚空から姿を成したのは3体のひとがた。
呼び出された配下の戦士たちだ。その武器は大きなパレットナイフのような形状だが、刃は鋭く灯りを照らし返す。
「それじゃ、いくわよー!」
先陣を切ったレイシアは戦士へ一気に詰め寄ると、その勢いを殺さずに半回転してハンマーを穿った。彼女の豊満な胸が惜しげも無く揺れる。
ぼこりと側頭部に減り込むハンマーの、握った柄の先から確かな手応えを感じるレイシア。
しかし、何事も無かったかのように仮面の戦士は得物をレイシアへと伸ばした。
「不気味ね……」
目にも留まらぬ速さでレディオットの鉤爪が、別の戦士の体を切り刻む。
やはり仮面からは感情が感じられず、外見上は弱っているようには見えない。
「でも、確かに効いているはずだ」
リンは力任せに大剣を振り回し、戦士の胴を薙ぎつけた。重い衝撃に体躯がくの字型に折れる。
「もう一発、食らいやがれ!」
余勢を駆って、返す刀で逆側の胴を薙ぎ払う。体ごと弾き飛ばされた仮面の戦士は、ごろごろと転がって壁に叩きつけられる。
「待ってろ、すぐに加勢するぜ――」
ぴくりとも動かなくなったのを確認し、リンは劣勢のルカたちに意識を向ける。
当たり前ではあるが仮面の戦士も倒れないわけではないと判り、エンドブレイカーたちは打って出た。
地下のホールに激しい音が鳴り響く。戦士と二度三度と切り結び、キースは剣を構え直す。
「なかなかやるな、ならば……これでどうだ!」
再びの攻撃で、キースの剣は戦士の体を深々と十字に斬り裂いた。
●血の芸術
「這い蹲ってぶッ潰れるがいいですよ、豚」
アステリカが最後の戦士の足の甲を砕き潰してとどめを刺すと、孤立したモーガンとの形勢は完全に逆転した。
エンドブレイカーたちに取り囲まれたモーガンは、至る所に傷を負いながら、それでも不敵な態度を崩さなかった。
マーヤたちの魔曲に警戒心を奪われたのか、あるいはマスカレイドの力に溺れているのか。随分と気が大きくなっているようだ。
「おまえたちも私の色で染めてくれる!」
口から吐き出された色彩に富む液体は、モーガンに迫らんとする者たちに容赦なく降りかかった。
「くッ……汚いものを飛ばしやがらないで貰えますか?」
毒の疼きを体内に感じ、アステリカは顔をしかめる。
「リヒャルド、回復が必要だよ!」
「心得ています――せーちゃん、お願い」
危機を感じ取ったアルレキノは、不協和音を奏でて牽制しながら、星霊の力を借りられるリヒャルドを促した。
リヒャルドに喚び出された星霊スピカは、宙を駆けてレイシアの周囲をくるくると回る。
舞い散る星の光が、彼女の毒を浄化していった。
「芸術は、血で描くんじゃないわ、心で描くのよ!」
似合わぬ言葉と思いつつ、叫ぶレイシアはハンマーをしならせる。呼応するように顕現する彼女の魔獣の力たる腕の鱗、竜の瞳。
思いは力となり、連続でモーガンを打ちつける。
「――私は、私の芸術をっ」
「だから押しつけがましいんだよ。お前が殺した奴の気持ちを味わえッ!」
腰を入れたリンからの挟撃が、背中を強かに打ち据える。
間髪入れずにレディオットの爪がモーガンの服ごと胸を引き裂いた。
蓄積するダメージに、モーガンはついにその膝をつく。
「無様ね……もう、見ていたくないわ」
最後に見たのは、残像を伴うルカの神速の突き。
「がぁ……わた……し、の」
心臓を三度串刺しにされ、モーガンの息の根は止まった。
力尽きたモーガンは元の人間の姿に戻り、マスカレイドの仮面は霧散する。
配下のマスカレイドたちもいつの間にか姿を消していた。
「んしょ……っと。じゃ、脱出しましょうか」
ハンマーを肩に担ぎ、レイシアは扉を開けて上への階段を昇る。
どうやら館の住人は誰もこの騒ぎに気づいていないようだ。音楽堂が館の生活空間からは少し離れていたのも幸いしただろう。
物取りと見せかけるための細工を施そうと考えていたアルレキノだったが、地下にはあまりに戦闘の形跡が色濃く残ってしまっているため、やむなく断念した。
どうせこの町にはもう用は無いのだ。今は一刻も早く、この現場を立ち去らなければならない。
「芸術についてはよく分からんが、人の命を奪うほど崇高なものなのかね?」
最後にちらっとモーガンの死体を振り返り、キースは問いかけるように呟いた。
手筈通りに三班に分かれたエンドブレイカーたちは、それぞれ別の方角から町を脱出する。
「労働は大嫌いだけど、こういう仕事ならまたやってもいいわ」
仕事をやり遂げた満足感に高揚する気持ちを抑えて、ルカは夜風を切ってひた走った。
「熱が冷める前に、即興で唱わせて貰っていいかな?」
「はいはい、後にしましょうねー」
「ええっ」
マスカレイドの驚異を退けた勇者の物語――つまり自分たちの物語を唄おうとしたラズリィだったが、薄っぺらくリヒャルドにいなされる。
(「モーガンの力が無くても、世間に認められる様な芸術家になれる事を願ってるぜ……」)
心の中でこっそりと、リンは残された若き芸術家たちにエールを贈るのだった。